高速比例弁について,サーボ弁との比較,特長と用途を解説します。高速比例弁という名前は文字どおり高速で応答できる比例制御弁ということです。
高速比例弁
高速比例弁というのを聞いたことがありますが,どのようなものなのか簡単に解説してください。
解説します。
高速比例弁という名前は文字どおり高速で応答できる比例制御弁ということですが,サーボ弁と比較してみるとその特徴がよくわかると思います。写真1に高速比例弁の外観を,図1にその構造を示します。なお,高速比例弁という名称を用いているのは油研工業のESHGシリーズだけと思いますのでこれを基準にして説明します。
写真1 高速比例弁 |
図1 高速比例弁の構造 |
1. 比例弁とサーボ弁の比較
1.1 比例弁の概念
比例弁を大ざっぱに定義すれば次のようになります。
(1)電気信号によって遠隔制御できる弁です。
(2)電気信号の大きさに比例して圧力や流量を変化させることのできる弁です。
比例弁には圧力制御弁,流量制御弁,方向流量制御弁などがあります。高速比例弁は方向流量制御弁の仲間です。電気信号の+,-の極性により流れの方向制御を行い,電気信号の大きさによって流量制御を行います。
1.2 サーボ弁の概念
一般にサーボ弁といえばとくに指定しない限り,4ポートの方向流量制御形を指します。サーボ弁にも比例弁の定義はそのまま当てはまりますが,さらにクローズドループ制御で使える弁であるという条件が加わります。
クローズドループ制御で使えるということをもっと具体的にいえば次のようになります。
(1)応答性(追従性)がよいこと。
これは高速で変化する電気信号に忠実に追従できることです。この性能を表すのが周波数応答特性です。高速比例弁の中で高性能のものは図2に示すように数10Hz(-3db)の応答性を持っています。これは同程度のサーボ弁に匹敵する性能です。一般的な比例弁の周波数応答は10~20Hz程度ですから3~4倍の性能です。一般的比例弁は応答が低いので本格的なクローズドループ制御にはあまり用いられません。
図2 高速比例弁の周波数特性 |
サーボ弁はクローズドループ制御で精密な位置決めを行うときよく用いられます。
このように精密な位置決めができるのはサーボ弁が次のような性能を持っているからです。
(2)流量特性に不感帯がない。
(3)中立点圧力ゲインが高い。
サーボ弁はスプールとブッシング(スリーブ)を対にして精密加工し,図3に示すように,中立点近くで流れに不感帯ができないようにしています。しかし,図4に示すように高速比例弁や一般の比例弁には比較的大きな不感帯があります。
図3 高速比例弁の流量特性 |
図4 サーボ弁の流量特性 |
中立点圧力ゲインを簡単にいえば,定格の1%の信号変化で2つの出力ポートの圧力差がどれだけ大きく変化するかを表します。この性能が良いほど位置決め精度を高くできると考えてよいでしょう。この性能をえるためには,前述のような不感帯がないことと,弁本体(あるいはブッシング)とスプールの間のすき間を小さくし,漏れを小さくしなくてはなりません。
この2つの性能については圧倒的にサーボ弁が優れています。高速比例弁はサーボ弁に匹敵する応答性をもち,クローズドループ制御でも使用できますが,位置決め制御には不向きであるといえます。しかし,流量制御においてはサーボ弁を用いたときと同様の高性能を発揮します。
2. 高速比例弁の特長と用途
2.1 特長
(1)本格的サーボ弁をパイロットに用いた大流量の方向流量制御弁である。
(2)クローズドループ制御で流量制御をすることができる。しかし,不感帯があるため位置決め制御には不向きである。
(3)制御アンプを搭載しており手軽に使える。
(4)サーボ弁にくらべて安価である。
2.2 用途
(1)高速で作動するアクチュエータのショックレス制御用。
(2)アクチュエータの無段階速度制御,あるいは特殊波形による速度制御用。
(3)複数のアクチュエータの精密な速度同調制御用。
高速比例弁はサーボ弁と比例弁の特徴を合わせもった便利な制御弁です。