自動車生産現場での潤滑油管理(上手なサンプリングが決め手) | ジュンツウネット21

Q1 使用油の管理はなぜ必要なのですか。

A1

1. 使用油管理の意義

設備機械の機構には必ず滑りや転がりを受けるしゅう動面があり,動きによって摩擦が発生し熱や摩耗が起きます。そこでその部分に潤滑剤を注油して摩耗の防止,焼付きの防止など,摩耗損失の低減を狙いとした機械の安全運転を継続する方策として実施しています。

それはオイルの性状にこだわるのではなく油中異物にも視点を置いた,機械に対する正しい潤滑状態を監視,管理することです。

正しい潤滑管理を実践することは生産性向上とコスト低減への貢献となり,同時に潤滑管理の技術と実際面の技能の伝承を目的とした教育は人材育成に,生きた教材となります。

目先のきいた技術と卓越した技能によって機械保全の実務を行えば設備管理業務がよりいっそう,生産活動に寄与するものです。

潤滑管理をさらに戦略的に進めるには科学的な「潤滑診断技術」があり,その中には機械導入時に機構条件から勘案して採用する「適正油管理」と機械稼働中における性能を診断する状態監視の保守による「使用油管理」の2つに区分されます。

特に生産性に対する機械の稼働と性能を,保障を維持する情報として最も早く,正確に得られるのは機械内部を循環している「使用油の点検」にあります。(図1

1.日常点検(現象面のチェック)
油量点検 →使用範囲と最低レベル位置を表示,稼働前と後の確認
油温点検 →使用範囲の温度を圧力計に表示,稼働前と後の確認
圧力点検 →使用範囲の圧力と最高圧力の確認
フィルタ点検 →目詰まり状態の確認(差圧計が便利)
タンク内油面点検 →気泡状態,臭気
騒音・振動点検 →始動時に手を触れて確認(空気吸い込み)
2.定期点検(性状チェック)
汚染度点検 コンタミナントの定量測定による汚れ状況確認
油中の摩耗粉状況による潤滑状態の確認
水分の定量測定による水分混入状況の確認
性状点検 泡立ち,放気性の状態確認
粘度変化状態の確認
酸性物質の混入による全酸価値の確認
水分離性の性能を確認する抗乳化度測定をする
耐摩耗性の性能を確認するチムケン極圧測定をする
その他
*添加剤の消耗については赤外線吸収スペクトル分析

図1 使用油の点検

使用油に含まれている油中異物はいろんな物質が濃縮されています。この物質の混入系統や発生要因を解析することで機械の痛んでいる個所を見出し,大きな故障を起こす前に対策・改善・処置の対応への施策ができます。まさに予防保全の第一歩は使用油の管理にあるといえます。

2. 使用油管理は予防保全の基本

設備機械を常に最高状態で稼働するには動きに異常を起こさないことが条件となります。

しかし機械は運転状況の環境,周囲の環境によって異常を起こす要因を常に接しているため,稼働に有害な性能低下や故障停止を招くことになります。このような事態を招かぬためにも機械が傷んでんでいる異常の情報を早期に収集し,故障を未然に防ぐ方法があります。

代表的なものとして振動法,負荷電力法,熱画像法,潤滑管理法などが活用されています。

予防保全での状態診断による機械の最適状態の確保,ベストコンデショニングベースメンテナンス(BCBM)の継続的実践であり,稼働劣化の発見ポイント(図2)にあるように,併用することにより情報のデータは信頼性の高いものとなります。

稼働劣化の発見ポイント
図2 稼働劣化の発見ポイント

予防保全の活動期間は設備導入時の試運転から生産稼働,設備廃却に至るまで実施されますが,この活動の中で潤滑管理法の中にある「使用油管理」は劣化の早期発見と予防をするための基本的な保全活動に欠かすことができません。つまり,機械の動く所を潤滑,防錆,洗浄の働きをしながら油は循環しているため,いろんな物質が集まってきます。この油中異物の状況と油の性状を併せた日常点検,定期点検で,その変動を傾向的判断,あるいは絶対的判断による監視で把握することは機械の稼働を守るための確実な手法であり,使用油管理は予防保全の基本といえます。(図3

予防保全の基本
図3 予防保全の基本

使用油管理の実務は「人の健康管理」と同じで,使用油の周期計画(図4)によるサンプリングで測定,分析,診断の健康管理をすることは,生きたデータの入手となり,確かな機械の健康状態を確保する導きとなります。

油種別
用途別
周期
潤滑油 鉱物系 1回/年または6ヵ月
合成油系 1回/6ヵ月
グリース 1回/年
作動油 鉱物系 1回/6ヵ月
合成油系 1回/3ヵ月
水グリ 1回/3ヵ月
切削油 鉱物系 1回/3ヵ月
水系 1回/1ヵ月
洗浄油 鉱物系 1回/週または1ヵ月
水系 1回/1ヵ月
図4 サンプリングの周期

機械に使用している油は用途によって目的は違いますが,潤滑油は機構部分を循環して発熱の予防,摩耗の抑制作用などをしていますが,点検時のチョットした油断や油中異物の見落としがあるとしゅう動面に大きな影響を引き起こすことになります。使用油管理の不備などによる代表的なものとして多いのは,サンプリングミス,補給ミス,油量不足,異物の混入などによるトラブルです。

したがって,使用油の中には故障となったもの,故障を起こそうとしている要因情報が山積しています。この情報をしっかり捕まえることは,正しくサンプリングする技能の実践が大切で,その行為が正しい診断・異常を予知することに繋がるのですが,しかし,その行為を手抜きしたり,間違えたサンプリングをすると誤った測定データとなり,誤った診断となります。この誤っているサンプリングに気付かない人が多く,その結果,診断の信頼性は崩れ,保全経費は多大なる出費を招き,大きなツケを生じることになります。

3. 使用油管理の上手な進め方

生産工程には多種多様な機械が稼働し,そこに使用しているオイルは潤滑油・作動油・グリース・切削油・錆止め油など用途に適した潤滑剤として活躍しています。

これらのオイルは新油である時期は短く,設備に補給した時点から新油は空気中の酸素や水分,金属に含まれている酸素との接触で酸化が始まり添加剤の消耗,さらには異物の混入による性能低下を余儀なくされ,その進行速度は環境状態によって左右されます。

したがって,使用油管理が実りあるものとして上手に進めるには確かなサンプルを採集することが大前提となります。

そこで,確かなサンプルを採集するためにはサンプリング作業から測定・分析・診断に至るまで作業ミスを生じないように,ラクに,早く,安全に,正確な作業ができるように作業を標準化することです。

標準化するには事前に油種の特性や使用環境を調査して見やすく,使いやすく,実行しやすい内容にした一連の仕組みにします。

使用油管理の仕組みの基本的な考え方としては,潤滑管理の基準化の内容から油種の特性や使用条件から作成したサンプリング計画表(表1)や油種別分析手順表(図5)による定期分析と精密分析の測定項目,並びに判定基準表や管理台帳の作業工程を分かりやすくするサンプリングの仕組み(図6)を作ることです。次に実際に着手するうえで経験の少ない人でもやりやすく,作業を間違えないように一つ一つの作業ごとの標準作業表を作り,これを活用することです。

表1 潤滑管理オイルサンプリング計画表(クリックで拡大図)
潤滑管理オイルサンプリング計画表
油種別分析手順表
図5 油種別分析手順表(クリックで拡大図)
潤滑管理の基準化

油種別一覧表

サンプリング方法

測定項目の区分

判定基準表

管理台帳

図6 サンプリングの仕組み

(1)サンプリングチェックシートの記入例
 「ポカヨケ」:機械名,機械番号,油種名
 「ノウハウ」:サンプル採集個所を絵で表示
 「機械の特徴」:タンク採集,回路採集
(2)標準作業書の記入例
 「作業ステップ」:連絡,準備品,個所清掃
 「急所のポイント」:稼働時は静圧時に採集
 「安全のポイント」:稼働時採集の注意個所

具体例

機械を保守する使用油管理のキーポイントは情報源の扉ともいえるサンプリングにあるといっても言い過ぎではありません。つまり,次工程で油の健康状態を把握するために決められた項目ごとに正確に測定しても,例えば,隣の機械の油や容器や工具の汚れ,採集油量が不足などの,誤ったサンプルでは「ウソ」の測定データとなります。

担当する人が早く気がつけば良いのですが,気がつくのが遅れたり,信じてしまった時はその判断にも大きな間違いを起こします。

例えば,本当は異常がない機械に対し,機構部分に異常摩耗を確認と判断,「装置内の再点検」や「更油」を指示。また,その反対に実際は故障寸前である機械に,「異常がない」ので通常の傾向管理を進めるなどの間違った対策をして,大変な事態を招いていることを聞かされています。

サンプリング作業はベテランや新人でも間違えない仕事をするためのチェックシートの活用や標準作業書に基づいた実践訓練をすることで信頼できるサンプルが得られ,解析者は油中にある確かな情報を基に判断することができます。

Q2 潤滑管理をうまくやるためのサンプリング方法をご紹介下さい。

A2

4. 真の診断を導く確かなサンプリング方法

日常的に行われているオイルのサンプリングの信頼性を高め,正しい使用油の診断に近づけるためには確かな採集による測定値が得られることが大切です。

計画的なサンプリング作業の場合は,事前の準備が可能であるため万全の準備と作業ができるものですが,しかしサンプリングの個数が多くなり,作業が連続的になるとマンネリ化して注意力が散漫になって,確かなサンプルを採集できないこともあります。

特に,突発的なサンプリング作業となると備品の不足,機器の汚れなどで慌てることがあるので,日頃から正しい方法と応急的なやり方について習得しておくことです。

確かなサンプリング手順のポイントとしてサンプルの取り方,方法,器材の準備から配送に至るまで神経を使った,気配りのある心構えで作業することが真の診断に繋がるものです。

5. [目的に合ったサンプリング]の例

まず,心構えとして常に整理,整頓,清掃を第一にして,常に容器や器材を清潔に保つことを身に付けた躾の行動が望まれます。

そして,サンプルの取り方,器材の取り扱いおよび準備,並びにサンプルの提出方法とルート,さらには計画と突発のサンプルが,何を目的としているのか,基本的なことを習得しているとサンプリングの実作業に大変役立つものです。

そのポイントについて振り返ってみます。

5.1 サンプルの取り方

(1)どのような場所
 1.オイルの性状・清浄確認は稼働中におけるタンク中央部から採取
 2.機能別にオイルの清浄確認は回路途中より採取(採取口設置要)
 3.油中異物の確認は回路内のフィルタ表面の付着物を採取

(2)どんな方法
 1.専用シリンジを活用(事前に洗浄) 吸引式・負圧式
 2.直接回路の途中から採集(周囲の清掃) 周囲環境空気の汚れ注意
 3.タンクドレーンから採取取り出し口最初の油(200cc)は捨て
 4.グリースは一般に汚染物確認であるためしゅう動部から採集

(3)必要な量は
 1.潤滑油,作動油,切削油の定期分析は通常1リットル程度
 2.グリースの場合は機構条件で変わるが最低でも(3~5g)以上

5.2 サンプルを入れる容器について

(1)専用の容器は
 1.汎用で使用できるポリ容器で容量目盛りがついているもの
 2.ガラス瓶タイプも容量目盛りつきが市販されているが破損に要注意
 3.いずれの容器とも口の広いものが採取しやすく扱いやすい

(2)専用の容器がない時
 1.飲料水用のペットボトルでも良いが必ず洗浄のこと
  *洗浄方法の注意点 家庭洗剤のうすめ液で1~2回洗い,ぬるま湯で4~5回ほど撹拌すすぎ,内部を確実に乾かす
 2.蓋がしっかりと締まりオイルの漏れが生じないこと

5.3 サンプルの出し方について

(1)サンプル梱包
 1.ダンボール箱で露出させないようにし,キャップを上にして入れる
 2.搬送の途中の破損や漏れ予防に周囲に衝撃防止材を入れる

(2)提出の期間
 1.サンプリング実施後1週間以内に提出するのが基本である
  *注意点 計画的なサンプルは事前に提出先と連絡を取り確認する
 2.突発的に発生した時はその重要性を伝え日程を決める
  *注意点 提出先は順番待ちの測定になる(最大1ヵ月)
 3.物品の記入は鉱物系潤滑油または化学薬品として明記する

(3)搬送ルートと提出先担当者
 1.サンプルの引き渡しの担当者と連絡方法などの取り決めをする
 2.計画的・突発における搬送ルートなどの取り決めをする

使用油の管理の現状は表面的に処理をしがちですが,使用油を正しく管理する大切さやその管理のポイント,並びにサンプリング作業の責任などについて総括的に記述しました。

潤滑管理の軸である潤滑診断技術の目的は,設備機械のあるべき姿,適正油のあるべき姿を目指した幅の広い,そして奥の深い技術であることは周知のとおりです。

今後とも潤滑管理担当者をはじめ関係者方々のよりいっそうの発展を願い,潤滑診断技術の活動の成果を期待するものです。

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日