PTFE(テフロン(R))加工フライパンはなぜ焦げつきにくいのでしょうか。PTFEの性質とあわせてご解説下さい。
解説します。
1.焦げ付くとは何か
固体同士が接触するとそこに凝着エネルギが生じます。また,“焦げ付く”という場合にはさらに加熱による物理的および化学的変化が起きることにより,接着しやすくなっていることも示しています。ではどうすれば,“焦げ付き”を防止できるのでしょうか。
固体表面同士が接触しないように,あるいは,しにくいようにしてやればいいわけで,個体と固体の間に液体を存在させる事,一般的には油を引く事で解決しています。
ただし,液体を用いてもこの液体が固体の表面をうまく濡らさなかったり,使用しているうちに飛散あるいは蒸発してしまったら,焦げ付いてしまう事になります。
2.テフロン(R)フライパンの特長
テフロン(R)はデュポンおよび三井・デュポンフロロケミカル(株)の販売しているふっ素樹脂の登録商標ですが,ふっ素樹脂の代名詞になるほどよく知られています。
テフロン(R)フライパンが市場に出回りだしたのは1950年代の後半のアメリカからでした。油を使わなくても料理ができるために,ダイエットの目的で急速に使用されるようになりました。なぜ油を使わなくても料理ができるのか,それはテフロン(R)の優れた数多くの特長によるものであり,つぎに理由を述べます。
3.テフロン(R)の特長について
テフロン(R)のよく知られた特長として次のような点があります。
(1)優れた耐熱性(連続使用温度260℃)(2)優れた耐薬品性(3)低摩擦特性(4)非粘着性(5)難燃性(6)電気絶縁性(7)低温特性(8)耐候性(9)純粋性。
テフロン(R)にも4種類あり,ここですべてについて説明する事はできません。そこでこれから先は1番使用量の多いPTFEについて述べます。
上記の特長の多くは,C-F結合の強さとPTFEの分子構造に起因しています。
炭素の結合のなかで,C-F結合は116Kcal/Molとほぼ最強の強さを示しています。
また,骨格である炭素原子をふっ素原子が隙間なく取り囲んでおり,非常に剛直で完全に非極性のしかも枝分かれもほとんどない高分子を形作っています。図1にPTFEとPEの分子構造の比較を示します。PEの場合には骨格の炭素原子がよく見えるのに対して,PTFEは炭素の周囲をふっ素原子が隙間なく取り囲んでいるため,炭素原子は見えにくくなっており,薬品によってC-C結合が直接攻撃される事は少ないのです。
図1 PTFEの分子構造 |
したがって,PTFEの分子一本一本を取ればC-F結合の強さにより,熱にも酸アルカリにも強く,かつ,枝分かれのない剛直な高分子である事がお分かりいただけたと思います。しかし,一本一本は非常に強いPTFEも集団になると様子が違ってきます。
枝分かれがほとんどないため周囲の高分子と絡みにくく,かつ,完全に非極性のため隣の高分子とプラスマイナスの電気的な力で引き合う事もありません。PTFEの分子間に働いているのはファンデルワールス力の弱い相互作用だけになります。そのために,少し力が加われば分子がツルリとすべってしまい,その力を逃がしてしまいます。
PTFEは人間の爪でも傷が付けられるし,また,厚さが1mmぐらいのシートならば簡単に曲げられるのはこのためです。ただし,ちょっとした力ですぐに解けてしまっては困るので,分子量をできるだけ大きくして,隣のポリマーと絡み合う部分を増やし,通常の使用時に問題ないような超高分子量にしています。
4.PTFEがフライパンに使用される理由
PTFEがある用途に使用される場合には,3.の所で示した特長のうち3~4以上が同時に必要な場合が多いのです。フライパンの場合は次の4つの特長が主に利用されています。
(1)耐熱性
連続使用温度が260℃であり,通常の調理の範囲では充分な耐熱性があります。ただし,強火で長時間とか空焼きを長く行うと,PTFEの融点である327℃はもちろんの事,分解を引き起こす温度に達するので注意を要します。
(2)耐薬品性
PTFEは化学プラントあるいは半導体工場の苛酷な条件下で,長時間に渡って使用されており,その耐薬品性について今更詳しく述べる必要はないと思います。
フライパンにおいても,耐薬品性は必要で,食品と調理中に反応しない事が,重要な条件になっておりPTFEについては,正常な条件下ではまったく問題はありません。
(3)非粘着性
PTFEの非粘着性は物質の中では,ほぼ1番優れた部類のものであり,PTFEをなにも処理せずに接着させる事はできません。
非粘着性のよさはPTFEの耐化学薬品性あるいは耐熱性のよさとも関連しており,加熱下においても他の物質と反応する事はなく,したがってこびりつく事がありません。
また,分子間結合力が弱いため少し力が加われば分子同士が,簡単にすべってしまうために潤滑剤も必要としないのです。
(4)無毒性
もし,これだけ優れた特性を持っているPTFEでも,人体に対して有害であったならばフライパン等の食品用途には使用されなかったでしょう。PTFE自体は無毒であり,アメリカのFDAあるいは日本の厚生省の食品衛生法の認可を受けています。そのため,フライパン以外にも炊飯器の内鍋や,ジャーポットの内側等に塗装されて広い用途で使用されています。ただし,人体や体液と接触する用途には推奨できませんので,ご注意下さい。
5.固体潤滑剤
成形用のPTFEは通常数百万から1000万の分子量を持っており,焼成前に力を加えると繊維化しやすいために,そのままでは固体潤滑剤としては使えません。
そこで,数十万あるいはそれ以下まで分子量を下げ繊維化する性質を抑えたPTFEが,この用途に用いられています。この低分子量PTFEは固体潤滑剤として,そのまま使用する事ができるだけでなく,次の用途にも応用されています。
他のプラスチックあるいはゴムに添加される事により,潤滑性あるいは非粘着性を付与する事ができます。また,インクや塗料に少量添加すると非粘着性や耐候性を向上させる事ができます。