グリースのフィラー(過酷な条件下でグリースを支える) | ジュンツウネット21

グリースにはフィラーが添加されてるものがあると聞きました。その役割について教えて下さい。

解説します。

現代社会において,産業機械・設備は,省エネルギを前提とした長期連続使用などの過去な条件下で使用されています。そこに用いられているグリースに対しても,厳しい使用性能が要求されています。しかしながら,通常のグリースでは,その要求性能を満足できない場合も数多くあります。これらの問題を解決する方法の一つの手段として,フィラー(充てん剤)の添加があります。

グリースに用いられるフィラーとは,グリース固有の固体添加剤的成分であり,グリースでは液体潤滑油と異なり沈降の心配もなく均一分散が可能なことから,種々の性能を向上させる目的で利用されています。利用される物質は,それ自体も固体潤滑剤として作用する物質が主に使用されています。
 ここでは,固体潤滑剤の種類とその使用効果,使用上の注意について説明したいと思います。

1.グリース用固体潤滑剤の種類

固体潤滑剤とは,主に次の能力を備えた物質のことです。

(1)耐荷重性能の向上
(2)摩擦の減少
(3)摩耗の低減
(4)金属表面への密着性
(5)皮膜形成能力

グリースでは耐荷重性能を高める場合,極圧添加剤が使用されることもありますが,固体潤滑剤の方がより高温での使用が可能です。これは極圧添加剤が150℃を越えると分解し,場合によっては有害物質を生成するのに対し,固体潤滑剤はその程度の温度では分解物を生成しにくいためです。つまり,前記した(1)~(5)の能力は,高・低温,高荷重などの過酷な条件のもとで使用される場合に高い効果を示します。

グリースに使用されている主な固体潤滑剤は,グラファイト,二硫化モリブデン,二硫化タングステン,有機モリブデン,ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),メラミンシアヌレート(MCA),各種金属粉(銅,ニッケルなど)などがあります。表1に代表的な固体潤滑剤の性状を示します。

表1 各種固体潤滑剤の性状
固体潤滑剤
色相
耐熱温度 ℃
摩擦係数
耐荷重能 MPa
グラファイト 黒灰色
500~600
0.06
500
二硫化モリブデン 灰色
350~400
0.04
800
二硫化タングステン  灰色
400~450
0.04
800
フッ化黒鉛 白色
250~300
0.06
500
PTFE 白色
200~260
0.04
200
メラミンシアヌレート 白色
250~300
0.04
500
チッ化ホウ素 白色
700~800
0.06
300
銅色
~800
0.20
600
ニッケル 銀白色
~900
0.20
600

(注)上記は参考値であり実用条件に合った製品の選定が重要です。

無機系固体潤滑剤であるグラファイトや二硫化モリブデンの優れた潤滑性能は,結晶構造が層状を形成していることに起因しています。図12にグラファイトおよび二硫化モリブデンの構造を示します。

黒鉛の結晶構造
図1 黒鉛の結晶構造
天然二硫化モリブデンの結晶構造
図2 天然二硫化モリブデンの結晶構造

これらの結晶は層間の結合力が弱いために,せん断力が働くと容易にへき開し,滑り性が良好になります。また層状結晶であるため金属表面によく付着し,均一な皮膜を形成することも,優れた潤滑性能を有する要因の一つです。しかしながら,良好な潤滑能力を有しているグラファイトも,水蒸気が存在しない真空下や高温下ではその能力が低下し,摩耗を増大させてしまうこともあります。

有機系固体潤滑剤であるPTFEは,表面エネルギが小さいため,摩擦減少効果があるとされています。特に,低温化での摩擦減少能力に優れています。また,MCAはメラミンとイソシアヌル酸から構成されており,構造式は図3に示すように化学結合により層状を構成していると推定されています。この層状構造のために,グラファイトや二硫化モリブデンと同様,良好な潤滑能力を有していると推定されています。

MCAの化学構造(推定式)
図3 MCAの化学構造(推定式)

2.固体潤滑剤の添加効果

固体潤滑剤をグリースに配合する目的は,前記の固体潤滑剤としての特性を生かし,グリースの潤滑性能を強化するためです。

グリースに固体潤滑剤を配合した場合の実用効果については,多くの報告がされています。図4にグリースにおける固体潤滑剤の含有量と耐荷重性について示します。

ジエステルグリースの二硫化モリブデン添加量と平均ヘルツ荷重の関係
図4 ジエステルグリースの二硫化モリブデン添加量と平均ヘルツ荷重の関係

これは,ジエステルグリースに二硫化モリブデンを3~20%添加した場合の高速四球式耐荷重性能試験における平均ヘルツ荷重を求めたものです。添加量が増加するに伴い良好な耐荷重性を示し,特に3~5%の添加量ではその効果が著しいことがわかります。

このように,固体潤滑剤を配合することにより,グリースだけではカバーすることが難しい条件下においても潤滑不良(異音の発生,異常発熱,異常摩耗,焼付きなど)を防止することが可能なうえ,グリースの寿命を延長するなど様々な効果が期待できます。

3.使用上の注意点

固体潤滑剤の配合されたグリースは,高・低温,高荷重などの過酷な条件下で良好な潤滑性能を有していますが,個々の潤滑剤により,その使用条件に適/不適があります。つまり,すべての固体潤滑剤があらゆる潤滑条件において使用できるものではないのです。そのため,固体潤滑剤の適用に際しては注意深い選定が必要になります。

<参考文献>
*1 松永正久監修,津谷裕子編,「固体潤滑ハンドブック」,幸書房(1978).
*2 M.J.Devineら,NLGI Spokesman 27,Jan.(1964) 320.

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日