炭化水素系合成潤滑油の用途 | ジュンツウネット21

炭化水素系の合成潤滑油のうち,ポリアルファオレフィンと多環縮合ナフテンの特長や用途について解説します。

炭化水素系合成潤滑油の用途

炭化水素系合成潤滑油の代表的な製品について,どのような用途に使用されるのか説明をお願いします。
解説します。

炭化水素系の合成潤滑油にはいろいろな種類がありますが,今回はポリアルファオレフィンと多環縮合ナフテンについて紹介します。

1.ポリアルファオレフィン

ポリアルファオレフィン(以下PAOと略します)は,アルファオレフィンを重合したのち水素化処理して造る合成潤滑油です。

1.1 PAOの特性

(1)高い粘度指数を持っている
(2)剪断安定性が優れている
(3)低温起動性が優れている
(4)硫黄,窒素など不純物を含まず,熱,酸化安定性が良好
(5)トラクション係数が低く,省エネルギ化が期待できる
(6)分子構造が均一なため蒸発損失が少ない利点がある
(7)水分離性は良好
(8)このほか化学的に安定で熱伝導率が高い特性もある

1.2 PAOの低温起動性を応用した効果事例

(1)落差を利用した戻り管を持つ集中給油ギヤ装置で,鉱油系ギヤ油(VG150)を使用していたところ,冬季に流動抵抗が大きくなったため,戻り管を流れずギヤボックスからオーバーフローするというトラブルが発生しました。このため,同一粘度のPAOギヤ油を更油したところ,問題なく流下し,動力負荷も低減しました。これは,粘度グレードが同一でも,-10℃の粘度は鉱油系の約10,000cStに対し,PAO系は約1,000cStで1/10になるからです。

(2)ある製鉄所の屋外機器用ギヤ設備は,間欠運転が多いことから,特に冬場における起動性および効率が問題となっていましたが,PAO系のギヤ油を使用することで,多大な効果を上げています。

1.3 PAOの耐久性を応用した効果事例

高温にさらされるカレンダーロール(紙,プラスチック)等の軸受油として,鉱油系軸受油,ディーゼルエンジン油等が使用されていますが,比較的短時間に粘度,全酸価の増加,スラッジ生成等が見られ耐久性が問題になるケースが多くなっています。このような用途にPAOを基材とした軸受油を使用し,耐久寿命が3倍以上に伸びた例があります。

また,回転型圧縮機(ベーンタイプ)にPAO系潤滑油を使用したところ,鉱油系の約8倍以上の耐久寿命が得られたという事例もあります。

PAO系潤滑油の使用による耐久性の向上は,労務費の削減や省資源に役立つのです。

1.4 PAOのその他特性を応用した効果事例

PAOは前にも述べました通り,鉱油系と比較して低いトラクション係数(粘度‐圧力係数)を持っています。

この特性を応用してギヤの伝達効率を向上することができます。PAO系省エネ型ギヤ油の伝達効率測定の結果によると,低温部では鉱油系に比べて3~4%,高温部でも1%の効率改善が得られました。また,PAOを回転型圧縮機に使用した事例では,容積効率が2%上昇し,電力消費量も100%負荷運転で6%以上,50%負荷運転で10%強削減されました。

今後,機械が高速化するに伴い,トラクション係数の低いPAO系潤滑油を使用することによって,機械損失の低減や発熱防止を図ることができると考えます。

1.5 PAOの使用上の注意点

PAOは粘度指数が高いため,自動車用高級潤滑油に利用されていますが,添加剤の溶解性が問題になることもありますので,その対応が必要です。

工業用としては,鉱油に比べイニシャルコストが高いことから普及しにくい面はあります。しかし,PAOの特性を十分活用すれば長寿命化によるメインテナンスコストの低減(省力化),省エネルギ等によってトータルコストが削減でき,イニシャルコストを十分にカバーすることができます。

2.多環縮合ナフテン

2.1 多環縮合ナフテンの特長

多環縮合ナフテンは,ナフテン環が3つ以上縮合した分子構造を持っています。製造する場合,純物質から合成する方法(合成ナフテン)と石炭系重質タール完全水素化による方法とがあります。鉱油にはパラフィン分,ナフテン分,芳香族分という成分が含まれていますが,多環縮合ナフテンは100%ナフテン分で,次のように,鉱油とは大幅に異なった特性を持っています。

(1)密度が高い
(2)粘度指数が低い
(3)圧力増加に伴う粘度の増加割合が大きい
  (粘度-圧力係数が高い,即ちトラクション係数が高い)

2.2 多環縮合ナフテンの最適用途

多環縮合ナフテンの粘度-圧力係数が高い(トラクション係数が高い)という最大の特長を活かした用途にトラクション・ドライブ機構に使うトラクション油があります。トラクションドライブ機構は,無段変速機の一種で,高効率を得るためにはトラクション係数の高いオイルが有利なことから合成ナフテンを使用しているケースがあります。しかし,コストが高いことから,大幅な普及には至っておらず,トラクション係数は若干低いながらも安価な多環縮合ナフテンが期待されています。

2.3 多環縮合ナフテンの今後の展望

多環縮合ナフテンは,トラクション油として利用されるほか,高荷重下における油膜形成能力が大きく,ころがり潤滑で問題となる耐ピッチング寿命の延長が可能なことから,ギヤ油,グリース等への適用が考えられています。また,100%ナフテン分で溶解性,分散性が高いことから,往復動コンプレッサ油にも適しており,実機評価でも吐出弁等に付着するカーボンが少なく良好な結果が得られています。このほか,金属加工油,ゴムのプロセス油等,従来ナフテン系鉱油が利用されている潤滑剤に代えて使用することも可能です。

2.4 多環縮合ナフテン使用上の注意

多環縮合ナフテンは高いトラクション係数を持つ長所もありますが,粘度指数が低いことや蒸発量が若干多く,引火点も低いことなど,鉱油に比較し劣っている点もあります。これからの欠点を改善する方法ですが,粘度指数については,鉱油系に用いられる粘度指数向上剤を添加すれば改良可能です。蒸発量,引火点が低いことで高温での使用が制限されることもありますが,通常の鉱油系潤滑油の使用温度範囲であれば問題ありません。

このほかアニリン点が低く,溶解性が大きなことから,パッキンやシール等の材料を配慮しなければならないこともあります。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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合成潤滑油

最終更新日:2021年11月5日