作動油の粘度は,油圧ポンプのしゅう動部の潤滑や,油圧機器特有の微小隙間による圧油密封作用の役割があります。消費電力量の節約のために,作動油の粘度を低いものにするわけですが,油圧ポンプの吐出す量が,ポンプ内部の漏れによって少なくなることに注意をしなければなりません。
低粘度作動油とエネルギー節約
作動油の粘度を低くすることによって,油圧装置の運転に要するエネルギーが節約できるそうですが,その理由を簡単に説明してください。また,実用上でどんなことに注意すればよいのでしょうか。
解説します。
作動油はISO VG 32とか,46がもっとも多く使われています。これは40℃で32センチストークスあるいは46センチストークスの粘度をもっているわけです。
このように粘度を持った流体が,油圧ポンプから押し出されて,油圧シリンダに入って仕事をするのですが,油圧回路中には種々の制御弁が組み込まれています。また,装置によっては配管系が長くなっているものもあります。
シリンダの力を定める圧力制御弁,シリンダの作動方向を定める方向制御弁,シリンダの速度を定める流量制御弁などや,これらを結ぶ管やホース,また接手類やフィルタなどが,油圧シリンダまでの道中に設置されています。
圧力を持った作動油が油圧ポンプから油圧シリンダまでに到達する間に,制御弁各種の内壁や管,ホース接手などの内壁を通過する際に,粘度による摩擦力で圧力降下を起こします。つまり,流れによる抵抗で圧力が損失するのです。
図1は流量制御弁の圧力降下例で,流れの量が大きくなるほど圧力損失が大きいことが分かります。図2は方向制御弁の圧力降下例です。圧力降下の大きさは流量だけでなく,作動油の粘度にも関係します。
図1 流量制御弁の圧力降下値例 (口径 11/4インチ) |
図2 方向制御弁の圧力降下値の例 (口径 11/4インチ) |
図2では,作動油の粘度が35センチストークスの時ですが,粘度が変化した場合は表1の係数を乗じた圧力降下値となります。
表1 粘度変化による圧力降下の変化(図2に対する係数)
|
粘度によって,圧力損失の程度は大きな差を生じます。このように,圧力が油圧ポンプから油圧シリンダまでの間に損失をする要因は図3のように,油圧装置に必ず制御弁,配管などが設置されているからです。
図3 油圧装置の回路例 |
圧力が損失する割合は,制御弁の種類,配管系統の口径,長さ,接手類の曲がりなどによって定まります。油圧装置は,油圧シリンダに仕事をさせることが目的ですから,途中までの圧力損失が大きいほど,油圧ポンプは余分に供給しなければなりません。したがって,逆に作動油の粘度を低くして,流動摩擦による抵抗を少なくすることによって,油圧ポンプの負担を軽くすることが考えられるわけです。つまり,消費電力量の節約です。
このような目的で,ISO VG 22,ISO VG 15などが効果的であると言われるようになりつつありますが,注意をしなければならないことを忘れてはなりません。
作動油の粘度は,油圧ポンプのしゅう動部を潤滑するための油膜を形成することや,油圧機器特有の微小隙間による圧油密封作用の役割があるのです。現在の油圧機器に対しては,ISO VG 32とか46がこのような役割に適合しているといえます。
消費電力量の節約のために,作動油の粘度を低いものにするわけですが,油圧ポンプの吐出す量が,ポンプ内部の漏れによって少なくなることに注意をしなければなりません。油圧ポンプの吐出し量は圧力が高くなるほど,また作動油の粘度が低くなるほど少なくなるのです。
さらに,制御弁の内部漏れも同様ですから,油圧ポンプの漏れ分と合算した量が多くなれば,油圧装置としての必要油量を保持するために油圧ポンプの体格を大きくすることにもなりかねません。これでは作動油低粘度化の意味が無くなることも考えられます。
低粘度作動油の潤滑性能も十分に見きわめておくことが必要です。低粘度になるほど油圧ポンプしゅう動部の摩耗は促進されやすく,所定のポンプ寿命まで稼動することが不可能となる場合もあります。
このようなことから,低粘度作動油を使用する場合には,油圧機器メーカー,油圧装置メーカーと事前に十分な相談をすることが必要でしょう。
さらに,低粘度作動油の種類によっては,引火点が低いために消防法による第四類第四石油類から外れて,第三石油類になることもあります。このため,規制数量が少なくなりますから,これまでの使用量に消防法上で問題の生じることも考えられますので注意を要します。