製紙(抄紙)機用潤滑油の要求性能と望ましい潤滑管理について解説します。
製紙(抄紙)機械の潤滑油(望ましい管理は)
製紙(抄紙)機械ではどのような箇所に,どのような性能を持った潤滑油が使用されているのでしょうか。また,使用油の管理内容についても教えてください。
解説します。
1.抄紙機用潤滑油の要求性能
製紙工場内では,一般的に図1の工程で紙が作られています。
図1 製紙工程と水分の推移 |
図の通り,製紙(抄紙)機械は,パルプ工程で作られたセルロースの水溶液と充填剤の混合物から“水”を飛ばす(乾燥)ためのものであることがわかります。
このため,抄紙機用潤滑油には耐水性と耐熱性が重要な要求性能と言われてきました。
また,最近の新設機械の抄紙速度の加速的な増加およびそれに伴う熱的負荷の増大,また,省人化による遠隔操作の増加(油圧精密制御)等により,要求性能も広くなってきました。油剤ニーズの変化を表1に示します。
2.各種設備と要求性能
抄紙機の各パート別潤滑油要求性能を表2に示します。
表2 各パート別潤滑油要求性能
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抄紙機用潤滑油の潤滑箇所は,軸受,歯車といった機械要素のほかに,油圧作動油としての圧力媒体としても使用されるのが,大きな特長です。よって定期的な分析として,
- 適正粘度
- 劣化管理(全酸価等)
- 汚染管理(ミリポア・サーボ系の場合,厳しい)
- スラッジ管理
が,行われています。
3.グリースの潤滑管理
抄紙機の軸受の場合,最近では新設機械の場合にオイル潤滑を採用するケースが多くなっていますが,水が大量に混入する箇所および低速高荷重の潤滑箇所については,グリースを採用するケースが多くなっています。通常,高速回転のグリース潤滑箇所は振動計による傾向管理が一般的に行われ,予防保全の取り組みが行われています。しかし,低速高荷重の設備については,振動計での管理ができず,予防保全(予知保全)が難しい箇所も多いのが現状です。そのため,多くの製紙メーカーで,グリース鉄粉濃度計を使用した傾向管理が行われています。特にミキサー等の縦形に設置されたスラスト荷重の大きな設備については,有効と考えられます。
4.その他の管理項目
(1)循環給油系の給油量管理について
抄紙機(特にドライヤー給油系)の軸受に対する給油量は,抄紙速度に合わせて抄紙機メーカーが設定しています。しかし,改造による抄紙速度の上昇に対する給油量の増加がなされていなかったり,シール部分からの漏れの問題から意図的に給油量を絞ってしまっている場合が多くなっています。その結果,軸受の表面温度が上昇(冷却効果不足)し,油剤の異常劣化が進行したり,軸受のクリープによる破損の問題が表面化してきています。弊社では,全国の製紙会社の実態調査を実施し,図2のような関係を見出しました。
図2 抄紙速度と循環油温の関係 |
図の通り,給油量を絞ることにより,温度的に非常に厳しい潤滑条件になることがわかります。
どんなに優秀な潤滑剤を使用しても,給油量が少なすぎた場合,スラッジ化,早期劣化してしまうため,設備保全を担当される方は,現在どの位の給油量で運転がされているのか,最低限確認しておく必要があります。
(2)漏洩管理について
生産現場での大きな問題の一つに,ラビリンスシールからの油剤の漏洩による,紙の汚れが挙げられます。本問題は,給油量を削減してしまう主要因となっていることから,シール部分の改善と併せて検討していくことが必要と思われます。
油剤面から,この漏洩に関する対応として,漏洩個所の特定の意味で,着色剤による油種ごとの油剤の識別が検討されています。
ex)作動油:赤
軸受ギヤー兼用:黄色
ギヤー油:緑
この対応により,少なくともどの部分から漏洩しているのかの確認は,可能となります。また,同様に蛍光剤の投入も検討されています。
いずれにしても,本問題については機械メーカーと一緒になって検討していくべき課題と考えています。