歯車のピッチングの防止 | ジュンツウネット21

歯車のピッチング防止 には,どのような潤滑油が適当かをまとめると,(1)EHL油膜厚さ形成能,せん断安定性に優れる,(2)潤滑性,すなわち,表面粗さを小さく保持し,摩擦係数が小さく,かつ耐摩耗性に優れる。なお,過度に極圧被膜を生成する潤滑油には注意を要する,(3)酸化安定性および消泡性に優れる,となります。

歯車のピッチングの防止

歯車のピッチングを防ぐにはどのような潤滑油がよいのでしょうか。
解説します。

歯車や軸受のピッチングに対する潤滑油の影響に関しては,これまで多くの研究がなされ,実用経験やEHL(Elasto Hydrodynamic Lubrication;弾性流体潤滑)理論の進歩とも相まって,おおまかなことはわかってきました。得られた知見をまとめますと,おおよそ表1*1のようになります。

表1 ピッチングに対する潤滑油の影響と作用*1
関係特性
作用
影響(注1)
基材 粘度特性(粘度,粘度指数,粘度-圧力係数)
トラクション係数
EHL油膜厚さ  
吸着エネルギ 材料の表面エネルギの低下
-(注2)
潤滑性
+(注3)


油性向上剤 吸着エネルギ
転移温度
材料の表面エネルギの低下
潤滑性
極圧添加剤 反応性(耐焼付き性)
耐摩耗性,摩擦係数
過度の極圧被膜の生成
潤滑性
固体潤滑剤 形状
硬さ(対接触面)
粒子性
潤滑性
酸化防止剤 酸化防止性 材料の表面エネルギ低下の抑制
ポリマー(粘度指数向上剤,流動点降下剤) 平均分子量
せん断下の粘度
EHL油膜厚さの減少
-(注4)


粘度特性 EHL油膜厚さの減少
  材料の腐食と水素ぜい化
混入異物(摩耗粉,じんあい) 形状,硬さ 粒子性

(注1)転がり疲れ寿命の延長に寄与する場合を+(プラス),反対に短縮させる場合を-(マイナス)。
(注2)炭化水素系の鉱油やPAOを基準にすると,エステルやPAGは-(マイナス)。
(注3)炭化水素系の鉱油やPAOを基準にすると,エステルやPAGは+(プラス),反対に,シリコーンは-(マイナス)。
(注4) 単に,基材+ポリマーは,基材に比べ粘度増加するので+(プラス)。

表1のように,ピッチング寿命に対し潤滑油成分は複雑に関与しますが,影響度の点からはEHL油膜厚さと表面粗さが最も大きい。両者の比(EHL油膜厚さ/合成表面粗さ)は膜厚比と称され,ピッチング寿命の指標として広く知られています。すなわち,膜厚比が大になれば,ピッチング寿命も長くなります。したがってピッチング寿命を延ばすには,まず第一にEHL油膜厚さ形成能に優れ,かつ表面粗さを小さく保持する潤滑油の使用が望まれます。

ところで,歯車装置の潤滑においては,歯車の種類や使用条件(装置によっては,歯車・軸受ばかりでなく,ポンプ,湿式クラッチ,湿式ブレーキなどの潤滑を兼ねる場合がある)に応じたギヤ油が選定・使用されています。そのため,使用基油や添加剤が相当な制約を受けていることも忘れてはなりません。すなわち,使用ギヤ油面から歯車のピッチング防止対策を施す場合,その対策は,ギヤ油に要求される他性能を低下させない範囲で,実施されなければならないことを知っておく必要があります。

以上のことを念頭に置いた上で,歯車のピッチング防止には,どのような品質性能の潤滑油が適当かをまとめますと,以下のようになります。

(1)EHL油膜厚さ形成能およびせん断安定性に優れる。
(2)潤滑性に優れる。すなわち,表面粗さを小さく保持し,摩擦係数が小さく,かつ耐摩耗性に優れる。なお,過度に極圧被膜を生成する潤滑油には注意を要する。
(3)酸化安定性および消泡性に優れる。

以下,EHL油膜厚さ形成能を向上させる手段や添加剤の応用による潤滑性の改善例などについて示します。

1. 合成油や高粘度指数鉱油の応用が有効

同一粘度でEHL油膜厚さを厚くするには,合成油の応用が有効です。二円筒ピッチング試験結果を図1*2に示します。ギヤ油の基油として一般に使用されているパラフィン系鉱油(BO)に比べ,ポリ‐α‐オレフィン(PAO)およびポリアルキレングリコール(PAG)の場合,EHL油膜厚さが厚いためピッチング寿命も長いと判断されました。合成油の油膜厚さが厚いのは,合成油の特性,すなわち,鉱油に比べトラクション係数が低く,かつ粘度指数の高いことに起因していると考えられます。ただし,合成油の場合,表2*3に示すような短所があるため,実用化にあたっては十分なる検討が必要です。

ピッチング寿命に及ぼす合成油の影響
図1 ピッチング寿命に及ぼす合成油の影響*2
表2 合成潤滑油の短所*3
PAO
PAG
エステル
ゴム収縮
添加剤溶解性
吸湿性
抗乳化性
塗料浸透性
熱・酸化安定性
添加剤溶解性
鉱油との相溶性
加水分解
吸水性
ゴム膨潤
タイプにより粘度が限定

近年,注目を集めている高粘度指数鉱油(VHVI)も,PAOと同程度のトラクション係数を示し(図2)*4,ピッチング寿命もパラフィン系鉱油に比べ長い(図3)*5。酸化安定性もパラフィン系鉱油に比べ良好なため,VHVIはピッチング防止に対し有力な基油と判断されます。

トランクション係数に及ぼす基油の影響
図2 トランクション係数に及ぼす基油の影響*4
転がり疲れ寿命に及ぼす基油の影響
図3 転がり疲れ寿命に及ぼす基油の影響*5 〈基油の動粘度:いずれも約20mm2/s(40℃)〉

2. 固体潤滑剤や有機モリブデン化合物の応用が有効

工業用ギヤ油の分野においては,固体潤滑剤であるグラファイト*6や有機モリブデン(Mo)化合物*7を応用した,いわゆる省エネルギ型ギヤ油が主流ですが,これらギヤ油は硫黄/リン(S/P)系ギヤ油に比べ,摩擦係数が小さいだけでなく,耐ピッチング性にも優れています。これは図4*8に示すようにS/P系ギヤ油に比べ歯面粗さが小さいことに起因していると思われます。

歯面の粗さ変化(大歯車歯元・歯すじ方向)
図4 歯面の粗さ変化(大歯車歯元・歯すじ方向)*8

以上,歯車のピッチング防止に対し,使用潤滑油の品質に焦点を当て,どのような潤滑油が有効かについて述べてきましたが,潤滑管理状況もピッチング損傷に大きな影響を及ぼします。

3. 潤滑管理面からのピッチング

歯車のピッチングを防ぐには,適切な潤滑油の使用の他に,潤滑管理面において以下のような対策を講ずるも重要かつ有効です。

(1)水やダストの潤滑油への混入を防ぐ。
(2)潤滑油に含まれる混入異物(水,摩耗粉,ダスト,錆,塗料片など)を極力取り除く。特に水が混入した場合,速やかに水切りなど脱水処理,場合によっては油交換を行う。
(3)給油量,給油温度,更油基準などを見直し,適正化する。

<参考文献>
*1. 松尾浩平:(社)日本トライボロジー学会 転がり疲れシンポジウム予稿集,(1993.9.6)111.
*2. S.Saeki,K.Matsuo,Y.Ooue & A.Yoshida:Proceedings of the Japan International Tribology Conference,Nagoya,(1990)1713.
*3. 松尾浩平:潤滑経済,(1995.5)20.
*4. 松尾浩平:未発表資料
*5. 松尾浩平・佐伯親・今戸啓二・宮川浩臣:(社)自動車技術会 学術講演会前刷集956,(1995.9)61.
*6. K.Matsuo,Y.Meda,M.Kurahashi & M.Miura:ASLE Proceedings-3rd International Conference on Solid Lubrication,(1984)19.
*7. 武居正明・山田寿夫・上野拓:日本機会学会論文集(C編),50,458 (1984)1834.
*8. K.Matsuo,A.Yoshida & F.Obata:Technishe Akademie Esslingen,6th International Colloquim Tribology.(1998.1)8. 11-1.

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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