ギヤー油は,潤滑系統に精密回路も持つ作動油などと異なり,微細粒子による油汚染が設備稼働に悪影響を及ぼすことが少ないため,多くは配管戻り部にストレーナ程度の簡便な浄油装置を設置し,粗大粒子を除去する程度の管理しかしていません。しかし,ギヤー油も微細粒子による汚染物が悪影響を及ぼす可能性があるため,油中の汚染状況を把握し,必要に応じて浄化することが大切です。本文では,ギヤー油の汚染原因について説明し,浄油方法などについて述べます。
Q1 ギヤー油はどのようにして汚れるのか,汚れたギヤー油を使うのはなぜ良くないのか教えて下さい。
1. ギヤー油の汚染原因について
使用することによって混入する様々な「異物」が「油汚染」に発展します。また,経時劣化などによって発生したスラッジと金属異物が反応して,固形物などを生成し,油の汚染に深刻な影響を与えます。このように,タンクあるいは配管中に存在し,減速機の性能に有害な影響を与える「汚染物」は,大別して次の物があります。
(1)混入物(塵埃,繊維質,シール材など)
(2)水分
(3)油劣化物
(4)摩耗粉
表1 ギヤー油に混入する異物の種類・混入経路別
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2.汚染による影響
外部より混入した砂などの硬い異物や大きな摩耗粉が歯面接触部に介入すると,歯面のすべり方向(歯元から歯先)に沿って,すじ状に磨かれたような傷がつくことがあります。これをアブレッシブ摩耗(図1)といい,進行するとさらに大きな傷が発生するスクラッチング摩耗(図2)へと発展します。また,水分が混入した場合,配管やタンク天板での錆発生の他,酸化スラッジとの混合による乳化スラッジの生成や潤滑性能の低下などが懸念されます。ギヤー油の場合,特に硬質異物による影響が大きく,ギヤー歯面だけでなく軸受の摩耗やシールの摩耗も促進するため,屋外に設置されている減速機などは特に注意が必要です。
図1 アブレッシブ摩耗
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図2 スクラッチング摩耗
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Q2 汚れたギヤー油をきれいにする浄油方法を紹介願います。
1. 浄油方法の種類について
一口に浄油といっても,浄油方法には非常に多くの種類があります。これらのうち,ギヤー油に適用可能な浄油方法をいくつか説明します(表2)。
表2 ギヤー油に適用可能な浄油方法
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(1)遠心分離法(図3)
遠心分離を行い,水やスケールなどを沈降,分離します。処理量は比較的多く,短時間で効果が現れる他,比重差の大きな物質に特に有効で,スラッジ等も分離が可能です。ただし,細かい粒子の除去は難しく,設置費が比較的高価であることが難点です。
図3 遠心分離方式の構造例 |
(2)磁気ろ過法(図4)
磁力により磁性体の異物を捕捉します。タンク底部に固定して摩耗粉を捕捉するマグネットセパレータなどが代表例です。比較的安価で,稼働時のメンテナンスもほとんど不要ですが,非磁性体の除去が困難なため,多くは深層ろ過法や表面ろ過法などの他の浄油方法と併用しています。なお,捕捉物質の再浮遊を防止するために設置位置は戻り配管や給油配管から離れた個所にすることが望まれます。
図4 磁気ろ過方式の例 |
(3)表面ろ過法(図5)
多孔質のフィルタを使用して浄油します。フィルタ形状や材質は多数あり,一般的にろ孔を細かくすると捕捉率は上がります。しかし,ろ孔が細かいほど目詰まりが早くなるため,用途に応じたタイプを選択することが重要です。メンテナンスコストは比較的低めですが,フィルタの選定を誤ると浄化効果が低下するので注意が必要です。
図5 表面ろ過方式の構造例(ペーパータイプ) |
(4)深層ろ過法(図6)
ロール状のフィルタや深層フィルタを使用して浄油します。一定の圧力をかけてろ過を行うため,汚染物質の捕捉効率は比較的良好です。しかし,圧力損失が大きいためろ過時間が長くなる他,固体潤滑剤などの油中添加剤が吸着される場合があります。フィルタ寿命は比較的長く,ある程度の水分除去も可能です。アモルファス合金を用いた磁気ろ過法を併用し,磁性体の捕捉率を向上させたタイプもあります。
図6-1 深層ろ過方式の構造例 |
図6-2 深層ろ過方式(複合型)の構造例 |
(5)静電浄化法(図7)
高電圧の静電気による電界で油中の異物粒子を吸引分離します。ろ過効率は良好で,かなり細かい粒子まで捕捉可能ですが,水分はほとんど除去できません。また,消泡剤などの油中添加剤が吸着される可能性がある他,ギヤー油の場合,粘度が高いので処理量が少量となり,効果が現れるまで時間がかかります。
図7-1 静電浄化方式の原理 |
図7-2 静電浄化方式の構造 |
(6)静置沈澱法
タンク内で油を静置し,油中の固形物を沈降させる方法です。戻り配管から給油は移管までに達する時間が長いほど効果があるので,両方の配管の間に仕切版を設置し,何層かに分けて静置させることで効率を上げます。設置時に費用がかかりますが,維持費はほとんどかからないため,経済的な方法といえます。ただし,微粒子の沈降が困難であり,他の浄油方法と併用することが望まれます。
2. 浄油の現状
通常,機械にはあらかじめろ過装置が設置されていますが,ほとんどの場合,ワンパスでろ過効果が大きい「表面ろ過」が採用されています。また,ギヤー油は高粘度のものが多く,ろ材は耐久性を考慮して多くはステンレス製のワイヤーメッシュエレメントが使用されています。このろ材はろ過面積が大きく,洗浄による再使用が容易ですが,ろ孔を均一に管理することが難しく,規定ろ孔よりも大きな異物が通過してしまうことがあります。そのため,油分析を定期的に実施し,油汚染の進行状況を把握することが重要です。
また,浄油方法については前項で説明しましたが,実際にギヤー油を浄油機でろ過している設備は多くありません。特に高粘度油は,グリースと同様にろ過が困難であり,また,ギヤー自体から発生する摩耗粉が他の機構よりも比較的多いことから,更油による処置が一般的に採られています。特に,数リットルしかタンク容量がない減速機にその傾向が見られますが,突発故障の防止や更油作業費を考えると,最近では定期的な汚染管理の方がメリットがあるとされています。
(1)汚染状況の分析方法
ギヤー油の汚染状況を分析する方法は,油を溶剤(通常はノルマルペンタンを使用)に溶解し,油中の不溶性分量を測定する方法が一般的です。ノルマルペンタンに不溶の物質は,油の劣化生成物や摩耗粉の他,さびや塵埃などの外部混入物があります。しかし,不溶解分が上昇し,管理基準値を超えることが比較的少ないため,定期分析に摩耗粉などの汚染物質が可視管理できる「フェログラフィ分析診断」を併用することが好ましいでしょう。一般性状分析とこれらの分析法を併用することでさらに分析精度は向上します。
3. 浄油を実施するうえでの注意
深層ろ過法や静電ろ過法を実施した後は添加剤も吸着されている場合があるため,必要に応じて消泡剤などを添加します。
浄油機を外付けで設置する場合,浄油機への油採取場所はラインからの戻り配管付近から採取するように設置します。浄油機からの排出場所は,ラインへの給油配管付近に戻るよう設置することで,効率の良い浄油を実施することが可能となります。また,油の早期浄化を心掛けることで機械寿命の更なる延長も可能となります。
浄油機を設置した後も,油面やエアブリーザなどの点検を怠らないようにするとともに,フィルタ交換などが必要な浄油機に関しては,決められた周期で点検を実施する必要があります。
汚染原因が判明した場合,早期にその対策を講じるとともに,それぞれの汚染状況に応じた最適な浄油方法を選択していくことで,様々なトラブルを防止することができます。
油の浄化をすることも大切ですが,油に異物を混入させないように努力することが,さらに大切であることはいうまでもありません。