フッ素系合成潤滑油の特長 | ジュンツウネット21

フッ素系合成潤滑油の特長,用途などについて解説します。フッ素系合成潤滑油には,PFPE油(パーフルオロポリエーテル),CTFE油(クロロトリフルオロエチレンの低重合体),PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)があります。

フッ素系合成潤滑油の特長

フッ素系合成潤滑油はどのような特長をもっているのですか。用途についても解説願います。
解説します。

1.種類

次のような種類があります。

(1)PFPE油(パーフルオロポリエーテル)
 フッ素系の中では最も多く使われています。
(2)CTFE油(クロロトリフルオロエチレンの低重合体)
(3)PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)
 グリースの増ちょう剤として使われています。

2.特性

(1)高温特性:フッ素系潤滑剤(オイル,グリース)は,150℃で長時間使用しても,酸化,重合,分子破断等の化学変化は全く起こりません。

(2)低温特性:表1の通り,フッ素系オイル(バリエルタ 商品名)はシリコーンやエステル系,合成潤滑油に次いで低い凝固点を持っています。

表1 フッ素オイルの粘度と流動点
バリエルタ Fluid
密度 20℃ 約 g/mL
粘度 mm2/s 約 (cSt)
VI値 DIN 51564
使用温度範囲 ℃
凝固点 ℃ 約
20℃
40℃
50℃
100℃
バリエルタ IS Fluid
1.90
1,400
390
230
36
VIE 140
-25…260/280
-30
バリエルタ IMI Fluid
1.90
550
180
115
21
VIE 140
-35…220
-40
バリエルタ IEL Fluid
1.90
280
95
60
12.5
VIE 130
-40…180
-45
バリエルタ O Fluid
1.88
65
25
17
4.5
VI 85
-55…160
-60
バリエルタ IS/V Fluid
1.90
1,400
390
230
36
VIE 140
-25…260
-30
バリエルタ IMI/V Fluid
1.90
500
180
115
21
VIE 140
-35…220
-40
バリエルタ IEL/V Fluid
1.87
140
65
46
13
VIE 200
-65…200
-70

(3)酸化安定性:極めて優れています(表2)。

表2 各種グリースの酸化安定性
グリース
基油
増ちょう剤
酸化安定性 
バリエルタ L55/2 フッ素油 PTFE
0.1kg/cm2
シリコーングリース シリコーン油 Li石けん
0.2kg/cm2
合成油系グリース A ジエステル油 Li石けん
0.3kg/cm2
合成油系グリース B ジエステル油 Ba石けん
0.3kg/cm2
合成油系グリース C ジエステル油 ウレア系
0.3kg/cm2
合成油系グリース D αオレフィン油 Ba石けん
0.3kg/cm2
鉱油系グリース E 鉱油 Li石けん
0.4kg/cm2
鉱油系グリース F 鉱油 ウレア系
0.4kg/cm2

酸化安定性とは,高温(99℃),高圧(7.7kg/cm2)の酸素雰囲気中に,一定時間(100Hr)グリースを置いた後の酸素圧の降下具体(kg/cm2)をいう。(JIS K 2220.5.8)

(4)潤滑性:表3に四球試験の結果を示しましたが高い焼付荷重となっています。

表3 各種オイル,グリースの焼付荷重
オイル,グリース
組成
合格限界荷重
バリエルタ IEL フリュード フッ素油
>10kg/cm2
バリエルタ L55/2 フッ素油,PTFE
>10kg/cm2
汎用グリース 鉱油,Li石けん
2~3kg/cm2
シリコーンオイル シリコーンオイル
1.5~2kg/cm2
ウォームギヤオイル 合成油,極圧添加剤
7.5kg/cm2
ウォームギヤオイル 鉱油,極圧添加剤
4.5kg/cm2
極圧グリース 鉱油,Li石けん,MoS2
3kg/cm2
高温チェーンオイル 合成油
7kg/cm2

 (条件:曽田式四球テスト,300rpm,昇圧法による,温度室温)

(5)加水分解性:湿気,水,熱水によって分解しません。
(6)耐火性:不燃性で引火性もありません。
(7)耐薬品性:強酸,強塩基に対して高い温度でも安定です(表4)。

表4 バリエルタ フリュードの耐薬品性
薬品の種類
薬品名
耐薬品温度
観察結果
有機溶剤 すべての有機溶剤
300℃
溶剤蒸発,オイル変化なし
有機酸 すべての有機酸
300℃
有機酸は昇華または分解,オイル変化なし
有機塩基 トリブチルアミン
200℃
アミンは変色,オイル変化なし
無機酸 塩酸,フッ化水素酸
250℃
酸は蒸発,オイル変化なし
無機酸 オルトりん酸,硫酸
200℃
オイル変化なし
無機塩基 水酸化ナトリウム,水酸化カリウム,炭酸ナトリウム
200℃
オイル変化なし
無機塩 塩化カリウム
250℃
オイル変化なし
無機酸化性薬品 過マンガン酸カリウム,クロム酸カリウム
200℃
オイル変化なし
ルイス酸 塩化第二鉄,塩化亜鉛
200℃
オイル変化なし
ルイス酸 塩化アルミニウム
100℃
オイル変化なし

(8)揮発性:極めて低い揮発性を示します(表5)。

表5 フッ素オイルの蒸気圧
 
オイル名
バリエルタ Oフリュード
バリエルタ IELフリュード
バリエルタ ISフリュード
   
粘度 20℃
65cSt
280cSt
1,400cSt
40℃
25cSt
95cSt
390cSt
100℃
5cSt
25cSt
36cSt
蒸気圧 20℃
2×10-5Torr
5×10-8Torr
2×10-10Torr
100℃
3×10-3Torr
6×10-5Torr
7×10-7Torr

(9)ゴム・プラスチックへの影響:ほとんど影響を与えません(表6)。

表6 バリエルタ フリュードのゴムへの影響
加硫ゴムの種類
引張強さ(kg/cm2
伸び(%)
重量変化(%)
浸漬前
浸漬後
浸漬前
浸漬後
天然ゴム
245
246
394
336
0
スチレンブタジエンゴム
201
211
223
229
-0.1
ニトリルゴム
179
189
385
368
-0.4
ブチルゴム
133
138
287
306
0.1
ブタジエンゴム
182
180
494
439
0
クロロプレンゴム
179
177
230
205
-0.1
ウレタンゴム
476
507
521
497
0
エチレンプロピレンゴム
113
98
234
206
0.1
シリコンゴム
62
58
159
129
0
フッ素ゴム
120
119
190
183
0.1

 注)70℃×100時間  加硫ゴム浸漬試験

(10)毒性:基本的に人体に無害です。

3.用途と使用上の注意点

フッ素オイル,グリースの主な用途を表7に示しました。

表7 フッ素オイル,グリースの代表使用例
 
用途例
発揮している特長
オイル 半導体真空ポンプ 耐ガス性,低揮発性
高温ロール軸受 高温特性
酸素ブロアー 不燃性
グリース 電着塗装オーブン 高温特性
フィルム延伸機
ユルゲーター
PPC複写機
LBP
コーン製造機
クリーンルーム 低揮発性
真空機器,装置
遠心分離機 耐薬品,溶剤
各種バルブ

なお,フッ素系潤滑剤は他の油剤類との相溶性が全くありません。したがって装置に充填や塗布する際には,これまで使用してきた油剤類を完全に除去する必要があります。次に,フッ素系潤滑剤は,熱分解によって有害なガスを発生する恐れがあり,高温(300℃以上)にさらされる可能性がある場合には,換気を十分行う必要があります。また,これを指につけたままタバコを吸うことも厳禁です。

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フッ素系潤滑剤の製品一覧

フッ素系潤滑剤の種類、特性、そして用途や使用上の注意などをご紹介しました。以下の一覧から潤滑剤メーカーが提供する主な製品の詳細情報を参照できます。また、ご不明な点は各製品ページにある入力フォームからお問い合わせください。

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最終更新日:2022年5月9日