固体潤滑剤入り添加剤の微小すき間への影響は | ジュンツウネット21

固体潤滑剤入り添加剤を使用する場合の微小すき間への影響について解説してください。

解説します。

1.固体潤滑剤の粒径

現在使用されている固体潤滑剤,たとえば代表的なMoS2(二硫化モリブデン)の平均粒径は細かいもので0.4μmあります。しかしこれは平均粒径であり,2~3μmのものも数%含まれています。最近は固体の粉砕,分級技術が向上し固体潤滑剤の粒径をより小さくすることが可能となりましたが,μmオーダーではその粒度分布がある程度裾を引くのは止むを得ないことです。

したがってどのように細かい粒子ででも数μm,ごくわずかながら数十μmの粒子が混入していると考えなければなりません。

2.機械の微小すき間(油膜厚さ)

機械が停止している状態では,そのすき間はほとんど0です。機械が動き始めるに従って,くさび状すき間内に油が粘性によって引きこまれ,圧力を発生し荷重を受けることになります。幾何学的平面同士の摺動であれば潤滑に必要な最小油膜厚さは数十Å(オングストローム,1万分の1μm)といわれています。実際には数十Åの吸着膜では表面粗さの方が大きく,油膜破断が起こります。

油膜厚さを論ずる場合は,表面粗さとの関係で考える必要があります。桜井俊男氏著「潤滑の物理化学」によるとこの点について図1のように整理しています。流体潤滑を得るためには,数μmから数十μmの油膜が必要となります。これより摺動面間すき間が小さいと,境界潤滑となり焼付の危険性があります。

各種潤滑領域の油膜厚
図1 各種潤滑領域の油膜厚

3.固体潤滑剤と微小間隔の関係

したがって固体潤滑剤粒径と微小間隔(油膜厚さ)の関係を考える必要があります。専門家の批判を覚悟の上で模型図,図2を示します。当然考えられることは,微小すき間cより粒子厚t(MoS2など固体潤滑剤は層状構造をし,アスペクトレシオが大きいため,径というより厚さという方が分かりやすい)の方が大きければ,すき間への導入は不可能となります。

微小すき間への固体潤滑剤導入模型図
図2 微小すき間への固体潤滑剤導入模型図

しかしMoS2には壁開しようとする力が働き,MoS2のa軸方向の壁開容易性が相まって微小すき間に導入されます。しかしながら図2(b)のように粒子厚がすき間間隔に比べて大きい場合は,壁開力はほとんど働かず,微小すき間に導入されることもなく,固体潤滑剤のキャリヤである油の導入をも妨げ,潤滑剤の閉そく現象が起こりついに焼き付きに至ることがあります。

専門家の批判を覚悟の上でと断ったのは,EHL(歯車やベヤリングによって代表される粘弾性流体潤滑)で潤滑油に添加されている油溶性物質(たとえば粘度指数向上剤,油性向上剤など)ですら,この微小すき間に導入されるかどうか議論されており,いまだ結論の出ていないところであります。これら油溶性添加剤に比べれば,粒径の大きい固体潤滑剤が導入されるということに批判が起こるのは当然でしょう。しかし模型図は全くの想像で描いたものではありません。

写真1(a)はMoS2の分散状態不良で数μm~数十μmの粒子が多い場合で,ファレックス試験機のピンは,極端に焼き付いております。(b)はMoS2を完全分散した製品でしっかりした被膜形成が認められます(荷重はどちらも2.224KN)。微小すき間に導入されなければ被膜形成は考えられず,この写真が先の模型図を肯定する証左といえます。ただし粒径を小さくし,分散安定性,導入性をよくすれば被膜が形成されるという単純なものではありません。金属表面に対する付着性まで考慮した処方でなければ,すぐれた固体潤滑剤の長所を生かすことができません。

ファレックスによる試験結果
写真1 ファレックスによる試験結果

4.微小すき間への導入をよくするには

とくに微小すき間への導入が重要となる液状製品については,次の点に配慮しなければなりません。

(1)微小すき間というと,とかく精密機械と関連づけて考えられがちですが,問題は摺動面間のすき間で,軸と軸受のクリヤランスとは直接関係ないと考えるべきです。その意味から固体潤滑剤処方に当たっては常に導入性,付着性に配慮しなければなりません。

(2)そのためにはできるだけ,平均粒径の小さい固体潤滑剤粒子を用い,パウダー状ではカットが困難であった巨大粒子(極限すき間に比べれば数十μmは巨大)を液状の状態で除去する工程が必要となります。

(3)固体潤滑剤,とくにMoS2などは油中で非常に凝集しやすく,せっかくばらばらになっている微粒子が,短時間で巨大粒子に変貌し,分散安定性が損なわれて沈殿する危険性が大となります。この結果は先の写真(a)が示しています。したがって固体潤滑剤製品の場合,強力な分散安定剤によって凝集を防止することは当然必要です。

(4)ところが,問題はもっと根の深い所にあり,分散安定性を重視する余り,金属表面に対する付着性の乏しい製品では十分その効果は発揮されません。しかもこの分散安定性と付着性は相矛盾する条件であり,これを極限の状態で調和させるには長い経験と高度の技術が必要になります。

5.おわりに

現在,信頼のおけるメーカー製品は,このような問題を解決し微小すき間でも十分効果を発揮する製品を世に提供していると考えます。
 使用者側でも長期の保存を避ける,潤滑油中への水の混入を防止する(水を核として固体潤滑剤,摩耗粉などの大きな凝集物生成)などの留意により所期の目的が達せられる訳です。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日