低流量微細粒子投射装置 COP SYSTEM | ジュンツウネット21

「低流量微細粒子投射装置 COP SYSTEM」  2011/12

伊藤機工株式会社/IKK ショット株式会社

はじめに

ショットピーニングは粒子を材料表面に高速で衝突させる表面改質技術の1つで,その簡便さと低コストから,古くから自動車部品や航空機など様々な機械要素の疲労強度向上に適用されている。

近年,衝突粒子に100μm以下の微細粒子を用いる微粒子ピーニングも盛んで,従来の疲労強度向上に加え,表面形状を制御するテクスチャリング,粒子の埋没による材料表面の傾斜組成化,さらには金属組織の微細結晶化や非晶質材料の穴あけ加工など新たな効果についても検討されている。

従来のショットピーニング装置では,微細粒子の凝集あるいは粒子流量や粒子速度の制御が困難で,表面テクスチャにおいてはサブミクロン以下の微細粒子を安定的かつ高精度に投射できる技術への期待も高まっている。

本稿では,新開発された低流量微細粒子投射装置(COP)(図1)の主な特徴と適用事例について紹介する。

開発装置の外観
図1 開発装置の外観

1. 開発装置の特徴

1.1 粒子貯留タンク

従来のショットピーニング装置は,直圧式や重力式と呼ばれる粒子搬送方法が用いられ,直圧式はタンクに直接加圧することで粒子がノズルに搬送されるので,高エネルギーでの粒子投射が可能だが,粒子速度に比例して粒子流量も変動する。一方,重力式は粒子の自重あるいはノズルに送られる圧縮ガスの負圧を利用して粒子がノズルに搬送されるので,比較的ソフトな投射を可能とするが,直圧式と同様に粒子速度と粒子流量は連動する。

図2*1に示す開発装置の粒子貯留タンクは,基本方式は直圧式と同様で,タンク内に直接圧縮ガスを供給している。圧縮ガスを供給することで,タンク内では微細粒子が撹拌され,タンク内に混合されたゴムボールが凝集した微細粒子を個々に離散させる。

離散した個々の微細粒子は,タンク上方から重力式の負圧作用と同様に微細粒子をノズルへと搬送する仕組みとなっている。

開発装置の模式図
図2 開発装置の模式図

1.2 投射ノズル

従来のショットピーニング装置では,投射ノズルにストレート式やベンチュリ式(ノズルの入口と出口の径は同じだが,ノズル内部を絞ることで,より高速な投射を行う)が用いられているものの,そのいずれもが単管構造となっており,直圧式あるいは重力式のいずれの場合でも粒子の流量と速度をそれぞれ制御することができないでいる。

本装置では図2に示すように,二重管構造を有した投射ノズルを採用しており,内側ノズルは粒子貯留タンクと直接接続されており,タンク内で離散した個々の微細粒子のみが搬送され,流量はタンクに印加される圧縮ガス量や圧力によって制御を可能としている。

また,外側ノズルには別系統の圧縮ガスを印加している。この印加された圧縮ガスはノズルの出口付近で内側ノズルに搬送された離散粒子と混合され,噴出粒子の加速を行うことが可能となる。例えば,粒子流量を低流量とした場合でも高速での粒子投射を実現することも可能となる。

2. 適用事例

2.1 表面テクスチャ

トライボロジーにおける摩擦の低減には,鏡面や加工溝などによる表面テクスチャが有効な手段であり,テクスチャ表面の最適化に関して様々な研究・開発がなされている。*2

材料表面にマイクロディンプルを形成することも表面テクスチャの1つで,形成されたマイクロディンプルは潤滑剤の油溜りとしての機能だけでなく,初期摩耗などによって発生する摩耗粉の収納場所として機能することで摩擦を低減することが知られている。

マイクロディンプルの形成には生産性やコストを考慮して,近年ではショットピーニングによる方法も注目されている。

しかし,従来のショットピーニング装置では,凝集した微細粒子もそのまま投射され,凝集した微細粒子の衝突した表面には図3に示すような大きな損傷が生じてしまう。*3

凝集微細粒子の投射面
図3 凝集微細粒子の投射面

本装置では,微細粒子が離散しており,材料表面には分散したマイクロディンプルが形成されている(図4)。

本開発装置での処理面
図4 本開発装置での処理面

2.2 精密加工

機械要素への要求事項は様々だが,エネルギー消費量の削減から機械要素の小型・軽量化や低摩擦化といったことへの要求は年々高まっている。

これらの課題解決に表面改質による方法も様々検討されており,ショットピーニングもその1つである。

従来のショットピーニングでは,図5左側に示すように,粒子の衝突は広範囲に及ぶ。しかし,ホットスポット(最適なピーニング効果が得られる部位)はコントラストの異なる部分となる。一方,本装置で処理された場合(図5右側),従来のショットピーニングに比べて粒子衝突範囲は狭小だが,ホットスポットはほぼ全域に及んでいる。

処理範囲の違い
図5 処理範囲の違い

したがって,本開発装置での表面改質,粒子衝突部がそのまま効果範囲となり,表面改質を適用したい部分にのみ処理可能なだけでなく,低流量投射装置のため使用する粒子量の削減も可能で,コストの低減も期待できる。

おわりに

これまで,ショットピーニングは単なる機械要素の疲労強度向上手段として自動車業界や航空機産業で用いられている表面改質処理であった。

投射粒子に微細粒子を使った研究や開発が行われたことで,これまでとは異なる現象や効果も数多く見出され,その適用も始まっている。

また,トライボロジーの世界でも,コーティングなどの新技術の研究が行われてはいるものの,表面形状制御いわゆる表面テクスチャによる方法も再び脚光を浴びている。*4

これらが融合することで,両者の技術力の向上だけでなく,新たな効果についての足がかりになることで,日本全体の経済の発展に役立てれば幸いである。

〈参考文献〉
*1 安藤 正文 他:マイクロディンプルが付与された転がり軸受の特性評価,日本トライボロジー学会トライボロジー会議予稿集,2008-9,p.233-234
*2 是永 敦 他:すべり案内面のトライボロジー特性に及ぼすテクスチャの影響,日本機械学会年次大会講演論文集,2008号,Vol.8,p.111-112
*3 特許番号4612095,ショットピーニング装置
*4 佐々木 信也:トライボロジー特性改善のための表面テクスチャリング,潤滑経済,No.542,p.2-7

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    最終更新日:2019年8月20日