冷凍機油(リサイクル性を考える) | ジュンツウネット21

Q1 地球環境保全の面から代替冷媒が現れていますが,これにはどのような冷凍機油が望まれていますか。

A1

冷蔵庫やルームエアコンなどの家庭用冷凍機器は,地球環境保全の観点から使用する冷媒が,従来の塩化弗化炭素(CFCs)を1995年末に全廃,次いで塩化弗化炭化水素(HCFCs)をオゾン層を破壊しない代替冷媒の弗化炭化水素(HFCs)へ転換し,2004年までに全廃を迎えようとしています。しかし,このHFCs冷媒では地球温暖化係数が小さくならないことから,大気への放出を最少化することが必要となっています。

これらの代替冷媒に対応する冷凍機油は,冷媒との相溶性の良い合成油が開発され,適切な安定剤を配合したものが用いられ,潤滑性,材料適合性,熱化学安定性,電気絶縁性などの確認と,実機における冷凍システムとしての信頼性を検証し,実用化を進めてきました。

ここでは,代替冷媒に実用されてきた冷凍機油の技術課題と環境規制,およびリサイクル性,今後の対応状況について考察を試みました。

1. 代替冷媒への転換と冷凍機油について

(1)代替冷媒の種類

代替冷媒HFCsの種類は表1に掲げるように,R134aの単独系とR407C,R410A,R404Aなどの混合系があり,R32,R125,R143a,R134aの組み合わせにより,従来冷媒の冷凍システムにおいて近似した熱特性が得られるようにしたものです。

表1 現在の代表的なHFC冷媒*2
冷媒
HFC成分
オゾン層破壊係数 ODP
地球温暖化係数 GWP
使用分野
機器・装置
従来冷媒
R134a 単一
134a
0
1600
冷凍・冷蔵・空調
CFC12,HCFC22
R410A 混合
32/125
0
2340
空調(家庭・業務用)
HCFC22
R407C
32/125/134a
0
1980
R404A
125/143a/134a
0
4544
冷凍・冷蔵
HCFC22,R502

HFCs冷媒に適合する冷凍機油は,図1のものが使用されています。

HFCS冷媒に適合する冷凍機油
図1 HFCs冷媒に適合する冷凍機油

(2)冷凍機油への要求性能

冷凍機油への要求性能については,図2に示したルームエアコンの冷凍サイクル構成図と図3のスクロール型圧縮機に示すようにきめ細かい機能が要求されています。

冷凍サイクルと冷凍機油の要求性能
図2 冷凍サイクルと冷凍機油の要求性能
R410A型スクロール圧縮機の例
図3 R410A型スクロール圧縮機の例

圧縮機の中にはモーター駆動部と圧縮機械部が収納されており,冷媒が溶解した冷凍機油が貯溜されています。

冷媒を溶解した冷凍機油は,差圧給油機構によりしゅう動部に移送され,軸・軸受やしゅう動部における摩擦摩耗の軽減や機械損失を小さくする作用があります。

一方,非相溶性冷凍機油の場合においては,圧縮機底部に比重の大きい冷媒が貯留し,粘度の低い冷媒を給油してしまうことにより潤滑油膜強度の低下や,油が熱交換器中に滞留して圧縮機に戻り難く,そのため非相溶の場合は油分離機構等が必要とされています。

冷凍機油として求められる基本的特性は,

  1. 冷媒相溶性
  2. 潤滑性
  3. 電気絶縁性
  4. 材料適合性
  5. 熱化学安定性
  6. コンタミ物質との適合性

が重要です。

Q2 環境基本法に対応するための冷凍機油の考え方を解説して下さい。

A2

2. 環境基本法に関する法的規制

(1)温暖化防止と省エネルギ規制

地球温暖化防止として,京都会議で大気放出ガスの種類をHFCs,CO2,などの6種類を指定し,1990年を基準にした数値目標を設定し排出削減を図ることが決定しました。家庭での電力使用量の多いルームエアコン,冷蔵庫については,冷媒による直接的な温暖化影響に加えて,電気エネルギ使用量による間接的な影響も併せてTEWIにより評価します。(表2参照)*4

表2 家庭用冷凍機器による温暖化影響と対応
家庭用冷凍機器による温暖化影響と対応

すなわち,冷凍機器に封入する代替冷媒の使用量および漏洩する冷媒量の極少化,回収冷媒の適切な処置(回収,破壊,再生)により大気放出の抑制および電気エネルギの消費量を最少化することが義務付けられました。業界では自主または法的な措置により,具体的施策が求められています。

省エネ法(エネルギ使用の合理化に関する法律)においては,冷蔵庫,ルームエアコンを製造する者は,積極的な電力使用量の削減活動につとめ,表3に掲げるごとくラベル表示し,トップランナ方式により省エネ競争が行われます。

表3 省エネラベリング制度(2000年8月公示)
省エネマーク表示→省エネ性:橙色,達成:緑色
省エネ基準達成度(%)  (目標年度:2004年)
ルームエアコン
冷蔵庫
冷房,暖房平均COP(エネルギ効率)
COP:Coefficient of Performance
 消費効率1kW当たりの冷房,暖房能力(kW)を示すもの。
 この値が大きいほどエネルギ効率が良いといえる。
年間消費電力量(kWh/年)
JIS C9801
消費電力量試験法

(2)冷凍機器における冷凍機油の役割

冷凍機器の省電力化,高信頼性,長寿命化と冷凍機油との関係は,前述した基本的要求性能に加えて機器特有の使途条件に対して,最適化仕様を決めることにより,エネルギ消費効率の改善と長寿命化に寄与しています。

冷凍機油は,冷凍サイクルのエネルギ効率向上に関して以下の具体的項目が関係し,油種,粘度グレードの最適化によりきめ細かい設計が行われています。

1.圧縮機の効率改善
 機械エネルギの伝達,圧縮仕事における損失の低減,軸/軸受しゅう動部分の摩擦損失のミニマム化(境界潤滑→流体潤滑)

2.熱交換器の効率改善
 冷凍機油の配管内滞留改善,熱伝達性能の向上,初期性能の継続的維持

3.長寿命化
 熱化学安定性,キャピラリチューブの閉塞性改善,圧縮機しゅう動部品の摩擦損失,摩滅による機械損失の低減

圧縮機,冷凍サイクルに適合した冷媒システムの構築の事例として,現在の冷蔵庫においてはHFC134a使用レシプロ型圧縮機があります。冷凍機油の粘度を低粘度化にすることにより,エネルギ消費効率(COP)の改善を図っており,そのイメージを図4に示します。しかし,実際には使用環境温度が広いこと,過負荷条件等の種々の運転環境に対しても,十分な耐久性を確認して冷凍サイクルが設定されています。

レシプロ型圧縮機
COP・動粘度
図4 レシプロ型圧縮機とCOP・動粘度

(3)家電リサイクル法

リサイクル法(資源の循環利用と環境負荷低減社会の実現)に対応するため,構成する部品に材質表示,易分解性,易リサイクル性材料の開発などによりスタートしてきましたが,循環資源の改正リサイクル法においてはさらに規制強化を行い,1)廃棄物の発生抑制(Reduce),2)循環資源の再使用(Reuse),3)環境資源の再生(Recycle),4)環境部品の普及促進(グリーン購入法)の積極的な活用と対応を図ることを義務付けられています。これを受けて,家電リサイクル工場が全国に設置され,2001年4月よりリサイクルのための有料引き取り制度が始まり,本格的なリサイクルが始動しました。*5

冷蔵庫やルームエアコンは冷媒回収作業の後に圧縮機が外され,冷凍機油が回収されます。冷媒は種別ごとに回収され,a.再生,b.破壊が行われます。一方,冷凍機油は全体が纏められて廃油回収業者に売却される形態をとっています。

(4)PRTR法

有害物質の排出規制としてPRTR法(特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律)が1999年7月に公布2001年4月より排出・移動の把握が始まりました。冷凍機油に使用する基油および添加剤の成分の多くは第一種指定化学物質および第二種指定化学物質にも該当しません。しかし,環境汚染と労働環境の双方から監視が必要になっています。

Q3 冷凍機油のリサイクルも検討課題になると思いますが,これにはどのような手法がありますか。

A3

3. 冷凍機油のリサイクル性

冷蔵庫やルームエアコンは,耐用年数がおおよそ10年をこえ,またさらに長寿命化が要求されている製品です。これらの使用済家電製品は,リサイクル工場に集荷されます。そして冷媒が回収された後に,冷凍装置から液状の冷凍機油が回収されます。

回収冷凍機油は,「資源有効利用促進法」「改正リサイクル法」の対象となっていませんが,今後は行政や潤滑油メーカーが主体となって,原材料から終末までの再資源化施策が進められることになります。「廃潤滑油の再資源化と適正処理」の検討が,(社)潤滑油協会や資源エネルギー庁などにより,リサイクル化率向上の検討が進められています。*3

回収冷凍機油の再利用としては,

(1)浄化による反復利用(リュース)
(2)元の潤滑油に再生(マテリアルリサイクル)
(3)他の潤滑用途への転用
(4)燃料への再生(サーマルリサイクル)

がありますが,回収冷凍機油は基油および添加剤の化学的変化,コンタミ,抽出物,スラッジ等の混入による変質が伴うため,冷凍機油の基本特性である冷媒との相溶性,低温析出性,電気絶縁油特性が劣り,加えて経済性を考えると冷凍機油への復元は極めて困難です。

以上のことから転用先は,主に燃料への再生が中心となります。しかし,この場合においても前述した化学物質を正しく取り扱うという観点から,基油の種類,添加剤の種類と配合量を明記し,分別回収と廃油処理を行う必要があります。燃料への再生では,有害性の熱分解生成物や熱化学反応物について,安全性と環境汚染に配慮することが必要です。つまり,サーマルリサイクルでは燃焼と廃ガス処理の整った設備で焼却することが要求されます。

4. 今後の展望と課題

環境問題に直面し,冷凍機油の生産から終末までのライフサイクルを考えた場合,環境負荷のよりいっそう小さい総合的な対応が望まれます。化学物質を有効に活用する者にとっては,各々の立場で前向きな環境目標として次の項目にチャレンジしていただきたいと考えます。

(1)冷凍機油メーカーへの提言

1.リサイクル性を配慮した基油,添加剤の配合設計と組成開示
2.熱化学安定性の良い潤滑油
3.回収油のマテリアルリサイクル技術
4.環境にやさしい生分解性冷凍機油の開発

生分解性については現在主流のHSPOE(分岐鎖型脂肪酸エステル)は図5に示すように,HOPOE(直鎖型脂肪酸エステル)より劣る傾向を示し,加水分解安定性と逆の関係を示します。*1また,植物油の利用については,飽和脂肪酸のグリセリドタイプは流動点が高く,不飽和脂肪酸のタイプは酸化劣化により粘度上昇を招き,実用的でないといわれています*6。更なる開発が要望されています。

代表的冷凍機油の生分解性
図5 代表的冷凍機油の生分解性*1

(2)機器メーカーへの提言

1.冷凍機油の油種,組成の表示制度と油種の統合
2.冷凍機油の基油に化学的損傷を与えない運転システム技術
3.水分,空気,コンタミの劣化因子の混入防止
4.HCガス等の自然冷媒の利用に関する技術

(3)回収メーカーへの提言

1.分別回収と適正な廃油処理による高品質再生油の商品化
2.基油成分ごとの再生処理技術構築
3.サーマルリサイクルには,環境の2次汚染物質の生成および大気排出の防止

ルームエアコン,冷蔵庫はオゾン層破壊に始まった地球環境問題として,含塩素冷媒の全廃が注目され,冷凍機油は裏方の役割を果たしてきました。今日,家電リサイクル法においても金属やプラスチックのリサイクルが中心に検討されていますが,冷凍機油に対してはマテリアルリサイクル技術に遅れをとっています。欧州などの環境先進国の歴史を学びながら,さらに環境にやさしい冷凍機油を目指して開発していきたいと思います。

<参考文献>
*1 Jake:ユニケマアイシーアイ技術資料(2001-4)
*2 日冷工:HFC系冷媒使用機器の施工サービス技術(1997-9)
*3 長谷:廃潤滑油の再資源化と適正処理,トライボロジスト第45巻第11号(2000)
*4 省エネルギーセンター:省エネ性能カタログ(2000冬)
*5 上野潔:工業材料(日刊工業出版社) vol.49 No.4
*6 小西:日石レビュー第40巻第3号(1998.8)

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日