油圧装置を使用することになり,作動油の浄化が特に必要であると装置メーカーからいわれています。しかし油圧ポンプには,作動油入口に通じる個所にゴミを侵入させないためのフィルタがあります。これにより油圧ポンプの故障は防止できるのではないでしょうか。
解説します。
1. 油圧ポンプの故障防止
油圧ポンプが作動油を吸入する通路をサクションラインと呼んでいます。ここから入ってくる作動油の中にゴミが混入していれば,油圧ポンプはさまざまな不具合現象を生じてくることが考えられます。そこでゴミを吸い込まないように設置されているのがサクションフィルタ(サクションストレーナともいう)です。
ところがサクションストレーナだけでは,油圧ポンプあるいは油圧装置を保護することはできないのです。
それは油圧ポンプのサクションラインに使われているサクションストレーナでは,完全に作動油中のゴミを取り除くことができないからです。
一般的に油圧ポンプ保護用のサクションストレーナは,ゴミを捕かくするための網の目の大きさが大きいためです。そのサイズは1/10mm程度(100ミクロン)ですから,これよりも小さいゴミは容易にサクションストレーナを通り抜けて油圧ポンプの中へ入って行くのです。
油圧ポンプの中の金属同志が滑り合っている部分に作動油中の金属粉や砂塵のように,硬いゴミが噛み込んでしまえば,焼き付きによって油圧ポンプは破壊してしまいます。
サクションストレーナは,このように突発的に油圧ポンプが壊れてしまうことのないように,作動油中の比較的に大きなゴミ(100ミクロン程度以上)の捕かくを目的としています
なぜサクションストレーナの網の目を微細なものにしないのかと,疑問が生じるでしょう。
その理由は,油圧ポンプが油を吸入しにくいようになるからです。サクションストレーナの網の目を微小にすることで,油圧ポンプの吸入抵抗が増大して,今度はキャビテーションという現象により,油圧ポンプが破壊に至るのです。
サクションストレーナの網目を微細にして,サクションストレーナを巨大なものにするならば,今度は巨大な体格を必要として,経済的になりたちません。
サクションストレーナを通り抜け,油圧ポンプに入り込む微細なゴミは,突発事故の原因とはならなくても,油圧ポンプの機能を次第に低下させて行きます。それは,次のようなよく知られている摩耗現象が油圧ポンプの中で起こるためです。
(1)凝着摩耗
(2)ざらつき摩耗
(3)エロージョン摩耗
2. 油圧バルブの故障防止
油圧装置の典型的な回路例を図1に示します。
図1 油圧システム |
(2)の圧力調節バルブ,(3)の方向切替バルブ,(4)の流量調整バルブは,それぞれ油圧装置の力,向き,速度をコントロールする役目をもっています。
そして,これらはその内部にスプリングと圧油,圧油と圧油,電磁力と圧油が向かい合って力比べをして,図2,図3,図4の可動部品の動きによって仕事をします。
図2 圧油 対 ばね |
図3 圧油 対 圧油 |
図4 圧油 対 電磁力 |
可動部品とボディの隙間,可動部品とシート部の隙間はいずれも極端に小さいのが油圧装置に組み込まれている各種バルブの特長です。隙間の大きさはサクションストレーナが捕えようとしている100ミクロンよりもはるかに小さく,数ミクロンから10数ミクロンが多いのです。このようなサイズのゴミがサクションストレーナの網目を楽々と通り抜け,しかも大量に油圧装置内に流入すれば,それぞれの油圧バルブの微小隙間に入り,誤動作,作動不良,機能低下を起こしてしまうのです。せっかく有効な機械・装置の駆動手段であるはずの油圧システムが,信頼性のないものとなります。
3. シール材の摩耗防止
図1において(5)の油圧シリンダは,油圧システムの目的である仕事をつかさどる機器です。
チューブとピストン間にはパッキン,ロッドの出入部にはダストシールがあり,それぞれ圧油を密封し,ダスト侵入を防いでいます。
ピストン・ロッドの移動により仕事をする油圧シリンダのパッキン材料が,作動油中の微細なゴミにより摩耗をすることになれば,油圧シリンダは機能を失ってしまうのです。
4. 油圧システムの作動油の浄化の必要性
油圧ポンプ手前に設置されているサクションストレーナは,油圧ポンプの突然破壊を防止するためには,確かに有効といえます。しかし油圧システムを構成する機器がすべて健康な状態でなければ,期待通りの仕事を果たすことができません。
そこで図1の油圧システム全体に循環している作動油を常時清浄な状態に維持し続けることが,油圧システムの必須条件となるわけです。