乾性被膜の用途開発と最近の動向 | ジュンツウネット21

最近乾性被膜が多くの部品等に利用されているようです。乾性被膜の特長や最近の開発動向などについて教えて下さい。

解説します。

乾性被膜潤滑剤は,近年目覚ましい発展を遂げ,その用途・使用目的に合った品種選定等が重要であり,また処理の技術も使用効果を左右します。

乾性被膜剤とは「結合剤を用いて固体潤滑剤を摩擦面に被膜形成される乾いた潤滑剤」のことと狭義に解釈します。

1.乾性被膜の種類

一般的には表1のように結合剤によって分類できますが,この分類では何を選択したら良いか皆目わからない面があります。おもな選択肢は潤滑性(耐荷重性,摩擦係数,摩擦寿命等),使用温度範囲(耐熱性,耐寒性),防錆性,耐油性,耐薬品性等であり,これらの選択肢の中で重要な要求項目が何かで,製品が選択できるようにすべきでありましょう。

表1 乾性被膜の結合剤による分類
有機系結合剤 加熱硬化型 耐荷重能,摩耗寿命に優れる
常温乾燥型
無機系結合剤 加熱硬化型 耐熱,耐寒性に優れる
常温乾燥型

2.乾性被膜の処理

乾性被膜の一般的な処理手順を図1に示します。塗装の一種であり,被塗物の表面に油等がついていると,ハジキやハガレ,密着性の低下等を招くので,コーティング前の処理は,乾性被膜の特性を十分に発揮させる上で重要なことです。またコーティング被膜が非常に薄いので,わずかなさび等も大きな影響を及ぼし,さらに部品によっては,焼き入れ,焼きなまし等の問題から加熱硬化型でも180℃以上はかけられないとか,前処理に化成処理は水素ぜい性の問題でやれないとかその他の付帯条件がつきます。

乾性被膜の処理
図1

3.用途開発と最近の動向

今までは鉄系部品への応用が大半を占めていましたが,今後もこの傾向が大幅に変わるとは思えませんが,その中でも新しい用途をまとめると次のように考えられます。

(1)ドライな被膜での潤滑兼防錆,耐摩耗,音消し等の用途は鉄系部品が大半を占めますが,最近はAl,Mg,ゴムや樹脂部品へとその用途が拡大してきています。

特に自己潤滑性プラスチックといってSLを成型前にプラスチックに混入したものがありますが,自己潤滑性を持たせるためには,相当量のSLを混入せねばならず,そうすると強度の低下や加工性が悪くなるので,実際には混入量が少なくほとんど潤滑性を改善できていません。むしろ表面に被膜を形成させた方がはるかに効果があり,要はいかに密着性を向上させるかということです。

(2)特に新しくはありませんが,機械加工や,材質変更では限界にきている油潤滑する部品のさらなる性能向上を図るために,乾性被膜の使用が増えています。

(3)3K作業を改善,オイルやグリースを塗布していたものを乾性被膜にしてクリーン化と作業性の向上を図れます。

(4)低コスト化が図れます。MoS2被膜で今まで使用していたブッシュを省き,コストを低減します。

以上,乾性被膜は確実に目覚ましい発展を続けており,特に応用については,今までにない新規の使われ方が急増しています。

しかしながら,使用目的,条件に合った乾性被膜を選定しているかということになると,疑わしい使い方が多々見受けられます。

また,乾性被膜を正しく選定しても,前述のように前処理やコーティングを正しく行わないと,本来の特性を十分発揮できません。

正しい乾性被膜を選定し,正しい処理を行うことが,すばらしい効果を発揮することにつながります。したがって乾性被膜の正しい知識を持ったメーカーと検討し,スタート時から十分打ち合わせを持った方が良い結果を得られる早道であろうと思われます。

また,製品もメーカーも多種多様に群雄割拠していますが,製品は単に結合剤を溶剤に溶かし,SLを加え,混合しただけでは良い製品ができないことをメーカーの立場から申し添えておきます。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日