- Q1.クラッチの圧着面にMoS2が付着することにより,スリップ(馬力ロス)を生ずることはないでしょうか?
- Q2.エンジン油フィルタにMoS2粒子が付着し,目詰まりが生ずることはないでしょうか? またフィルタ交換時期が早くならないでしょうか?
- Q3.エンジン油圧送ポンプ,循環ポンプなどの微小すき間にMoS2粒子が付着し,機能不良,潤滑不良が生ずることはないでしょうか?
Q1 クラッチの圧着面にMoS2が付着することにより,スリップ(馬力ロス)を生ずることはないでしょうか?
心配ありません。MoS2系の大きな特長として摩擦係数(以下μ)低減があります。したがって,湿式多板クラッチに用いた場合,クラッチ板と摩擦板のμを低下させ,スリップが発生するのではないかとの疑問は当然です。
図1は台上試験ではありますが,市販SFオイルとこれにMoS2系添加剤を用いた場合の摩擦係数のちがいを示しています。
図1 摩擦係数比較 |
問題は実用で滑りが発生する限界摩擦係数の値です。これは油の種類,温度,摩擦板の材質,隙間,摩擦板の移動速度,面圧等の多くの要素によって決まり,これは各二輪メーカの設計,走行条件によって一定ではありません。
似た構造をもつオートマチックトランスミッションの摩擦材の静・動摩擦係数を評価,摩擦材,油の寿命をテストするのにSAE(米国自動車技術者協会)J 286があります。この試験方法では詳細なデータの取り方が定められていますが,最終的には実車テストでオートマチックトランスミッションフルードを処方しているのが実情のようです。
ご質問の件も多くの変動要素を含み,かつ二輪車の種類,排気容量,メーカ等によって限界摩擦係数は必ずしも一定ではなく,終局実車テストによる確認が必要でありかつ確実です,国内外の多くの二輪車での実車テストでご指摘のような心配のないことが確認されています。
過去にMoS2系添加剤を使用してスリップしたという事故がありました。MoS2系添加剤を使用した二輪車のクラッチが滑って走行不能になり,その責が添加剤に問われたわけです。分解点検したところ,クラッチ板の平行度が狂い,異常な片当たりをしていたことが分かりました。
MoS2は面圧が高いほど付着しやすいという性質があります。構造的欠陥により,接触がごく一部分になり,その部分の面圧が高くなってMoS2の付着を強固とし,スリップの原因となったことが判明しました。このような構造的欠陥のもとではMoS2系添加剤はもちろん,汎用潤滑油でもトラブルが発生する危険性は大であります。
Q2 エンジン油フィルタにMoS2粒子が付着し,目詰まりが生ずることはないでしょうか? またフィルタ交換時期が早くならないでしょうか?
心配ありません。比重が4.8あるMoS2が沈澱し,フィルタを詰めるのではないかという批判は,これだけ広くMoS2が用いられるようになっても,ぬぐいさられていません。
確かにMoS2を完全分散させ,しかも金属表面に付着させる技術は非常に高度なものであり,国際的に見てもこの技術を保有するメーカはそれほど多くありません。したがって,心配ないというのは信頼のおけるメーカの製品にかぎるといえます。写真は台上試験結果ですが製品の良否によるちがいを示しています。
写真1 濾紙によるMoS2粒子の通過試験 |
ただし,新車および走行距離の長い車に初めて添加する場合は,1回目だけは早めにフィルタを交換するのがトラブルフリーのコツです。添加剤中の強力な分散剤がエンジンオイルでは除去できなかったスラッジまで洗い流すことがあるからです。一部の人はこれを化学的大掃除と呼んでいます。
Q3 エンジン油圧送ポンプ,循環ポンプなどの微小すき間にMoS2粒子が付着し,機能不良,潤滑不良が生ずることはないでしょうか?
すでにお分かりのように,すぐれた処方のMoS2添加剤は,ポンプの隙間で沈積することはなく,被膜を形成し部品寿命を延長します。工業用ギヤポンプの組み立てにMoS2含有ペースト状製品が広く用いられているのがこの効果を立証しているといえます。
一言にMoS2系添加剤といっても多くの商品が出回っており,信頼できるメーカの実績あるものを使用することが一層重要です。