リップパッキンに対する使用油による影響について,各種作動油とパッキン材料との適合表を示します。浸漬試験結果におけるゴム材料の各物性値変化からの使用可否判定の目安を付記します。
リップパッキンに対する使用油による影響
リップパッキンに対する使用油による影響について教えてください。
解説します。
合成ゴムやエラストマー材料は使用油の影響により膨潤/軟化や収縮/硬化現象を示しますが,変化量が大きければパッキン性能面にも影響を及ぼします。時として大きなトラブル原因ともなります。この変化量は,使用油(接触媒体)との適合性に由来し,使用温度×時間により加速されます。
図1上段に各種作動油とパッキン材料との適合表を示しますが,作動油の銘柄によっては添加剤等の影響等で問題が発生する場合もあるため,特殊な添加剤や性状の油種に対しては適合性判断としての浸漬試験の実施をお勧めします。浸漬試験結果におけるゴム材料の各物性値変化からの使用可否判定の目安を下段に付記します。
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ニトリルゴム(NBR)
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フッ素ゴム(FKM)
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ウレタンゴム(AU/EU)
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その他使用可能な材質
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標準
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耐摩耗性
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低温用
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石油系作動油 |
一般作動油 |
◎
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◎
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△
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◎
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◎
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耐摩耗性作動油 |
◎
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◎
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△
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◎
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◎
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低温用作動油 |
◎
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◎
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◯ *1
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◎
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◎
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難燃性作動油 |
リン酸エステル系作動油(純粋) |
✕ |
✕
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✕
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◯ ~ ◎
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✕
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ブチルゴム,エチレンプロピレンゴム |
リン酸エステル系作動油(混合) |
✕
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✕
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✕
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◯ ~ ◎
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✕
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脂肪酸エステル系作動油 |
◎
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◎
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◯
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◯
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△
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水-グリコール系作動油 |
◎
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◯
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◯
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△ *2
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✕
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エチレンプロピレンゴム |
W/Oエマルジョン系作動油 |
◯
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◯
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-
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△
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✕
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O/Wエマルジョン系作動油 |
◯
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◯
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-
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△
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✕
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◎:優 ◯:良 △:可(メーカーに問い合わせ要) ✕:不可
*1 低温用作動油の一部銘柄に低温用パッキンと全く適合しないものがあります。
*2 耐油試験などの結果だけで判断できない場合があります。特に高温使用は注意が必要です。
(1)耐油(浸せき)試験方法
耐油(浸せき)試験についてはJIS K6258(旧JIS K6301)に『加硫ゴムの浸せき試験方法』が規定されています。
a)試験条件
試験油 |
No.1 油(高アニリン点),No.2 油(中アニリン点),No.3 油(低アニリン点)の3種類。 |
温度 |
-70℃~250℃まで19種類。通常100℃,120℃が選択されます。 |
時間 |
22 ±0.25 時間,480-2時間,720-2時間,7日±2時間,および7日の倍数±2時間。
通常720-2時間が選択されます。 |
b)測定項目
体積変化 |
試験前の体積に対する浸せき後の体積変化率(%)。 |
硬さ変化 |
試験前後での硬さ変化(pts)。 |
引張強さ変化 |
引張強さ変化:試験前の引張強さに対する浸せき後の引張強さ変化率(%)。 |
伸び変化 |
試験前の伸びに対する浸せき後の伸び変化率(%)。 |
質量変化 |
試験前の質量に対する浸せき後の質量変化率(%)。 |
寸法変化 |
試験前の寸法(長さ,幅および厚さ)に対する浸せき後の寸法変化率(%)と表面積変化率(%)。通常この試験は省略しています。 |
(2)測定結果による判定の目安
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体積変化率(%)
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硬さ変化(pts)
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引張強さ変化率(%)
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伸び変化率(%)
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備考
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十分使用できる |
±5以内
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±5以内
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-20以内
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-20以内
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運動用で十分使用可能 |
使用できる |
+10/-5以内
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±10以内
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-30以内
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-30以内
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運動用で厳しい条件は避ける |
条件により使用できる |
+20/-10以内
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±15以内
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-50以内
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-50以内
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固定用および軽い運動用 |
使用できない |
+20/-10超過
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±15超過
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-50超過
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-50超過
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使用を避ける |
(3)耐油性に関して
膨潤→ゴムの分子間に液体の分子が入り込んだ状態(一般に硬さ,比重は低下する)→摩擦・摩耗大
収縮→可塑剤などの溶けやすい配合剤が抽出した状態(一般に硬さ,比重は上昇する)→漏れ
耐油性判別法→油のアニリン点による判定(アニリン点が低いほど,ゴムを膨潤させる)が知られています。
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図1 作動油とパッキン材料の適正判断
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