メンテナンストライボロジーとは何か | ジュンツウネット21

メンテナンストライボロジーと聞いてもぴんとこない方が多いのではないかと思いますが,メンテナンスを保全に,トライボロジーを潤滑に置き換えると,あァなんだということになるかもしれません。メンテナンストライボロジーは基本的には保全と潤滑の組み合わせですが,単に組み合わせたというだけではありません。メンテナンストライボロジーの考え方の二つの主要なポイントを示すと次のような点を挙げることができます。その一つは信頼性工学をベースにしているということです。無闇矢鱈に保全をするのではなくて,信頼性工学に立脚した論理的な保全の展開を行うことがメンテナンストライボロジーでは重要な要素となります。

二つ目の考え方は,トライボロジーを保全に有効に活かしていこうという考え方です。メンテナンスにとって,トライボロジーは強力なツールですが,現在のところトライボロジーの成果が保全に有効に活かされているとは言い難いと思います。トライボロジーの成果を保全に有効に活かすための活動がメンテナンストライボロジーの最も主体的な部分です。

ここでは,このような観点でメンテナンストライボロジーの紹介をします。

Q1 メンテナンストライボロジーという言葉をよく聞きますがこれは何のことでしょうか。

A1

1. 時代はメンテナンス

地球温暖化の対策を話し合う場として京都会議が催され,世界的にCO2対策が協議されました。今回問題とされたのは地球温暖化ですが,地球環境の破壊は18世紀の産業革命以来,走り続けてきた機械工業を始めとする工業化社会のツケが回ってきたものです。これまでの大量生産,大量消費というフロー型の社会構造の見直しをしなければならない段階に入り,ストック型社会へと変質しつつあることを意味しています。これまで以上に省資源・省エネルギーを追及していくことが要求され,いかにそれを実行するかが問われているのが現状ではないでしょうか?

日本に限ってみてもバブル経済が破綻し低成長経済に移行した今,生産の分野においても,否応なく低成長を余儀なくされています。このような経済状況において重要なことは,いかに生産にかかるコストを下げるかということです。これまで物作りの場ではどうしても設計から始まる生産ということに主力が注がれ,いかに物を作るかということが至上命題であった感が強いようです。作って,使って,捨てるという流れがメインであったように思われます。大事に使って,壊れたら直して(修理して)また使うというステップが抜けていたわけではないでしょうが,どちらかというと軽視されていたのではないでしょうか。

しかし現在のような状況においてはいかに大事に物を使うか,いかに長持ちさせるかということが要求されていると思われます。省資源・省エネルギーの徹底がこれからの至上命題になるべきでしょう。

作って,大事に使って,壊れたら直してまた使う,このような生産の場における省資源・省エネルギー活動の主体を占めるのがメンテナンスです。この考え方は,これからの生産において大きな比重を占めるべきものです。

Q2 メンテナンスの重要性についてご説明願います。

A2

2. メンテナンスの価値を考える

(1)生産とメンテナンス

機械設備を生産するということは図1*1に示すように,設計段階,製造段階を経て,機械設備に機能を盛り込むことです。

メンテナンスのフレームワーク
図1 メンテナンスのフレームワーク*1

これに対してメンテナンスは,機械設備が持つ実態機能を最大限に活かし,維持することです。機械設備はいかに高度の実態機能が盛り込まれていようが,それが十分に機能し,活かされていないならば,意味のないがらくた同然のものになってしまいます。その意味でその実態機能を維持するという活動は,実態機能を作り込む活動と等価の活動であり,メンテナンスの重要性はここにあります。

(2)トータルコストメンテナンス

機械設備の実態機能は使用時間の経過とともに変化(劣化)します。図2*1に示すように機械設備に備わった実態機能は要求機能より最初は高く設定されています。

機能の変化とメンテナンス
図2 機能の変化とメンテナンス*1

この実態機能は,メンテナンスを行わない場合は,使用時間の経過とともに,図の破線で示されるように単調に劣化していきますが,途中でメンテナンスをすることにより,機能レベルを回復させることができます。機械設備の生涯は,この機能レベルの低下とメンテナンスによる回復の繰り返しです。しかし,メンテナンスをすることによりそれなりのメンテナンスコストがかかるので,あまり頻繁にメンテナンスすることはかえってコスト過剰になります。このように機械設備にとってその生涯で必要となる経費(これをライフサイクルコスト,Life Cycle Cost:LCCという)は,実態機能の低下による損失とメンテナンスコストによる経費の両者のトータルとして求められます。その関係をモデル化して図3に示します。

メンテナンスコストとトータルコスト
図3 メンテナンスコストとトータルコスト

このように考えると機械設備のLCCを最小とするメンテナンスコストが存在することがわかります。このLCCを最小にするライフサイクルコストミニマム(LCCM)がメンテナンスの最も大事な目標となります。このようにLCCMを目指すメンテナンスをトータルコストメンテナンスといいます。

Q3 トライボロジーの意義とこれをメンテナンスに組み込む手法についてまとめて下さい。

A3

3. メンテナンスとトライボロジーの関わり

(1)トライボロジーとは

トライボロジーというのは1966年にイギリスで出されたJost Reportで初めて使われた言葉で,潤滑管理の重要性をアピールする用語として作り出されたものです。Jost Reportによると潤滑・潤滑管理に関するイギリスにおける年間の損失額は500億ポンドであり,このことから潤滑・潤滑管理の重要さを指摘しています。日本における同様の調査によると,日本における年間の損失額は1.99兆円と報告されています*2。1994年に行われた追調査では年間の損失として13兆円という推定が示されています*3。このように潤滑・潤滑管理の経済的重要性を再認識し,それをアピールするために作り出された用語がトライボロジーです。

ここで,トライボロジーの意味をもう少し具体的に理解してもらうために,トライボロジーの定義を示しておきますと,「相対運動を行う二物体間の相互作用を及ぼしあう表面および表面に関連する実地応用の科学と技術」とされています*4。従来用いられてきた潤滑という用語を包含し,さらに幅広く表面の問題を扱おうとする科学と技術,つまり実地応用の学問といえます。このトライボロジーを推進することによって得られる成果は,その成り立ちから省資源・省エネルギーは当然のことですが,さらにトライボロジーが摩擦摩耗を制御する技術であることから機械設備の性能の保証と向上などが期待されます。

(2)メンテナンスとトライボロジーの関わり

生産設備におけるトラブルに占める潤滑に起因するトラブルの割合を図4*5に示します。データは少し古いのですが,現在でも大きな変化はないものと思います。トラブル全体に対する比率を見ると,トラブルの発生件数比で25%,損失金額比で約30%が潤滑に関わるものです。これらのことから機械設備の故障に対してトライボロジーが非常に大きな影響を持っていることがわかります。

設備トラブル中に占める潤滑トラブルの割合
図4 設備トラブル中に占める潤滑トラブルの割合*5

次に,実際に損傷を起こした機械要素の割合を見ると図5*6のように転がり軸受,案内面・しゅう動面,歯車,シール,すべり軸受等など,トライボロジーと関連が深い機械要素が上位に並んでいます。これらの要素はトライボエレメントといわれます。

機械要素別トラブル発生割合
図5 機械要素別トラブル発生割合*3

また機械設備に発生する損傷にはどのようなものがあるかについての調査結果を図6*7に示します。

劣化発生頻度の高い機器の劣化モード
図6 劣化発生頻度の高い機器の劣化モード*7

これらの損傷の種類を劣化モードといいます。機械設備に発生する劣化モードにおいては,摩耗,漏洩,疲労,油劣化などここでもトライボロジーに非常に関係が深いモードが上位に並んでおり,機械設備の損傷に対してトライボロジーが非常に深い関わりを持つことがわかります。

メンテナンスは機械設備の損傷の発生・成長をいかに遅らせるかをメインテーマとしていることを考えると,メンテナンスに対してトライボロジーが密接な関係を持ち,トライボロジーなくしてメンテナンスは語れないことがわかります。

4. メンテナンストライボロジーの内容

メンテナンストライボロジーはメンテナンスに信頼性工学とトライボロジーをいかに取り込むかがポイントとなります。メンテナンストライボロジーの概念・内容をまとめると図78*8のように表すことができます。

メンテナンストライボロジーの領域(設計工程)
図7 メンテナンストライボロジーの領域(設計工程)*8 (画像クリックで拡大。ブラウザの戻るで戻ってください)
メンテナンストライボロジーの領域(製造工程)
図8 メンテナンストライボロジーの領域(製造工程)*8 (画像クリックで拡大。ブラウザの戻るで戻ってください)

設計工程,製造工程それぞれの時点で,信頼性,保全性を考慮したアイテムがあり,全体にトライボロジー技術をどう活かすかが問われます。例えば,設計工程の部分は信頼性設計に保全性とトライボロジー技術を活かしたメンテナンス設計です。特に劣化故障予測,さらに余寿命予測などのステップにおいてはトライボロジー技術の成果を十分に活用することが肝要です。

製造工程においてメンテナンストライボロジーとして取り上げた各項目は,ほとんどトライボロジーそのものであり,ここでもメンテナンスとトライボロジーの密接な関係が示されています。したがってメンテナンスにおいてはトライボロジーのデータを存分に活用することによって,効果的なメンテナンスが実施できることは明らかです。

<引用・参照文献>
*1 木村好次:潤滑,31,5 (1986) 287
*2 (財)機械振興協会・技術研究所編:「わが国の潤滑問題の現状」(昭和45年3月)
*3 (社)潤滑油協会:潤滑管理効率化促進調査報告書・潤滑管理技術実態調査(平成7年3月)
*4 Glossary of Terms and Deffinitions in the Field of Friction,Wear and Lubrication-Tribology-,OECD(1969)
*5 日本潤滑学会編:改訂版潤滑ハンドブック,養賢堂(昭和62) 133
*6 同上*3
*7 高田祥三編:「保全方式の決定基準等に関する調査研究」,(社)日本プラントメンテナンス協会(1997.3)
*8 似内昭夫監修:「わかりやすい潤滑技術」,(社)日本プラントメンテナンス協会(1995) 26,27

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最終更新日:2021年11月5日