アウトボードエンジン油には,2サイクルエンジン油,4サイクルガソリンエンジン油(船外機用),ディーゼルエンジン油(船外機用)などがあります。
アウトボードエンジン油
アウトボード(船外機)エンジン油の規格,性能について教えて下さい
解説します。
欧米では船外機の多くはレジャーに用いられております。わが国でもレジャー用としての需要が増えてきていますが,現在でも主な用途は浅海ならびに湖における漁業などの業務用です。表1に船外機出荷台数の推移を示します。
表1 船外機の出荷台数
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わが国は船外機,PWC(Personal Watercraft:水上オートバイ)用エンジンの世界需要の約半分近くを製造し,その相当数を輸出しております。船外機,PWCがレジャー用に広く普及している米国ではEPA(米国環境保護庁)が船舶エンジン排出ガス規制を制定し,1998MY(モデルイヤー)から船外機に対して実施しております。また,ヨーロッパにおいても同様の規制が実施される状況にあります。
わが国においても環境保護を重視する立場から,(社)日本舟艇工業会が国内で販売する船外機,PWCなどの舶用エンジンの排出ガス自主規制を設け2000MYから実施しており,排出ガス中の炭化水素と窒素酸化物を段階的に減らし,2006MYには規制前の25%に減らすこと(75%削減)を目指しております。
船外機の主流である2サイクルエンジンで,この厳しい排出ガス規制をクリアーするのは技術的に難しく,直噴式2サイクル技術,排出ガス処理触媒装置の開発が必要と思われます。しかし,これら新技術導入およびメンテナンスのためのコストアップにより,2サイクルから4サイクルへの転換が徐々に進行しております。なお,舶用ディーゼルエンジンに排出ガス自主規制は適用されません。
1. 2サイクルエンジン油
自動車排出ガス規制強化により軽乗用車の2サイクルエンジンが4サイクルエンジンへ切り替えられるまでは,軽乗用車用2サイクルエンジン油(2T油)が船外機にも使用されました。その後,船外機専用2T油の開発・商品化が行われました。船外機の燃焼ガスは水中へ排出されるので,海水,湖水の汚染を抑えるために生分解性良好なエステルを基油とする船外機油も実用化されています。また,(財)日本環境協会により1989年に始められたエコマーク商品認定は,潤滑油では2T油,作動油,グリースなどが対象です。そのエコマークを取得した船外機2T油が市場に登場してきております。
NMMA(National Marine Manufactures Assosiation:米国船舶工業会)は,1992年に船外機用2T油規格TC-W2を廃止して,リング膠着,潤滑性などの性能を向上させたTC-W3(表2)を制定しました。
表2 NMMA TC-W3規格の概略
出典:渡辺誠一,飛弾茂徳,潤滑経済,No.382(1998) |
わが国では2輪車用に開発されたJASO 2サイクルエンジン油規格のJASO M345-93が広く普及しており,その規格で分類された3グレードのうちJASO FB,FCが船外機2サイクルエンジンにも使用されています。表3と表4にJASO M345-93の概要を示します。
JASO M345-93で規定している硫酸灰分は0.25mass%以下ですが,多くの船外機用2Tオイルでは海水の汚染を避けるためその半分以下,船外機用生分解性2Tオイルでは硫酸灰分はゼロから0.01mass%程度に抑えられています。
表3 JASO M345-93試験法と基準指数
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表4 JASO M345-93規定の物理化学的性状
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2. 4サイクルガソリンエンジン油(船外機用)
前述の通り,排出ガス自主規制により船外機への4サイクルガソリンエンジン(4T)の使用が増加しております。この船外機4T用のエンジン油に関する規格はありませんが,API SJ級で10W-30,5W-30粘度グレードの使用例が多いようです。
3. ディーゼルエンジン油(船外機用)
船外機ディーゼルは主に漁業用に使われ,海外へも輸出されております。船外機ディーゼルエンジン油に関する規格はありませんが,API CD+(API CDより清浄性と酸中和能力が優れている)級で,10W-30粘度グレードのエンジン油が船外機メーカーから推薦されております。