W/Oエマルションの特長と精密ろ過について解説します。W/Oエマルションは,微細な粒子の集合ですが,その粒子は固形粒子ではなく,変形自在な性質を持っていてしかも粒子状態を安定的に備えていると考えられます。
W/Oエマルションの精密ろ過
油圧装置に使われるW/Oエマルションは,微小な油と水の集合体であるようです。油圧装置の汚染管理に使用される精密ろ過方式では,W/Oエマルションが破壊されたり,変質してしまい,実用できないのではないかと思いますが,如何でしょうか。
解説します。
1. W/Oエマルションの特長
Water in Oil(油中水乳化形)作動液は,本来は混合する事のない水と油を,乳化剤の働きで均一な連続相にしてあり,しかも非常に安定しております。さらに摩耗防止剤,さび止め剤,腐敗防止剤が添加してあって,油圧装置駆動のための難燃性作動液としてさかんに用いられるようになってきています。
御指摘のように,ミクロ的にながめると,すなわちW/Oエマルションの作動液を顕微鏡で観察すると微細な粒子の集りである事が分かります。
このような粒子を,マンガ的にかけば図1のようになっているのです。
図1 W/Oエマルション粒子。水のまわりに乳化剤を架橋として油の微粒子が取り囲む。 |
市販されているW/Oエマルション作動液は,図2のような粒子径分布をしています*1。
最も多い粒子径は,1~2μm程度で,最大の粒子は5μmほどの直径となっています。
図2 エマルションの分散粒子のサイズ*1 |
2. 作動液W/Oエマルションの応用
W/Oエマルションは,他の水成形作動液や,合成形作動液に比較して,次のような利点がある事から,油圧分野の低圧,中圧で難燃性を必要とされる装置によく用いられてきました。
(1)難燃性作動液各種と比較すると安価
(2)難燃度が大きい
(3)潤滑性が良い
(4)廃液処理性が良い
油圧装置の使用圧力が次第に高圧化され,さらに高精度,高信頼性の要求が高くなってきている事から,このような装置の駆動にW/Oエマルションを用いる事が数多く検討されています。
油圧装置が高度のものになるほど,使用される作動液の清浄度管理が重要になってきます。そこで作動液の状態を均一で,清浄なものに維持し,管理を続けて行くために,精密なフィルタが,油圧装置に設置されるわけです。
3. 精密フィルタとW/Oエマルション
フィルタの精密度をあらわすのは,ISO(国際標準化機構)のマルチパスフィルターテスト法で定められた試験で得られるベータ値です。
マルチパステストでフィルタのベータ値が求められます。
W/Oエマルションは図2で示されたように大部分が粒子径1~2μm(ミクロン,千分の1ミリメータ)ですから,あまりろ過粒度の小さいフィルタでは粒子が壊れるか,組成が変わるのではないかと,疑問が持たれるようです。
実際にはβ12のフィルタ(12μmフィルタ)がW/Oエマルションの清浄度管理に用いられています。
W/Oエマルションの精密ろ過には,β3のフィルタ(3μmフィルタ)も十分に作動液の安定性を損う事なく使用できる事が確認されていて,清浄度管理が期待できます。
油圧装置では,W/Oエマルションが精密フィルタを1度や2度通過するだけではありません。
図3に示した油圧装置において,ポンプの吐出量が100L/min,装置全体の液量が500Lとすると,W/Oエマルションは5分間に1回のフィルタ通過となります。
油圧装置が24時間運転されると,24×60÷5=288となり,365日では,105,120回となります。
図3 油圧装置例 |
W/Oエマルションの安定性を損うというのは,水と油を主成分として均一な状態の相になっているものが,上部に油分が浮かび,下層に水分が沈降した状態に変化することです。
W/Oエマルションの安定性を評価する方法としては表1のように種々のものが考案されています。
表1 エマルション安定性評価法
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β3≧75(3μmフィルタ,ベータ値75以上)のフィルタを,図3の回路図中にあるフィルタ部に組み込んで,100,000回を通過させたW/Oエマルションについて表1の遠心分離テストと高温安定性テストについて評価を行い,変化のないことが知られています。
W/Oエマルションは,微細な粒子の集合ですが,その粒子は,通常の作動液中にしばしば見られる鉄粉,赤さび,砂じん等のような固形粒子ではなく,変形自在な性質を持っていてしかも図1の粒子状態を安定的に備えていると考えられます。
<参考文献>
*1 八木政太郎:作動油ハンドブック,潤滑通信社,p.148~p.152,1985