船舶に装備される主機関(推進用機関)以外の機器で,通常照明機器や配電盤などの電気機器及び電子機器を除いたものを補機といっています。補機に対する適応油種を示します。なお,補機の種類は非常に多いので,ここではディーゼル機関を主機関とする場合の代表的なもののみを取り上げました。
船舶の補機と潤滑油について
船舶の補機とは何ですか。また,それにはどのような潤滑油が必要でしょうか。
解説します。
船舶に装備される主機関(推進用機関)以外の機器で,通常照明機器や配電盤などの電気機器及び電子機器を除いたものを補機といっています。
補機の用途には,
(1)船の推進用
(2)衛生・保安・居住用
(3)貨物の冷凍通風用
(4)荷役・係船用
などがあります。
一方,補機の装備位置により機関室補機と甲板部補機などに,また使用方法により航海中または停泊中に連続的に使用する補機と間欠的に使用する補機に分けられます。
補機の装備内容は,貨物船,タンカー,客船,漁船などの船舶の種類及び規模,また搭載される主機関の種類がディーゼルかタービンかによっても異なりますが,船舶の近代化によって補機の種類や装備台数は増えてきています。
装備される補機の種類によって当然使用される潤滑油は違ってきます。これらの機器は個々のメーカーから供給されるため,指定潤滑油の種類及び等級は多岐にわたり,一隻の船舶で使用される潤滑油の種類は相当の数に及んでいます。省人・省力・省スペース・省経費などから油種の統一化をはかることが肝要です。このような観点に立って,補機に対する適応油種をある程度整理して以下に示します。なお,補機の種類は非常に多いので,ここではディーゼル機関を主機関とする場合の代表的なもののみを取り上げました。適応油種の品質及び粘度などはJIS規格によって表示しましたが,補機の型式(摩擦面の滑り速度,接触面圧,温度等が関係する)及び航行海域など使用環境温度によって選定する必要があります。
補機の潤滑個所と適応油種(ディーゼル船の場合)
機械名
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潤滑個所
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適応油種
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遠隔操縦装置 |
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タービン油2種ISO VG 32~68 |
ターニング装置 |
密閉歯車 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
開放歯車 |
ギヤコンパウンド1種2号 |
中間軸受 |
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内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
船尾管軸受 |
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内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
発電機関 |
システム |
内燃機関用潤滑油舶用3種3~4号 |
過給機 |
システムと同じまたはタービン油2種ISO VG 32~68 |
非常用発電機関 |
システム |
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
空気圧縮機 |
シリンダ |
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
システム |
シリンダと同一またはタービン油2種ISO VG 32~68 |
燃料油清浄機 |
ギヤケース |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
燃料油移送ポンプ |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
潤滑油清浄機 |
ギヤケース |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
潤滑油ポンプ |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
清水ポンプ |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
雑用水ポンプ |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
サニタリポンプ |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
ビルジポンプ |
軸受 |
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
冷凍機 |
システム |
冷凍機油3種または5種ISO VG 32~68 |
工作機械 |
ギヤケース |
タービン油2種ISO VG 32~68 |
通風機 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
操舵機 |
|
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
ジャイロ |
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タービン油2種ISO VG 32~68 |
舵頭軸受 |
水平軸受 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
垂直軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
ウインドラス |
油圧作動油 |
タービン油2種ISO VG 32~68 |
開放歯車 |
ギヤコンパウンド1種2号 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
ムアリングウインチ |
油圧作動油 |
タービン油2種ISO VG 32~68 |
密閉歯車 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
開放歯車 |
ギヤコンパウンド1種2号 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
ハッチカバー |
油圧作動油 |
タービン油2種ISO VG 32~68 |
密閉歯車 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
弁遠隔操作装置 |
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タービン油2種ISO VG 32~68 |
デッキクレーン |
旋回部 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
ホイスト |
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
開放歯車 |
ギヤコンパウンド1種2号 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
舵梯ウインチ |
密閉歯車 |
ギヤー油 ISO VG 150~220 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
ボート用ウインチ |
オイルポイント |
内燃機関用潤滑油舶用3種3号 |
軸受 |
転がり軸受用グリース1種2号(リチウム) |
フロートゲージ |
オイルシール |
タービン油2種ISO VG 32~68 |
ワイヤロープ |
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ギヤコンパウンド1種2号 |
|
<参考文献>
*1. 「舶用機関計画便覧」 日本舶用機関学会,(1969)
*2. 燃料潤滑油研究委員会「船用使用潤滑油種類の統合に関する調査研究報告」 日本舶用機関学会,(1978)
*3. 「JISハンドブック 石油」 日本規格協会,(1993)