高含水作動液のマイクロエマルションタイプについて解説します。高含水性作動液は,「95%以上の水を含む作動液」程度の定義しかなく,エマルション系高含水作動液とソリューション系高含水作動液に分類されます。マイクロエマルションとは「より微細なエマルション」という意味であり,エマルションの一形態です。
マイクロエマルションとは
油圧作動油が将来,高含水作動液に代わるということが盛んに言われていて興味を持っています。高含水作動液の中には,マイクロエマルションというタイプのものもあるそうですが,このマイクロエマルションとは何か,他の高含水作動液と異なる点などについて教えて下さい。
解説します。
高含水性作動液は,石油ショックを契機とした省資源化,コスト低減および火災の危険性をさけるため,保安,合理化の一環として鉱油系作動油に代わり,広くかつ多量に地球上に存在し,入手しやすい天然物の水を主体として,わずか数%以下の添加物を加えることにより実用可能な作動液を利用しようという発想から生まれたものです。したがって「95%以上の水を含む作動液」程度の定義しかなく,その中身は漠然としており通常,次の二つに分類されます。
(1)エマルション系高含水作動液
O/W形エマルションで数%の油(主として鉱油),界面活性剤(乳化剤)および添加剤を水中に微細粒子した作動液
(2)ソリューション系高含水作動液
数%程度の水溶性の物質(無機塩類およびその他添加剤)を水中に溶解させた作動液
エマルションとはどんなものかをまず説明します。
エマルション
エマルションは乳(化)液ともいわれ,我々の身の回りに牛乳,クリーム,マヨネーズなど色々な商品の形で存在し,広く利用されています。このように乳化という現象は互いに溶解しにくい2種の液体において,一方が外相(連続相),他方が内相(分散相)となって比較的安定な系を形成している状態をいいます。しかし,エマルションには二つの種類があり,含水作動液として使えるのはO/W形エマルションで,水中に油などが乳化しているもの(水中油滴形ともいう)に限られます。
O/W形エマルションの例を顕微鏡で見ると図1のようで,円形で示したのが油の粒子です。粒子の大きさは均一ではなく,大小様々なものが混在しています。この粒子の大きさや均一性および安定性は,乳化のさせ方により異なります。こまかい粒子にエマルション化するには多大なエネルギーが必要で,これを助ける薬剤として界面活性剤(乳化剤ともいわれ石けんもその一つ)が使われます。界面活性剤はその名のとおり,2相間のエネルギー状態すなわち界面張力を小さくして,互いに混ざりやすくする役目をします。
図1 O/W形エマルションの例 |
粒子の大きさと安定性
エマルションの安定性に大きく影響するものとして分散している粒子の大きさがまずあげられます。粒子の大きさの比較例を表1に示しますが,エマルション粒子の大きさは一般に100~1μm(直径)で,これより小さくなると可溶化してきます。
表1 粒子の大きさの比較
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粒子の径と外観の差異を表2に示します。完全に均一にエマルション化したと思っても,実際には相当幅広い粒径分布を示し,なおかつ時間と共に徐々に凝集して粒径が大きくなっていきます。この場合,非常に細かい可溶化状態にある粒子は,時間を経てもブラウン運動という独特の運動をしており,乳化状態に比して径の増大傾向は小さく,微細な粒子のエマルションのほうが安定であるといえます。
表2 粒子径と外観
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乳化のしやすさは両液の界面張力をいかに小さくするか,すなわち界面張力をできるだけ小さくできる界面活性剤を選ぶと共に,ホモジナイザーなど撹拌効果のよい機械エネルギーの利用を考えねばなりません。しかし完全な界面活性剤選択法は現存せず,乳化のしやすさと安定性は多分に経験的要素によっています。乳化が不安定になるとまず,クリームの浮上(O/W)または沈降(W/O)が起こり,さらに進行して粒子が合体し,油(上層)または水(下層)の分離を起こします。乳化安定性の要因としては
―(1)乳化粒子の大きさ (2)油と水の比重差 (3)エマルションの粘度 (4)エマルションの保存条件(温度,時間など) (5)PH(液の酸性,アルカリ性の程度) (6)界面活性剤の選択 (7)界面活性剤の濃度― が考えられます。
マイクロエマルション
マイクロエマルションとは「より微細なエマルション」という意味であり,エマルションの一形態にすぎません。
高含水作動液としてマイクロエマルションタイプは,高含水作動液共通の低粘度(ほぼ1cSt以下),限定された使用温度範囲(5~55℃程度),不燃性などの他に,エマルションの安定性が良好でかつ耐摩耗添加剤をうまくエマルションの中に溶解させることで潤滑性が良好になるといわれています。エマルションが安定であるということは,逆に排水処理がしにくいということにもなりかねません。
油圧機器の構造,材質面の改善向上と相まって,最終的にはソリューションタイプにまで進むかもしれませんが,現状では最もバランスのよい有望な高含水作動液であると思います。