Oリングは,多種多様な流体に使用されており,流体はそれぞれ異なる特徴を持っているため,各流体に耐性を有するエラストマー材料を選定しなければトラブルへと発展します。エラストマー材料の各種流体への耐性については,物理的な影響と化学的な変化を考慮する必要があります。
Oリングの薬液・油によるトラブル
Oリングの薬液・油によるトラブルについて教えてください。
解説します。
Oリングは,酸やアルカリ等の薬液から鉱物油・水-グリコール油の作動油など多種多様な流体に使用されています。流体はそれぞれ異なる特徴を持っているため,各流体に耐性を有するエラストマー材料を選定しなければトラブルへと発展します。
一般的にOリングとして使用されるエラストマー材料には,NBR(ニトリルゴム),HNBR(水素化ニトリルゴム),EPDM(エチレンプロピレンゴム),FKM(フッ素ゴム),VMQ(シリコーンゴム),U(ウレタンゴム)があります(表1)。これらのエラストマー材料は,それぞれ耐酸性・耐アルカリ性に優れたり,耐油性に優れたりといった特徴を有しますが,EPDMのように耐水性には優れるものの耐油性に乏しい等の弱点も合わせ持っています。このため,各流体に対してエラストマー材料を選定する場合,その特徴を十分考慮して行う必要があります。
表1 各種エラストマー材料の評価*1
*表中の A:優 B:良 C:可 D:不可 を示すが,配合により異なることがある。 |
エラストマー材料の各種流体への耐性については,物理的な影響と化学的な変化を考慮する必要があります。物理的な影響は流体によるエラストマー材料の膨潤や収縮の形となって現れますが,その変化は時間が経過すれば平衡に到達します。膨潤の度合については,対象となる薬液や油を用いた浸せき試験で確認することが望ましいですが,流体とエラストマー材料のSP値(溶解度パラメーター)の差が大きければ大きいほど,膨潤が発生し難くなることが確認されていることから,対象となる流体とエラストマー材料のSP値から使用可否を推測することも有効な手法の一つです。
一方,化学的な変化として,流体によるエラストマー分子の切断や架橋などの反応が起こり時間の経過に伴って変化が進行します。化学的な変化は温度の影響を受けやすいため,温度が低い場合,短時間で変化が現れにくいことがあります。このため,促進試験として実際の使用温度よりも高温の条件下で試験が実施されています。しかし,試験温度を使用温度よりも高温に設定しすぎると熱による劣化が影響し,正確な流体へのエラストマー材料の耐性を確認できない場合があります。このため,エラストマー材料と使用流体との耐性を確認するには,使用温度近くで長期的な試験を実施することが理想的です。*2
使用する各種流体ごとに,エラストマー材料を選定することは煩雑なため,非常に幅広い耐薬品性を持つ1つのエラストマー材料ですべてをカバーすることが理想的です。事実,FFKM(パーフロロエラストマー)と呼ばれるエラストマー材料が存在しますが,上述した一般的なエラストマー材料と比較するとコストが大きくかけ離れており,汎用品として使用することは難しいでしょう。
*1 日本バルカー工業, ハンドブック技術編
*2 目功,固定シールとしてのOリング,バルカーレビュー38,8,1994,P6~P13