二硫化モリブデンをいろいろな用途に使う場合の適正添加量について教えて下さい。
解説します。
潤滑用二硫化モリブデン(以下MoS2と略します)は主としてアメリカで産出され,精製した製品には下に示すような粒度のものがあります。
一般的な,粒径別の用途は
SF:オイル用
TF:グリース用
TG:コンポジット用
100:コンポジット用
となっています。
主な用途に対する添加量は次の通りです。
(1)ペースト
MoS2ペーストは,従来なかった考え方の組立用潤滑剤です。篏合を容易にするために塗布するという消極的な目的だけでなく,慣らし運転をスムーズに行い,その機械の一生にわたっての性能を維持するという積極的な効果を目的とし,現在自動車メーカーをはじめとして多くの産業で使用され,それが一般化(特殊→汎用潤滑剤)しつつあるといっても過言でないでしょう。
この目的には高濃度のMoS2が必要で,米国では50~60%を指定しています。しかし,目的によっては30%程度でも充分目的を果たすケースも少なくありません。
(2)固体乾燥皮膜
最近,その用途を拡大している乾燥皮膜の場合は,固体潤滑剤(P)とバインダ(B)のP/Bで考える必要があります。P/Bの比が大きくなるにしたがって摩擦係数は低減する傾向にありますが,その比が3.0すなわち被膜の75%以上がMoS2の場合,摩擦係数は最小となり,それ以上は変化しないというデータが得られています。しかしさびの発生率はP/Bが1,つまりMoS2が50%から高くなっています。したがって,目的に合わせて固体潤滑剤とバインダの比を決定することが大切です。
(3)グリース
一般には3~10%が添加量の目安です。表1はベントングリースについてMoS2含有量と焼付け荷重,摩耗の関係を示したものです。
表1 MoS2含有量,焼付荷重,摩耗テスト結果
*注 試験機・シエル四球試験機 |
ここで注目すべきことは,含有量が20~50%になるとかえって焼付け荷重が低くなっていることです。これは,MoS2を運ぶのに必要なグリースの量が不足したためです。ただし,焼付け荷重以前の摩耗はMoS2含有量が多いほど減少しています。図1はリチウムグリースの場合ですが,MoS250%までは含有量の増加とともに焼付け荷重は増大し,摩耗は減少しています。このような違いは,ベントングリースに滴点がなく,温度が上昇しても軟化しない性質によるものです。したがって相手のグリースの種類や使用目的によって,MoS2の添加量を決定する必要があります。
図1 MoS2含有量と摩耗の関係 |
(4)オイル
オイルに対するMoS2の添加量はどのメーカーもあまり発表しておらず,文献も少ないのですが,エンジンオイルの場合,最終使用状態で1%あれば充分で,これ以上添加してもより早くより大きな効果が得られるわけではありません。なお,英国で,1%以下の添加量では最大の効果が得られるまでに時間がかかるという論文が発表されて以来,MoS21%含有と強調した製品が見受けられます。
しかし,オイルの場合,分散剤の種類によって効果が大きく異なり,MoS2含有量の少ない製品が多い製品より潤滑性が上回ることも珍しくありません。これはMoS2の分散安定性に重きをおきすぎるため,金属表面への付着性を阻害するためです。分散安定性と金属への付着性を同時に満足させることはそれほど容易な技術ではなく,この問題をなんとか解決した製品であれば,最終0.3%程度の添加量でも充分です。
また,エンジンオイルの場合,数μmのフィルタがあり,エンジン各部の微小隙間への導入性が重視される時は,1μm以下のMoS2を使用することが必要です。
(5)コンポジット
プラスチックコンポジット,メタルコンポジットいずれの場合も基材料,使用目的によって添加量には大きな幅があります。ポリアミドの場合,かつて5~6%で充分効果があるという発表がありましたが,その後の研究では,15%で比摩耗率が最小になるといわれ,PTFEでは,40%まで比摩耗率は下がり続けるとの報告もあります。プラスチックの種類に合わせてサンプルを作成し,目的の緒元が得られるかどうか試験をする必要があります。
メタルコンポジットについては,さらに作成法の違いも加味してテストピースを作成し,目標性能との整合性を調査する必要がありますが,一般的にはプラスチックコンポジットの場合よりも添加量は多く,20%以上とする報告が多いようです。