金属加工現場の環境汚染 | 切削油剤による影響 | ジュンツウネット21

Q1.金属加工現場での切削油剤による環境汚染について解説をお願いします。

Question1.Q1.金属加工現場での切削油剤による環境汚染について解説をお願いします。

Answer1.解説します。

金属加工現場で供給され,高精度・高品位化や高能率化のために,重要な役割を果たしてきた「切削油剤」が21世紀に向けて,今大きな変革期を迎えようとしている。

その一つとして,ダイオキシン類対策特別措置法・PRTR法の公布や作業者の健康問題・環境ホルモンへの影響等を考慮したうえで,日本工業規格JIS K 2241-1997「切削油剤」が改正され,新JIS規格 K 2241-2000「切削油剤」が公布されました。この新JIS規格では,難削加工材や非鉄系材料の加工に効果的であった塩素系極圧添加剤を含む切削油剤が規格から削除されています。

切削油剤の塩素化合物とダイオキシンとの因果関係や環境ホルモンへの影響は,必ずしも現時点では明確ではありませんが,発生・影響が懸念される物質が含有されていることには違いなく,機械加工現場を取り巻く環境問題を考える時に避けて通れない問題です。

切削油剤に起因する環境問題は多く,作業者の健康問題から地球環境に至るまで広範囲にその影響を及ぼしています。そして,これらに対して様々な対策が講じられ,環境対応型切削油剤への関心が高まりつつあります。

1. 切削油剤供給に起因する環境問題

切削油剤の供給によって問題となる環境を分類すると,(1)作業者の健康環境,(2)作業環境,(3)地球環境に分類できます。

作業者の健康環境に関する問題点と原因を,表1に示します。

表1 作業者の健康環境に及ぼす問題点と原因
皮膚障害 灯油・軽油による皮膚障害
強アルカリ性物質・クロム酸塩・亜硝酸塩・殺菌剤などによる皮膚障害
界面活性剤の脱脂による皮膚障害
臭気による嫌気 灯油・軽油・硫化脂肪油等による臭気
酵母菌・バクテリアによる油剤の腐敗臭
のどや目の痛み・鼻炎 ミスト・発煙などによる刺激
発がんの危険性 ニトロソアミン,塩素化パラフィンの含有・生成
ポリクロロジベンゾパラジオキシン(ダイオキシン)による健康障害 加工時に2,3,7,8四塩化パラジオキシン発生など

健康環境に関する問題点は,皮膚障害・臭気による嫌気・のどや目の痛み・鼻炎等と,発がんの可能性,ダイオキシンによる健康障害などです。

前者には,個人差によってとらえ方に違いがあり,例えばアレルギー性疾患をもつ作業者にとっては重大な問題となります。後者の発がんの可能性,ダイオキシンによる健康障害,環境ホルモンへの影響は現在深刻な問題となっています

作業環境に関する問題点と原因を表2に示します。

表2 作業環境の悪化に及ぼす問題点と原因
油剤の飛散・べと付き 供給量過多,ミスト給油・高速ジェット給油などによる飛散
漏油・溢れ 工作機械からの漏油,油剤タンクからの漏れ・溢れ
機械部品の劣化 界面活性剤,塩素系化合物などによる電装部品の劣化,プラスチック・ゴム部品などの劣化,塗装面の劣化*1
作動油との混合による工作機械の運転支障 ゲル化・クリーム状化・ミルク状化
錆・変色の発生 しゅう動面・テーブル面等の錆,工作物の錆・変色
塩素系化合物による塩化水素ガス発生による錆
酵母菌・バクテリアによる油剤の腐敗 一次性能低下
スライム発生やカビによる配管系の詰まり,液分離など

金属加工業界が,地球環境問題が発生する以前に,一番力を注いできたのがこの作業環境問題の改善でした。問題点は,油剤の飛散・べと付き,漏油・溢れなどによる作業現場周辺の環境悪化や機械部品の劣化,錆発生問題,作動油との混合による工作機械の運転支障,塗装部の剥離*1,また,酵母菌・バクテリアによる油剤の腐敗による一次性能低下や配管系の詰まりなどです。

地球環境の破壊・悪化に関する問題点と要因を表3に示します。

表3 地球環境の破壊・悪化に及ぼす問題点と原因
水質汚染 油脂,リン化合物,硼素化合物等の不法投棄
河川・海洋汚染pH値,生物化学的酸素要求量(BOD)・化学的酸素要求量(COD)・浮遊物質量(SS)への問題
大気汚染 窒素化合物燃焼廃棄によるNOxの発生による大気汚染
電力消費による大気汚染(間接的要因)
大気・土壌汚染 塩素系化合物の燃焼廃棄によるダイオキシン汚染
切りくず・スラッジの処理による大気・土壌汚染 など

廃液の不法投棄による水質汚染,廃液の焼却・切りくず・スラッジの処理による大気・土壌汚染などです。また,切削油剤供給で消費される電力量が多いことも,間接的ではありますが大気汚染の原因となります。

近未来的な対応は非常にむずかしいことではありますが,硼素化合物・窒素化合物・硫黄化合物などの物質を含む切削油剤にかわる新たな切削油剤の開発が必要であると思います。

Q2.ドライ加工や切削油の品質改良の実態と廃油処理問題について説明してください。

Question2.環境汚染対策としてはドライ加工や切削油の品質改良が行われていますがその実態はどのようになっていますか。また廃油処理問題についても説明してください。

Answer2.解説します。

2. クーラントレスへの取り組みと問題点

環境への対策で,最も効果的な方法は,何も供給しないドライ加工であることは明らかであり,切削油剤の供給に代わるドライ化への様々な試行が行われています。冷風加工やセミドライ加工などです。

ドライ切削加工は,工具材料やコーティング技術の進歩によって,工具摩耗の面で湿式とそん色がないとの報告*2もされ,ドライ化しやすいように見られています。しかし,潤滑作用,冷却作用,洗浄・洗除作用がないことから,すべての加工材料や加工の種類・加工条件に対応できるのか疑問であり,発生熱による寸法精度への影響や切りくずの飛散や処理の点で問題があります。

研削加工ではごく一部の加工でドライ加工が行われていますが,すべての研削加工をドライ化することは切削以上に難しく,目つぶれや溶着の防止,熱による寸法精度への影響を防止することができません。

冷風供給は,冷却性の面では効果的です。しかし,ドライと同様に切りくず処理に問題があります。また,ごく少量の液体系油脂(主として植物油脂や合成エステル)をミストにして供給するセミドライ方法も試行されていますが,少量の潤滑効果や洗除効果の点で疑問が残ります。さらにミストの問題や切りくず飛散による作業環境悪化にも問題を残します。

このように,現状では全加工工程をドライ化またはセミドライ化することは不可能であり,切削油剤の供給による一次性能に効果があることは無視できない状況にあります。また,一部工程のみをドライ化しても前後工程で切削油剤を供給した場合には,必ずしも環境に効果的とはいえません。

3. 切削油剤の取り扱いと環境問題への取り組み

我が国での塩素問題*3に対する油剤メーカーの対策は,1991年頃からすでに行われ,塩素の代替を謳った切削油剤(非塩素・塩素フリー)が製造・販売されています。その多くは塩素系化合物の代替としてエステル,リン酸エステル・硫黄含有化合物などを添加した油剤です。

しかし,代替品としての非塩素系切削油剤は,必ずしも従来の塩素系の性能に匹敵する水準に達しているとは言えない状況にあり,さらに改善・改良が必要です。また,非塩素系は塩素系に比べ価格の点で割高であることも問題です。

前述したように切削油剤の抱える問題は多く,油剤メーカーでも色々試行錯誤を繰り返し改良が行われるでしょうが,使用するユーザー側でも環境悪化防止に取り組む必要があります。

(1)油剤劣化防止対策

長寿命を謳ったロングライフ切削油剤が市販されています。しかし,これらの大部分は,単に防腐剤や抗菌剤を添加したもので,恒久的なものではないことを認識する必要があります。防腐剤や抗菌剤を定期的に追加するなど,ユーザーのこまめな管理がなければ,期待通りの長寿命は決して得られません。

切削油剤は,その管理の仕方によって,性能に著しく違いが現れることは周知のことです。pH値や濃度値の徹底管理を行うとともに,腐敗に対しては抗菌剤・防腐剤の添加,油剤の冷却・加熱,殺菌灯の使用,金属イオンによる殺菌などで対処します。

腐敗の原因である酵母菌やバクテリアは30~40℃で活発に繁殖することから,この温度範囲内での使用は避け,冷却または加熱して使用すると効果があります。また,微生物の栄養源となりやすいリン化合物や有機化合物などを含有する切削油剤の使用や,前工程での洗浄剤やリン酸皮膜処理剤などの使用(これらとの混合により腐敗しやすくなる)は避けた方が良いでしょう。さらに,加工現場周辺に飛散・流失した油剤を放置しておくと,菌類やバクテリアが繁殖する原因となるので清掃も大切です。これらの対策によって,長寿命化や腐敗臭の発生・抑制が可能となります。なお,毒性のある防腐剤や窒素化合物や硼素化合物を含有するものは,環境に悪影響を及ぼすので避ける必要があります。

切削油剤は,異種油剤や作動油との混合により,ゲル状・クリーム状・ミルク状など写真1に示すように分離・乳化する場合があります。使用前に作動油との相性を確認することが大切です(エステル系切削油剤の中には,このような現象や工作機械部品や塗装の劣化をさせるものもあります。)

作動油との混合によって発生する現象
写真1 作動油との混合によって発生する現象

定期的に目視観察や汲み取り検査を行い,色調変化や臭気の変化などについて調べ,浮遊油分の除去や切りくずやスラッジの除去を完全に行うことが大切です。この場合,微細切りくずの除去は小さな給油タンクの沈殿方式では困難であるので,集中管理・制御システムへの転換は効果的といえます。なお,フィルタでろ過する場合に,エマルション形では油剤粒子の大きさを考慮しておかないと油脂分も除去され,油剤性能の低下を招くことになります。

切削油剤の管理には,屈折計とpH計を使用すると簡便に測定することができます。安価で携帯に便利なものが市販されているので備えることを奨めます。

(2)油剤消費量低減と廃棄

個々の加工において適正供給量が存在します。したがってただ多量に供給しても全く無意味です。また,発煙を伴うような供給は環境悪化の原因となります。適正供給量の検討と切削点への確実な供給(供給方法の検討)を行うことが大切です。

不水溶性の使用を余儀なくされる場合を除き,不水溶性から水溶性への転換を行います。これにより油脂分の大幅な減量が可能となります。また,油脂焼却廃棄の際の環境への影響を低減させることが可能となります。

各々の工作機械ごとの給油システムを止め,集中管理・制御システムへの転換を行います。個々の給油では,油剤の管理が徹底せず,劣化を早める結果となります。

工作機械からの漏油・溢れや飛散を防止します。特にミスト給油や高速ジェット給油等を行う場合には,工作機械からの飛散や漏油・溢れ対策のためのシールド対策を的確に行う必要があります。また,発泡しやすい油剤は,溢れの原因となるので,避けてください。

ミストの発生は,作業者の健康環境や作業環境の悪化に重大な影響を及ぼします。したがって,ミスト給油や高速ジェット給油等は必要以外は避け,これらの方法で供給する場合には,防毒マスク等を使用する必要があります。

ミスト発生抑制のために,ゴム系,アクリル樹脂系などの添加剤を添加した切削油剤が市販され,従来の物ほど広範囲へ飛散しなくはなっていますが,これらを使用する場合もシールドを的確に行う必要があります。

工作物に付着して持ち去られる量も馬鹿になりません。充分に油切りすることが大切です。これらの事柄などを行うことによって,消費量低減が可能となります。

廃油の河川への不法投棄は水質汚濁防止法の対象となります。また,焼却すると,大気汚染物質である塩化水素・硫黄酸化物・ダイオキシン・窒素酸化物などが生成され,大気汚染防止法・ダイオキシン法の対象となります。したがって,有害物質除去施設(洗煙設備)を備えた焼却炉が不可欠です。しかし,切削油剤を使用する金属加工企業のほとんどには,こうした焼却炉は備えられていません。また,廃棄の際に油剤組成ごとに分別している企業も少なく,こうした現状から,以前から提唱していることですが「油を売ったからにはメーカーが廃油を引き取り処理する」(一部メーカーで回収を始める) これが未来は油剤メーカーとしての地球環境に対する責務であると考えます。

現在油剤メーカーでは,環境問題に真剣に取り組んでいる姿勢が見られます。しかし,前述のように非塩素対応,長寿命化対策,ミスト防止対策などで,新たな化学物質の添加が行われています。このため,終末処理をより難しくする可能性や,新たな環境問題を生むことも懸念されます。油剤メーカーにはこうした問題が発生しない安全な切削油剤をぜひ製造していただきたいものです。また,使用する側のユーザーも,切削油剤が環境問題に深く関わっている物質を含んでいることを再認識し,適切な使用と廃棄を行うことを心がけていただきたいものです。

 

<参考文献>
*1 伊丹,重松,冨田:水溶性研削油剤が研削盤のテーブルカバー用塗装鋼板の塗装部に及ぼす影響,砥粒加工学会誌,41-10(1997)
*2 嶋野:ドライ切削加工の最新動向,工作機械関連技術者会議,99.7
*3 冨田:切削油剤による環境問題,機械技術,47-12(1999)

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最終更新日:2019年8月13日