最近,固体潤滑剤がよく使用される話を聞きます。固体潤滑剤にはどんなものがあって,どこに使用されるかなど教えてください。
解説します。
1.固体潤滑剤の種類
学問的には多くの固体潤滑剤が報告されていますが,現在実用に供せられている主なものは下記のとおりです。
(1)二硫化モリブデン(MoS2) 潤滑剤
(2)グラファイト(黒鉛) 潤滑剤
(3)PTFE(商品名テフロン) 潤滑剤
その他,ふっ化黒鉛[(CF) n],窒化ほう素(BN),二硫化タングステン(WS2),メラミンシアヌレート(MCA),などがあります。固体潤滑剤の範ちゅうから出ますが,油溶性有機モリブデン化合物もあり,最近多く使用されています。さらに,ねじの焼付防止などを目的として,金属粉末,マイカ(天然ケイ酸鉱物),銅(Cu),ニッケル(Ni)などが用いられています。
2.選定の基準
千差万別の潤滑条件に対して全てを解説することはできませんので,ここでは固体潤滑剤が効果を発揮している問題点別に対応製品を述べます。
2.1 組立用潤滑剤
組立を容易にするだけではなく,ならし運転時のトラブルを防止し,機械の一生にわたる性能を維持する目的にはMoS2およびMoS2とグラファイトを高濃度に含有するペースト製品,または塗布作業性のよいそれらのスプレー製品が適しています。わずかな費用で大きな効果をもたらすため,その適用は自動車業界から始まり,今やあらゆる産業まで拡大されています。
2.2 油浴式歯車潤滑剤
保全上の障害となりやすいスコーリングなどの歯面損傷防止の目的に,MoS2完全分散液の添加が有効なことは,大は製鉄所のピニオンスタンドから,小は印刷機のギヤートレインで立証されています。ギヤー油が黒くなることを避けたい場合は,有機モリブデン化合物の添加方式が取られています。即効性のある有機モリブデン化合物と持続性に富むMoS2の混合添加剤は,より高度のスコーリング防止性を示しています。
2.3 高温部位の油潤滑
たとえば,200℃を超える炉内チェーン潤滑の場合,固体潤滑剤のほか,基油の選定が非常に重要な鍵となります。給油間隔の延長と高度の無残渣性が要求される場合は,酸化安全性のよいポリアルキレングリコール(≒<200℃),エステル油(≒>200℃)などの合成油にMoS2を分散した製品が適しています。しかし操業サイクルや保守間隔などでオーバーホール期間が比較的短い場合は,カーボン残渣の少ない鉱油にグラファイトを分散した,比較的安価な製品がTMPコスト低減に貢献します。
2.4 高温部位のグリース潤滑
常時200℃を超えるグリース潤滑は,固体潤滑剤を用いても容易ではありません。PTFEを増ちょう剤とし,ふっ素化油を基油としたような高価なグリースがその目的を果たしております。しかし,高粘度合成油にMoS2,グラファイトを添加した無機系増ちょう剤グリースは,とくにdn値が大きくなければ(≒<50,000)連続での温度250℃位まで使用できます。150℃前後の温度では,リチウムコンプレックス,ウレアグリースにMoS2を添加したグリースが耐熱性だけでなく,耐摩耗,低摩擦係数などすぐれた潤滑性が得られます。高温下のグリース潤滑では,圧送パイプ内でのグリースの固化防止などに留意しなければならないのは,固体潤滑剤含有とは関係なく重要であります。MoS2含有ベントングリースは,高温で軟化流出することなく,温度変化によるちょう度変化も少ないため有効です。自動車のメインテナンスフリーや,ロボットなどのメカトロニクス装置用で,120℃位の温度範囲で,多くの使用実績があります。
2.5 メカトロニクス用グリース
最近ではMoS2やグラファイトの黒色が塗布作業上,または商品汚染などから好まれないことがあります。この場合はPTFE,MCAなどの白色固体潤滑剤を含有するホワイトグリースが適しています。ビデオ,CDプレーヤ,テープデッキなどの家電,複写機,プリンタなどの事務機,そのほか,それぞれの目的に合った多くのホワイトグリースが専門メーカーに準備されています。
2.6 オイルやグリースを嫌う部位の潤滑
ソレノイドプランジャ,カメラ部品,真空雰囲気で代表されるように,オイルやグリースが使えない,使いたくない部位の潤滑要求が増大しています。この目的にはMoS2,グラファイト,PTFEなどの乾燥被膜固体潤滑剤・ドライフィルムが多く用いられます。ドライフィルムとは,固体潤滑剤を含有したペンキと考えて下さい。ドライフィルムは千差万別の機構部品や使用条件の要求に合わせて処方されることが多いオーダーメイド的性格をもっています。
2.7 その他
上記のほか,特定分野別に食品用(ZnO,PTFE),塑性加工用(主としてMoS2,グラファイト),焼付防止剤(超高温ではNi,Cu金属粉末,高温ではグラファイト,MoS2),高温用成形体(BNなど),固体潤滑含有の各種複合材料などがあります。製品選定と適用の技術が非常に重要であり,別表も参照してください。
固体潤滑剤選定のための資料(特長)
〔註〕上記はあくまでも参考値であり実用条件に合った製品の選定が重要です