プレス油の管理技術と最近の動向 | ジュンツウネット21

金属材料のプレス加工において,工具と被加工材の界面に働く摩擦力の制御および表面損傷の防止,すなわち潤滑技術はその加工の成否を左右する重要な因子の一つであると言えます。プレス油は本来の目的である滑り性や,金属表面損傷(キズ・焼付き)の防止の他に被加工材料との適合性(錆,腐食・変色)や後工程(脱脂性,焼鈍性等)への影響も考慮して作られています。このため,生産条件に適したプレス油を選定することはなかなか難しく不適正なプレス油を使えば製品を不良にするのみならず,機械設備にまで悪影響を及ぼすことがあります。

Q1 プレス油に求められる性能と組成,添加剤とは?

A1

1. プレス油と一般潤滑油の違い

プレス油の潤滑環境は金属の降伏点以上の塑性変形領域であり,境界潤滑状態であることが多いのに対し,一般潤滑油の潤滑環境は金属の降伏点以下の弾性変形領域で,完全流体潤滑で繰り返し使用されます。そのため潤滑上の機能と構成成分に大きな違いがあります。プレス油と一般潤滑油の違いを表1に示します。*1

表1 プレス油と一般潤滑油の違い
 
プレス油
一般潤滑油
使用目的の違い ○金属を加工する。
○摩擦を制御する。
○焼付きを防ぐ。
○冷却作用。
○機械設備の機能維持。
○摩擦を下げる。
○摩耗を防ぐ。
○冷却作用。
使用環境の違い ○金属の降伏点以上―塑性変形~破壊まで。
○主に境界潤滑状態(B.L)。
○金属の弾性変形域内。
○完全流体潤滑状態(H.L)。
構成成分の違い ○主に鉱物油を基油として,これに多量の添加剤(油性剤,極圧添加剤,防錆,防蝕剤など)が配合されている。 ○鉱物油や合成油などの基油が主成分で,これに少量の油性剤やFM剤,酸化防止剤が配合されている。
寿命 ○使い捨てが基本で寿命は短い。 ○繰り返しの使用に耐える。
○寿命は長い。

2. プレス油の要求性能

プレス油の性能については単に潤滑性能(一次性能)のみならず,付随する要求を満たす性能(二次性能)も極めて重要な特性になります。

(1)一次性能

目的とする部品の加工が可能であるか,加工機械の能力をどれだけ発揮させられるか,どの程度の品質の製品ができるか,生産性を満足できるか,などを決定する性能因子です。

(2)二次性能

一次性能を満たしたうえで要求される性能ですが,生産に寄与する因子としては極めて重要です。加工を安定に行ううえで問題となる因子として工具や機械の腐食,潤滑剤の劣化,後工程に要求される性能として溶接影響性,防錆性,脱脂性,塗装影響性,樹脂等影響性があります。

(3)環境特性

昨今では一次性能や二次性能といったいわゆる仕様性能のみならず作業環境改善・地球環境保全のための要求が増えてきました。作業環境としては低臭気・淡色・低刺激性・低毒性,地球環境関連としては低有害性・環境分解性・廃棄処理性・リサイクル性等があります。

一次性能は必須条件ですが,生産性に関しては,一次性能と二次性能が同様に満たされないと実用性がない場合が多く,加工が軽度な場合や対象部品によっては,むしろ二次性能が優先または重視される場合があります。

3. プレス油の成分構成および各成分の働き

プレス油は,基油に油性剤や極圧添加剤,その他の添加剤を組み合わせたものです。主に基油の粘度によって色々な粘度グレードの製品を作ることができます。表2に一次性能についての基本成分形式を示します。

表2 一次性能についての基本成分形式
タイプ
成分組み合わせ
適用
a
基油+油性剤 薄板の打抜き,軽絞り
b
基油+油性剤+極圧添加剤 難加工材の打抜き,深絞り
c
油性剤+極圧添加剤 精密打抜き
d
aまたはb+固体潤滑剤 補助的に付与する

(1)基油

基油の性質として,それ自体の潤滑性は乏しいが,一次性能や二次性能を満たすための添加剤を均一に溶かし(あるいは分散させ)必要な個所へ送り込むキャリアとしての働きと,場合によっては冷却の働きがあります。基油は主に鉱物油が用いられ,鉱物油は原油からガソリンや灯油などの燃料油をとった残渣分を減圧蒸留にかけ,さらに精製し製造されます。組成はおおよそパラフィン分,ナフテン分,芳香族分の3種類に分類でき,通常三者が混じり合った組成で存在します。パラフィン分の多い鉱物油をパラフィン系鉱油,ナフテン分が多いものをナフテン系鉱油と呼びます。現在では芳香族分・PCA(多環芳香族炭化水素)問題で,パラフィン系・ナフテン系が主となっています。加工油剤の基油としてはパラフィン系鉱油が望ましいとされています。

(2)添加剤

鉱物油(炭化水素)などの基油のみでは加工油剤の性能として限界があり,要求性能を満足できないため,基油に添加剤を加えることによって,元来基油に存在しなかった性能を付与することができます。一方,添加剤を配合すること自体,またはその量が不適切なため弊害が出ることもあります。添加剤の種類と働きを表3に,代表的な添加剤を表4に示します。*2

表3 添加剤の種類と働き
目的
種類
働き
問題点





粘度指数向上剤,増粘剤 基油の物理的(粘度)性質を向上させる。極性基を有するものは油性剤としての働きもある。 油脂に影響する場合がある。
油性剤 化合物の一部に極性基を持ち,金属表面へ吸着し吸着膜をつくり境界摩擦を低下させる作用がある。温度の上昇とともに吸着膜の配列が乱れ作用を失う。(約150℃) 脂肪酸→活性金属と反応熱的に不安定→油ヤケしやすいものがある。
極圧添加剤 油性剤よりさらに高い境界潤滑下で化学反応をし潤滑を向上させ焼付きを防ぐ(極圧反応)作用をする。
塩素,硫黄,燐の化合物などがありそれぞれ反応温度域が違う。組み合わせて用いることがある。
反応温度はP<Cl<Sの順に高い。
○塩素→鉄系材料の錆・ダイオキシン問題
○硫黄→銅系材料の変色,燃焼による硫黄酸化
○燐→活性金属の腐食
固体潤滑剤 温度に左右されず,油剤成分とは独立して潤滑作用する。主に熱間等の高温で使用されることが多い。 分散に問題あり。(ペースト状で用いる。)
溶剤蒸気洗浄による不良の可能性





防錆添加剤 湿気や腐食雰囲気から製品や工具を保護する作用。金属へ強く吸着し,腐食物質の侵入を防ぐ。
塩素化合物の如き反応性に富む物質から生じる腐食生成物を中和する作用。
油性効果の低下
極圧効果の低下
酸化防止剤 油剤の酸化劣化を防ぐ(油ヤケ防止防錆添加剤と併用することが多い。)(熱安定性の悪い成分を含む場合) 環境ホルモンの可能性
防蝕剤 主として非鉄類の腐食変色防止。
特定の金属のみ選択的に吸着する。
めっき,はんだへの影響
表4 プレス油の代表的な添加剤
目的
種類
代表例
問題点





油性剤 ○油脂類…ナタネ油,大豆油,ラード
○脂肪酸類…オレイン酸,ステアリン酸
 (R-COOH)
○高級アルコール…オレイルアルコール,ステアリルアルコール
 (R-OH)
○エステル類…脂肪酸エステル
 (R-COOR')
脂肪酸は活性金属と反応しやすい。また,熱的に不安定。油脂類を含め油ヤケの原因となりやすい。
極圧添加剤  ○塩素系…塩素化パラフィン,塩化脂肪酸
○硫黄系…ポリサルファイド,硫化鉱油,硫化油脂
○リン系…アルキルリン酸エステル
○複合系…チオリン酸塩
塩素系は鉄系金属を腐食させるので,中和型の防錆剤と併用して用いる。
硫黄系は銅および銅合金を腐食させる。活性度の高いほどこの反応は激しくなる。
固体潤滑剤 ○粒子状…滑石,金属粉末,テフロン
○層状…黒鉛,MoS2,BN,雲母
分散しづらいし,脱脂しづらい





防錆添加剤 ○スルホネート塩
○カルボン酸塩
○アミン塩
錆抑制には必要だが,あまり多く配合すると油性や極圧性を低下させる。
酸化防止剤 ○フェノール類
○アミン塩類
環境ホルモンの可能性
防蝕剤 ○ベンゾトリアゾール 溶解性が悪い

Q2 プレス油の選定と使用・管理方法の動向について教えて下さい。

A2

4. プレス油の選定を取り巻く諸要素

金属板成形においてプレス油の果たす役割については,いわゆる成形性や焼付き防止性といった一次性能のみならずむしろ,防錆性や洗浄除去性といった生産効率に与える影響としての二次性能への要求比率が高いこと,また二次工程要素の複雑化に伴うプレス油のバリエーションは多く,その点でもプレス油の選択が非常に複雑になっていることについては以前にも本誌で述べた*3通りです。その後プレス油を含め化学物質を取り巻く環境は一変し作業環境のみならず地球規模での環境保護への関心が高まり,人体・環境安全といったいわば三次性能要求が必須条件になったといってもよい昨今であります。

その一方で経済状況の悪化に伴い単なるプレス油の一次性能的見地でのコストパフォーマンスのみならず周辺工程を含めたトータルコストパフォーマンスの領域に突入しているのも事実であり,プレス油の選定においては化学組成から使用性能さらには周辺工程改善まで多要素要求の複合化した複雑な時代になっています。

5. プレス油の選定方法

本稿では選択の詳細は割愛しますが,一般に選定にあたっては以下の項目についてそれぞれの要件を検討していくことになります。それぞれの要件にたいして適正なプレス油を充当していくことは一義的にはさほど複雑ではありませんが,度々申し上げるようにプレス油が生産活動において有力な武器となるか弊害を及ぼすかは,それぞれの要件によるプレス油選定の総合的な最適化あるいは選択焦点の最良化が握っていると言えます。したがってプレス油の選定はプレス作業の中でも重要な仕事のひとつに位置付けられ,選定にあたっての供給側と使用側のコミュニケーションも非常に重要な要素になります。

(1)加工方法からの選定

一次性能である潤滑性を確保するうえでは,粘度・添加剤の種類・添加剤の量がポイントになります。これらを検討する場合,成形性やかじり防止性の追及といった見地のみならず他の選定項目への影響も配慮する必要はありますが,異なる一次性能側面としてごく薄板プレス・高速精密薄板プレスやトランスファープレスにおける粘性影響や絞り加工におけるフランジしわ影響などの最適化因子も無視することができません。一般に加工方法による選定と他の選択項目による選定の相反する点としては,極圧添加剤による一次性能と錆・腐蝕問題のジレンマや粘性増加による洗浄除去性悪化などが挙げられます。

(2)加工材料からの選定

加工材料の観点では,機械的性質・板厚・焼付きやすさといった一次性能に関連する材料特性と錆・腐蝕といった二次性能に関わる材料特性の2つの面が選定上のポイントになります。

(3)後工程からの選定

成形加工部品の表面にはプレス油が付着していくことになるため,後工程への影響は重要なポイントとなります。プレス油選定に関わる後工程は洗浄工程・溶接工程・二次加工などがありますが,具体的には多岐にわたり,洗浄工程といっても油分除去率といったいわゆる除去性はもちろん,表面清浄度に関する塗装・めっき・接着工程やはんだを含めボンディング特性等へのマクロ的ミクロ的影響性,さらには洗浄システムそのものへの負担(タクト・蒸留再生・油水分離など)といった考慮すべきポイントが数多くあります。このような影響性は単純に混合物として見た潤滑剤の全体的特性と諦められているケースもありますが,油剤組成の検討により容易に解決する場合もあります。これらは単純な分類が困難であるためご相談いただくことが大切な選定上のポイントとなります。

(4)作業環境からの選定

プレス油が影響する作業環境上の問題は床面汚れ・空気汚れ・臭気・肌荒れなどが挙げられます。これらの問題は他項目の選択要件を考慮し選定プレス油の見直しのみならず周辺改善策の実施等包括的な対応が効果的でもあります。

(5)化学物質としての選定

環境影響面・人体影響面での選定のポイントは当然のことながらプレス油が化学物質であることに帰着します。現在ではPRTR法施行・労働安全衛生法改正など法規制を含め化学物質に関わる情報提供と入手の環境が整いつつありますので,油剤メーカーからの情報がポイントになります。

6. 使用方法・管理方法の動向

板材成形なかでもプレス加工の場合では油剤の使用方法に関して循環使用の比率は極めて低く,いわゆるワンウェイ(使い捨て)型の使用方法が圧倒的に多いのも特徴と言えます。トランスファープレスなど循環使用するケースでは一般の潤滑剤と同様,汚染度や油剤劣化度をモニターする項目として比重・粘度・引火点などの物性から水分・酸価・金属分・不溶解分・添加剤濃度などの項目が従来どおりに挙げられます。ワンウェイ使用のプレス油においては様々な変化が現れておりプレス油の要求仕様への反映や周辺工程の対応が行われています。

昨今の大きな動きとしてはやはり本稿の後半で述べます無洗浄化手法としての無洗浄プレス油の急速な普及が挙げられ,油剤仕様の対応はもちろん工具表面処理や無洗浄化のための周辺整備(清浄度維持やインライン乾燥*4など)が同時に進められています。

またコスト低減と環境改善の観点では油剤使用量削減や洗浄負担軽減に伴う塗油方法の改善が盛んに行われ極微量塗油や静電現象を利用した特殊塗油*5などが高速小物プレスを中心に検討や導入がされています。後工程に関してはバッチ洗浄ラインからインライン洗浄*6ラインへの変更取り組みなども見られ,プレス油の使用方法や使用環境を取り巻く環境が変わりつつあると言えます。

Q3 プレス油を取り巻く環境問題と最近の動向について教えて下さい。

A3

プレス油をはじめとする金属加工油剤は,一次,二次性能をともに満たすことに加え,環境負荷が小さくなければならないとの認識が明確化してきました。これらを取り巻く環境問題は工場から地域,さらには地球規模まで及ぶようになっています。

これまで鉄系材料に適用するプレス油には,一次性能を高める目的で極圧添加剤として塩素化パラフィンが多量に使われてきました。これは,数ある極圧添加剤の中でも鉄系材料に対する極圧作用が最も強く,かつ安価であるとの理由によるものです。

ところが最近,米国,カナダ,欧州での短鎖塩素化パラフィン事態の毒性に係わる規制と塩素化合物全体を対象にしたドイツ等に見られるような廃油法による規制が生まれています*1。このように国際的な動きとしての地球環境保全問題は,人類の生存基盤に深刻な影響を与える緊急かつ重要な課題として認識されており,各国は内政的・外交上の最重要課題として扱われています。

環境保全活動は国際的な連携により取り組まれており,主たる取り組み内容としては,地球温暖化の防止・オゾン層の保護・酸性雨の防止・海洋汚染の防止・有害廃棄物の越境移動の規制・森林・生物多様性の保全・砂漠化の防止が挙げられています。

7. プレス油と環境問題

プレス油は金属加工油剤に包含される生産副資材ですが,化学物質であり,様々な製造分野に使用されているため,現在の環境問題に対し十分な対応が求められています。具体的な昨今の問題としては以下のものが挙げられます。

(1)ODS(オゾン層破壊物質)問題

過去ODSを含有したプレス油があったが,現在は対応済み。むしろプレス加工した部品洗浄の際の溶剤問題として大きく取り上げられた。

(2)PCA(多環芳香族炭化水素)問題

プレス油の基油である鉱物油の“発がん性”に関して,米国労働安全衛生局(OSHA)基準に加え,1996年欧州連合(EU)による多環芳香族(PCA)基準を加えた取り組みが行われ,1997年4月に完了した。

(3)PRTR(環境汚染物質排出‐移動登録)問題

PRTR制度(Pollutant Release Transfer Resister)とは,アジェンダ21における“化学物質のデータベースと情報提供の制度化勧告”を受けて,1996年にOECD(経済協力開発機構)において世界環境保護の目的で導入勧告が採択された。日本は遅れをとっていたがパイロット事業として実施され,事業報告がなされ,1999年7月に法律化された。

(4)ダイオキシン問題

ダイオキシン問題は現在最もホットな話題の1つになっている物質で生物への毒性が極めて強いと言われている。焼却炉からダイオキシンが検出され,社会問題になっている。生成のメカニズムとして塩素が関与するため,塩素系添加剤を含有するプレス油などの金属加工油も焼却の際に問題視される。ダイオキシン類による環境汚染は世界的な問題として取り上げられている。

(5)その他の問題

内分泌撹乱物質(環境ホルモン)・廃油・作業環境。

8. 部品洗浄に関する環境問題

部品洗浄に関する環境問題も金属加工関連問題として挙げられます。部品洗浄は金属加工油剤を除去する際の必須工程であり,金属加工との関わりが大きいと言えます。ODSの全廃は法的に規制され順調に削減が進んでいるかに見えますが,代替洗浄技術導入・代替洗浄剤への変更にはまだ問題がありますし,ODS以外の塩素系溶剤が使用されているケースも少なくありません。これらはODS非該当ですが,大気汚染・土壌汚染・水質汚濁・発がん性といった問題があります。

各業界団体も自主規制プランを掲げていますが,PRTR中間報告においても塩化メチレンの使用量は極めて多いとの結果があります。

一方の代替洗浄剤としての炭化水素系溶剤としての問題は,可燃性であるための制約・一部の溶剤への有機溶剤中毒予防規則の他は規制がありませんが,VOC(揮発性有機化合物)規制が心配されます。この他水系洗浄剤の問題として,今後水質汚染防止の強化により排水処理がますます困難になると考えられます。

以上のように,塑性加工用潤滑剤を取り巻く環境はますます厳しくなり「環境対応型」潤滑剤や代替技術の開発が望まれています。

9. プレス油の環境問題へ対する取り組み

プレス油の環境問題への取り組みとしては前述のODS,PCA,PRTR,ダイオキシン等もありますが,中でもプレス油の塩素問題はダイオキシン問題の一端と考えられるようになり非塩素化の動きが大きくクローズアップしています。一方,部品洗浄に関するODSや代替洗浄問題解決手段の1つとして潤滑性能などの問題を抱えつつも無洗浄プレス油の用途が拡大されつつあります。

(1)非塩素化への取り組み*8

非塩素系プレス油は,従来から少なからず上市され使用されていましたが,一般加工からステンレス鋼等の難加工材やしごき等の重加工まで取って代わることのできない性能と抜群のコストパーフォーマンスを持つ塩素系プレス油の陰に隠れていました。しかしながら,現在の地球環境保全の問題から「塩素系添加剤の使用削減さらには不使用」は産業全体の重要な課題として捉えられるようになってきました。

現在,非塩素系プレス油の実用化については様々取り組みがなされており,全般的には非塩素での対応が可能といえる段階に入りましたが,一部に取り残された分野があります。プレス加工の実施状況に基づき取り残された分野を表5に整理します。

表5 プレス加工分野における非塩素化の実状
被加工材料
加工難度
打抜加工
成形加工
薄板
厚板/一般
厚板/精密
絞り
しごき
炭素鋼・表面処理鋼板
ステンレス鋼
銅合金
アルミニウム合金

 :ほぼ可能,:やや問題がある。(主に工具寿命,製品キズ),:困難

非塩素化の対応性は加工難度よりむしろステンレス鋼に対する困難さが残ります。もともと塩素系極圧添加剤は鉄系材料の中でも難加工材とされているステンレス鋼にも優れた焼付き抑制効果を発揮しましたが,硫黄やリン系を中心とした代替添加剤ではこの点を補えないためと考えられます。また,潤滑剤のコスト面においてステンレス鋼を除いた加工対象でも塩素系と同等レベルの耐焼付き性能を確保するにはコスト高傾向があります。

(2)無洗浄プレス油の現状と課題*9

金属プレス加工分野にとってODSであるエタンをその利便性から最大限に利用してきた経緯があり,その全廃による対応は困難な問題とされています。エタン全廃の対応として各種代替洗浄技術が紹介されていますが,場所や費用の点で新規設備の設置は難しいといえます。そこで,ほとんど設備投資を必要としない無洗浄技術の1つである「無洗浄プレス油」への関心が高まっています。

無洗浄プレス油は,プレス加工時,金型と材料間の摩擦調整や溶着防止のために用いるプレス油の一種ですが,その性質上,速乾性加工油,揮発性加工油等の名称で呼ばれています。無洗浄油はODS対策の中でも比較的コストのかからない技術として期待されていますが,プレス油として最も肝心な潤滑性が乏しく,これが適用できる加工形態は「打抜き」,「曲げ」などの軽加工に限定されています。しかし電機や電子などの軽加工を中心とした産業分野では無洗浄による部品清浄度の確保と軽加工対応の特性が一致することから広く利用されるようになりました。

このように無洗浄プレス油はODS対策の一手段として開発されたプレス油であり,基油とそれに含まれる添加剤の種類によって常温-常圧下で完全に揮発消失するものから,ある程度油分を残すものまで用途に応じた多くの種類の製品が作られています。

現在,無洗浄プレス油は揮発残渣のないものを指すことが多くなりましたが,後工程によっては不揮発分があっても差し支えない場合や防錆のため完全に揮発しない方がよい場合もあります。清浄度に関わる危険を回避するため,あるいは不揮発分の必要性から無洗浄プレス油の種類は二分されています。

今後,洗浄コストの高騰に伴い経済的あるいは省工程の見地から無洗浄プレス油の用途は拡大してゆくと思われますが,揮発性物質で構成されているが故の職場環境や作業取り扱い上配慮すべき問題を克服するとともに一次性能の向上に努めなくてはならないと考えます。

<参考文献>
*1 木村 「プレススクール」 第250号
*2 木村 「プレススクール」 第251号
*3 木村:潤滑経済 P11~17,1998,NO.388
*4 日本工作油
*5 日本工作油:NESA-122
*6 河場他:プレス技術 P72~75,Vol.38 No.3
*7 (社)潤滑油協会:潤滑油類の環境適合性に関する調査研究報告―その2 2000.3
*8 木村:日本塑性加工学会 第196回塑性加工シンポジウムテキスト
*9 木村:プレス技術 VOL34 No.1 1996

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最終更新日:2019年12月13日