ガス圧縮機は種々の用途に使用されているため圧縮ガスの種類も用途によって異なります。潤滑油に要求される特性も用途(ガス組成)によって大きく異なります。
各種ガス用圧縮機の適油選定について※
エチレンなどの各種ガス用圧縮機にはどのような潤滑油が適していますか。また潤滑上の問題点としてどのようなことが考えられますか。
解説します。
ガス圧縮機は種々の用途に使用されているため圧縮ガスの種類も用途によって異なります。そのため潤滑上の問題点もさまざまで,潤滑油に要求される特性も用途(ガス組成)によって大きく異なります。
用途別にガス圧縮機の潤滑上の問題点をまとめると次のようになります。
1. 合成用圧縮機
アンモニア,メタノール,オキソ合成などの合成圧縮機の場合は,圧縮機油が圧縮ガスとともにキャリーオーバーされることにより,次のような問題を起こします。
(1)合成用触媒の活性度低下(触媒毒)
(2)反応塔が高温のとき,反応塔近くのリサイクルラインでの炭化・変質
(3)反応塔など高圧装置の腐食
2. 腐食性ガス圧縮機
腐食性ガスとして,炭酸ガス,硫化水素をあげることができますが,炭酸ガス圧縮機の代表的なものは尿素合成用の圧縮機であり,硫化水素ガス圧縮機の代表的なものはCOG圧縮機,石油精製ガス圧縮機があります。腐食性ガス圧縮機の圧縮プロセス上で多く発生している問題は
(1)インタークーラ後の低温配管,吸入弁の酸性ドレンによる腐食,ときとしてピストンリング,吐出バルブプレートも腐食することがあります。
(2)なかでも硫化水素を含む圧縮機のときは,吐出系の腐食はもちろん,クランクケース内にガスが混入したときは,クランクケース内に軸受などの腐食が生じます。
3. 炭化水素ガス圧縮機
潤滑油に対する空気の溶解量は通常7vol%程度ですが,圧縮するガスが炭化水素ガスの場合,潤滑油に非常によく溶解します。そのため,粘度が著しく低下し,ピストンリングの密封作用を阻害する恐れがあります。また粘度低下の他に炭化水素ガスの溶解により油膜が洗い流されると,ピストンリングが異常摩耗することがあります。
炭化水素ガスの溶解による粘度低下の例として,プロパンの場合で図1に示すとおり約2%の溶解で粘度は約50%も低下しています。同時に引火点も低下します。プロパンに限らず炭化水素ガスが溶解すると粘度とともに引火点が低下するので,ドレンの取扱いには十分注意する必要があります。
さらに,不純物を含む炭化水素ガス,たとえば未精製の都市ガス,高炉ガス,コークス炉ガス,石油分解ガスなどは,ガス中に含まれる不純物の影響によって吐出系へのガム状物質の付着,ピストンリングの膠着,バルブプレートの割れなどの問題が生じます。
図1 プロパンの溶解力と粘度・引火点(潤滑油:ISOVG32) |
4. 汚染をきらうガス圧縮機
汚染をきらうガス圧縮機としてドライアイスや清涼飲料用の炭酸ガスや圧縮機,ポリエチレン用の圧縮機などがあり,これらにはとくに着色をきらうことはもちろん,着臭もきらいます。
以上のことをまとめると表1のようになります。つまり,圧縮ガスの種類によって潤滑上の問題点はさまざまであるため潤滑油のタイプ,性能を考慮して適油選定をしなければなりません。
表1 各種ガス圧縮機の潤滑上の問題点と対策
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表2に各種ガスに対する往復動圧縮機油の適油選定例を示します。この例からもわかるように,圧縮ガスの種類により選定油が異なることが理解できるでしょう。
なお,油冷式の場合は,圧縮ガスと潤滑油が高温・高圧で接触し,ターボ式の場合もシールリング部でガスと潤滑油が接触しますので,両方とも往復式と同様の問題を含んでいるといえます。
表2 各種ガスに対する往復動圧縮機油の適油選定例※ Dn.…ダフニーの略
※Q&A第1集発刊時点
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※Q&A第1集発刊時点