一般の潤滑油などに使われている添加剤と固体潤滑剤を併用した場合,相乗効果が期待できるのでしょうか。
解説します。
この問題について,いくつかの報告を紹介しておきます。
最初の報告書*1は基油(動粘度98.9℃ 6.28cSt 粘度指数103)に二硫化モリブデン(以下MoS2と略します)や次の汎用添加剤を加え,耐摩耗性能を比較したものです。
トリクレシルフォスフェート(TCP)
燐系極圧添加剤
ダイベジルダイサルファイド(DBDS)
硫黄系極圧添加剤
ジンクダイイソプロピルダイチオフォスフェート(i-C3ZnDTP)酸化防止剤兼極圧添加剤
カルシウムスルフォネート(CS)清浄分散剤
耐摩耗試験はフォアボールとボールオンシリンダの装置でそれぞれ行っています。試験温度はいずれも72℃です。これらの試験では,荷重の増加とともに平均摩耗直径が増加しますが,図3を除く図1,2,4では,MoS2と汎用添加剤の併用により,増加傾向は抑えられ,相乗効果が認められます。
図1 フォアボールでの荷重と摩耗量の関係 |
図2 フォアボールでの荷重と摩耗の関係 |
図3 ボールオンシリンダでの荷重と摩耗の関係 |
図4 ボールオンシリンダでの荷重と摩耗の関係 |
効果相殺か相乗かについては,その作用原理から考える必要があります。固体潤滑剤の場合,しゅう動面でどのような挙動を示すかを考えることが大切です。図5では,MoS2とZnDTP(酸化防止剤兼極圧添加剤)が共存した場合,初期焼付き荷重が高くなっています。これは,はじめ摩擦面に付着するZnDTPの初期分解生成物(ポリマと考えられます)に,MoS2が効果的に付着しやすいためであろうと考えられています*2。この場合は相乗効果が得られるわけですが,オレイン酸のような酸性界面活性剤と組み合わせた時には,お互いに付着を阻害して効果が認められないとの文献もあります。
図6は,一般に使用されているSP系ギヤ油にMoS2系添加剤を10%加えた例です。スコーリング発生の限界を超えたPVT値10.5でも,MoS2添加油はスコーリングの発生がなく,油温も低下しています。*3
図5 鉱物油に対するジアルキルジチオりん酸亜鉛(ZnDTP)とMoS2の添加効果 |
図6 スコーリング発生枚数 |
MoS2などの固体潤滑剤を併用する相手の潤滑剤には,すでに汎用添加剤が含まれていることが多いのですが,ほとんどの場合に相乗効果が認められます。しかし,実用にあたっては,文献調査を行ったり,台上試験で確認することも必要です。
<参考文献>
*1. W.J.Bartz ,J.Oppelet:Lubrication Engineering,36,10(1980)579
*2. J.M.Throp:Wear,23(1973)63
*3. 渕上 武:メインテナンス,64(1985)17