ゴム材料には,軟化させ加工しやすくする目的で鉱油が配合されています。このような鉱油がゴム用潤滑油とかゴム配合油(compounding oil)と呼ばれるものです。ゴム配合油の役割,ゴム配合油組成の影響などについて解説します。
ゴム配合油について
ゴム用潤滑油とかゴム配合油という言葉を聞きます。それはどういうもので,どういう役割を果たしているのか教えて下さい。
解説します。
1. ゴム用潤滑油とは
ゴム材料には,軟化させ加工しやすくする目的で鉱油が配合されています。このような鉱油がゴム用潤滑油とかゴム配合油(compounding oil)と呼ばれるものです。ゴム側では,石油系軟化剤と分類しています。
このゴム配合油は,エキステンダ油(伸展油)とプロセス油(加工油)に区別して呼ばれることもあります。表1にこの2油種について示します。
表1 ゴム配合油
*SBR:スチレン・ブタジエンゴム,IR:イソプレンゴム |
エキステンダ油は,伸展(油添)ゴム製造の際にラテックスに乳化油として混入させ共凝固させ,体積増量と可塑化とを目的として配合する鉱油で,その添加量13%以上であることが多く,プロセス油は,ゴムの製品化工程において練りにくいゴム原料に鉱油を配合して,素練り,添加剤配合,押出し,バンバリーミキサー作業などを容易にすることを目的として配合する鉱油で,その添加量は13%以下であることが多いものです。
ゴム配合油としては,表1にみられるようにパラフィン系,ナフテン系あるいは芳香族炭化水素成分の多いもの(エキストラクト)など,さまざまな鉱油成分がゴムの素材料や製品用途により使い分けられています。
ゴム配合油では,油組成のなかで特に極性や芳香族分が重要です。このためASTM(D-2226)では,ゴム配合油について白土ゲルにて定量される極性成分(芳香族分)の含有量により4分類する方法を規定しています。
2. ゴム配合油の役割
配合された油分子は,ゴムポリマーの間に入り,潤滑の作用をして分子間の流動性を増加させます。すなわち分子間内部摩擦を減少させ,可塑性を与え,素練り,配合,押出しなど種々の成型加工時の発熱を減少させます。さらに添加剤の分散を助長し,加工性の向上と同時に加硫ゴムの弾性,屈曲性を改善させ,引張り強さや耐摩耗性を向上させます。
また油成分が多くなるとゴムポリマーの流動特性が変化することがあることや,ゴム材料の種類と油との相溶性が悪いとポリマー中に分散した油成分が粒子状の分散となり油がゴム表面ににじみでる(ブルーミング)ことがあり,ゴム配合油の選択と配合量の決定に配慮が必要です。
次に,ゴム側よりみたゴム配合油に望まれる点について述べます。
(1)ゴム材料との相溶性が良好でブルーミングがないこと
(2)油配合後のゴムは,可塑性が適度で加工性が良いこと。練り生地が適度の粘着性を持ち,ゴムの成型操作を容易にする軟化性がある
(3)ゴム材料や充てん剤とよくなじみ,充てん剤の分散を助けて均質な油添ゴムとすること
(4)加硫後の物性に悪影響がないこと
(5)酸素,オゾン,光,熱に対して安定である
(6)品質が安定していて安価であること
3. ゴム配合油組成の影響
ゴムの特性に対するゴム配合油組成の影響については,いろいろな研究があります。一例として表2を示します。表よりゴム配合油の配合によりゴムの特性は,多くの場合いずれの油種であっても改善・向上することが明らかです。
表2 配合油がゴムの諸特性に与える影響
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低温特性,加工性は,いずれの油種であっても改善・向上します。しかし,ブルーミングについては,極性の高い芳香族系油に懸念があります。ゴムポリマーにも弱い極性があり,極性の高い芳香族成分との相溶性が問題となることが知られています。加硫速度については,ゴムポリマーが油により希釈されることとなるので遅くなる。しかし,芳香族系油では微量の塩基性窒素を有する化合物あるいは極性のある芳香族炭化水素の加硫促進作用により加硫が早められると考えられています。
ゴム弾性や塑性,押出し性,屈曲性,亀裂防止性などは,いずれの油種であっても改善・向上の方向に効果します。しかし,油添ゴムの光・熱に対する安定性および色安定性に油組成の影響が問題となることがあります。油中に存在する微量の不安定成分が原因であり,UV分析の490μm透過率で検出される成分と相関があるともいわれています。
次にゴム材料の種類別に配合油の効果をまとめて表3に示します
表3 主なゴムに対する配合油の効果
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天然ゴムにエクステンダ油とカーボンを配合して加硫したゴムは,老化後のゴム物性保持に優れている特徴が見直されています。
BRではゴム特性に対して,各油が独自の効果を示すためにゴムの必要な特性に適する油種の選択が重要です。CRでは,アニリン点が約160℃のナフテン系油が一般に使用されています。
NBRはニトリル基の極性を特徴とするゴム材料であり,鉱油との相溶性が悪く鉱油が使用されることは少ない。このため軟化剤としてはよく知られている可塑剤DOP,DBP,TCPなどが一般に使用されています。
IIRでは,低粘度のパラフィン系油をプロセス油として添加し,網目の弾性を増し,伸縮性を増しています。EPMでは,表3のとおりです。
4. ゴム配合油の課題
ゴム製品の使用条件の過酷化と生産性向上の点より,加硫を含めた加工速度の向上ができるゴム配合油が望まれています。コストの低減化はいうまでもなく,相次いで開発される新規ゴムポリマーに適合するゴム配合油の開発も重要な問題です。
<参考文献>
*1 化学工業社“プラスチックおよびゴム用添加剤実用便覧”,13ゴム用石油系軟化剤,1006,(1970)
*2 山口 隆:日本ゴム協会誌,50巻,10号,664,(1977)
*3 井上 徹裕:日本ゴム協会誌,50巻,10号,672,(1977)