ミクロプール潤滑による潤滑油の低粘度化 | ジュンツウネット21

引抜き加工でのミクロプール潤滑のメカニズムについて解説します。摩擦界面でのミクロプールメカニズムを効果的に利用することが,湿式潤滑方式の引抜き加工において,潤滑油の低粘度化と摩擦の低減の両立を可能にします。

ミクロプール潤滑による潤滑油の低粘度化

潤滑油の低粘度化の方法としてミクロプール潤滑がありますが,そのメカニズムについて教えて下さい。
解説します。

引抜き加工の潤滑法には,乾式潤滑と湿式潤滑があります。前者ではりん酸亜鉛被膜処理後に粉末潤滑剤(金属石鹸等)が用いられます。一方後者においては,各種の油性剤あるいは極圧剤等の添加された,いわゆる工作油と称する潤滑油を用いて加工が行われます。この場合一般的には,加工状態が厳しくなればなるほど潤滑油の粘度を高くするというのが常識です。特に最近の新素材には焼き付きを発生しやすい材料が多く,より高粘度の潤滑油が使用される傾向にあります。しかしここで,後工程での洗浄を考えれば,低粘度油の使用が望ましいことはいうまでもありません。

1. 加工中の工具と材料間への潤滑油の導入

引抜き加工では,実際に潤滑油が必要なのは,工具と材料が摩擦し合っている摩擦界面においてです。しかし,この部分に外部から潤滑油が直接供給されることはまれで,多くの場合は,この摩擦界面の入口付近に供給されるだけです。したがって,いかに潤滑性に優れた潤滑油を使用しても,摩擦界面にこれらの潤滑油が持ち込まれなければ,何の効果も期待できません。摩擦界面に導入された潤滑油の量の多少が工具と材料との間の摩擦に大きな影響を及ぼすことを考えれば,この導入機構の理解は重要なことです。以下に,代表的な導入機構を2つ示します。

(1)流体的な圧力効果による導入

引抜き加工では,主としてくさび効果が作用します。図1は,引抜き加工中の工具入口部で生じるくさび効果の状態を示したものです。

くさび効果による潤滑油の導入
図1 くさび効果による潤滑油の導入

まず,材料がU1の速度を持ちながらくさび角αで工具に接近します。工具入口に近づくにしたがって,塗布された潤滑油の圧力(P1)はくさび効果によって摩擦界面の面圧(P0)に等しいまでに高められます。このような状態となって初めて,潤滑油は工具と材料との摩擦界面に入り込むことが可能となります。この場合,加工速度が大きいほど,また摩擦界面の面圧が低いほど(変形抵抗の小さい材料ほど),さらに,くさび角が小さく潤滑油の粘度が高いほど持ち込まれる潤滑油の量(摩擦界面入口に形成される油膜厚さHと考えてよい)は多くなることが理論的にも示されています。

このような流体力学的な導入効果を念頭に置けば,引抜き加工においては多くの場合,高粘度油ほど潤滑油の導入量が多くなり,この結果,加工中の摩擦が小さくなることは容易に理解できるでしょう。引抜き加工において,加工が厳しくなると高粘度油が使用されるようになるのは,この理由によるものです。

(2)材料表面の凹凸による導入

材料の表面には小さな凹凸があり,その凹部に溜まった潤滑油は,工具と材料が接触する時に逃げる隙間がないと機械的に凹部に封じ込められて摩擦界面に持ち込まれます。この導入機構は,特に低粘度の潤滑油を使用する時,すなわち,くさび効果だけでは十分潤滑油を持ち込めないような時に効果があります。材料の表面を酸による腐食,ショットピーニング,あるいはサンドブラスト等によってあらかじめ粗くしておくと,摩擦が小さくなるのはよく知られたところです。

この材料表面の凹凸による潤滑油の導入効果を積極的に利用することが,引抜き加工において潤滑油の低粘度化を実現し得る第1の重要なポイントとなります。

2. 摩擦界面での潤滑機構

前項の(1)に示したような流体力学的な潤滑油の導入機構が効果的に作用して,大量の潤滑油が摩擦界面に持ち込まれたとしても,引抜き加工では特殊な条件を除いて,摩擦界面全面に連続した流体潤滑膜が形成されることはまずありません。したがってその工具と材料との接触模型は一般的に図2に示すような接触状態となります。図において,工具によって平坦化された部分(A1~A4)は境界潤滑が支配的な状態にあり,よほど境界潤滑性の優れた潤滑油を用いない限り,工具と材料との間に金属結合(αA1~αA4)も生じます。一方,潤滑油が封じ込められている部分(B)をミクロプールと呼びます。この状態は,ミクロプールの周囲に工具と材料との接触によりメタルシールが形成され,このシールによって潤滑油が封じ込められていると想定すれば理解しやすいでしょう。

工具と被加工材との接触モデル
図2 工具と被加工材との接触モデル

引抜き加工の潤滑の特長の一つとして,このミクロプール中の潤滑油の挙動をあげることができます。すなわち,ミクロプール中の潤滑油には,加工の進行に伴って高い圧力が発生するようになり,この高い圧力によって加工面圧の一部が受け持たれるようになります。ここで重要なことは,平坦部上の圧力とミクロプール中に封じ込められた潤滑油の圧力との差が小さくなれば,ミクロプール中の潤滑油が,加工に伴って境界潤滑状態にある平坦部上に侵入することも可能になるということです。この場合,シール部が不完全となるほど,すなわち,工具表面粗さが大きく,低粘度油ほど流出量は多くなるといえます。このような潤滑挙動をミクロプールメカニズムと呼びますが,このメカニズムが効果的に作用すれば摩擦は著しく小さくなり得ることは容易に予測できるでしょう。

引抜き加工において,このミクロプールメカニズムを積極的に利用することが,潤滑油の低粘度化と摩擦の低減の両立を実現し得る第2の重要なポイントとなります。

3.おわりに

摩擦界面でのミクロプールメカニズムを効果的に利用することが,湿式潤滑方式の引抜き加工において,潤滑油の低粘度化と摩擦の低減の両立を可能にします。このミクロプールメカニズムを効果的に作動させるためには,第1に被加工材の表面粗さが工具表面粗さに相応して大きいことが必要で,第2には適度な工具表面粗さと低粘度油の使用が必要となります。

このようなミクロプールメカニズムによって,難加工材と称するステンレス鋼,チタン材の加工,あるいは新素材の加工も十分対応可能です。また,潤滑油の低粘度化は,加工後の洗浄の簡易化をもたらすものであり,環境問題においても多大なメリットがあることはいうまでもありません。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

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