脂肪酸エステル系作動液の特長 | ジュンツウネット21

日本で脂肪酸エステル系作動液と称されているものは,ネオペンチルポリオールと脂肪酸エステルをベースとしたヒンダードエステル型合成作動液です。脂肪酸エステルの特長,使用する場合の注意事項について解説します。

脂肪酸エステル系作動液の特長

作動油に脂肪酸エステル油を使うことになりました。今までの作動油の中では聞きなれない種類です。この作動油について製造方法,油の特長,使用する場合の注意などを解説してください。
解説します。

脂肪酸エステルとは

日本で脂肪酸エステル系作動液と称されているものは,ネオペンチルポリオールと脂肪酸エステルをベースとしたヒンダードエステル型合成作動液です。

そして図1のように,ネオペンチルポリオールと脂肪酸の構造を変えることにより性能上に変化が生じますが,その工夫が油メーカーのノウハウとなっています。

合成油の性質とエステル構造との関係
図1 合成油の性質とエステル構造との関係

もともと,脂肪酸エステルは航空機のジェット機の性能向上につれて,熱安定性・耐荷重性といった潤滑油の性能に対する要求が,過酷化し発展してきました。

この特性を損なわずに,作動油としての要求特性を加味し,さらに火災の危険性の高い油圧装置に使用される新しい型の作動液が1970年にアメリカのクェーカーケミカル本社研究所で開発されました。順次,オーストラリア,ヨーロッパ諸国にて採用され,日本においても製鉄会社を中心として使用され,評価も定着してきました。

脂肪酸エステルの特長について

脂肪酸エステルの特長について列記しますと,

1)極めて耐摩耗性が優れている。
2)粘度指数が高くポンプ効率を高める。
3)パッキン,ゴムホースなどについては一般作動油(鉱物油)用のものが使用でき経済性に優れている。
4)皮膚障害あるいは有毒ガスの発生の心配がない。
5)耐熱性に優れている。
6)難燃性が高い。
7)一般難燃性作動液(りん酸エステル系)より安価であり,また供給に対して体勢は十分整っている。
8)サーボバルブ内蔵装置および高圧ポンプへの適合性が極めて優秀である。

などがあげられます。

既存の難燃性作動液との簡単な比較を表1に示しました。

表1 難燃性作動油の比較
 
W/O型作動油
水-グリコール型作動油
リン酸エステル型作動油
脂肪酸エステル型作動油
粘度指数
不良(低温時にキャビテーションを誘発する)
比重
水より小
水より大(運転開始時に問題発生可能性大)
水より小
使用限界 高温
悪い
水分蒸発大
やや良好
良好
低温
悪い
良好
良好
良好
引火点
水分蒸発による可燃性
260℃
270℃
耐摩耗性 潤滑性不良
高圧力およびサーボ弁には使えない
良好
良好
金属への影響 錆発生の可能性大 Zn,Cd,Mgをおかす ケミカル,エロージョン発生の可能性大 特になし
塗料への影響 供給者によってチェック 油槽内にペンキ塗りはいけない 供給者によってチェック
パッキンへの影響 ポリウレタン系及び皮製パッキンは使用できない 特殊なものを使用(消耗品としてコスト高になる) 普通のパッキンで良い
取扱い,使用上の注意 長期間の取扱いは人体に悪い
含水量の調節が必要
蒸気は危険,臭気大
含水量及びPHの調節が必要
皮膚を乾燥させる 皮膚障害試験合格
廃水処理 水分含有量が多いため焼却が難しい。バクテリアの発生の可能性がある 廃水処理に特別の装置が必要
水分含有量多いため焼却が難しい
フェノール系誘導体のため,廃水処理に特別の装置が必要 生物分解性であり,水との分離性もよく廃水処理は簡単

使用する場合の注意事項について

(1)難燃度について銘柄に差がある。
 すべての脂肪酸エステルが難燃性作動液の範囲に入るのではなく,市販の脂肪酸エステルの中にも鉱油並の難燃性しかないものもあります。欧米諸国,たとえば米国,英国,オーストラリアの鉱山局では独自の難燃性試験方法が規定化されており,それに合格したものだけに難燃性作動油としての販売許可を与えています。

高圧噴霧試験において燃焼継続時間が,30秒以内の時には難燃性について合格とみなすEuronorm(欧州石炭鉄鋼共同体規格)があります。

表2 高圧噴霧点火試験結果※
噴霧圧力70kg/cm2
   
試験油温度(℃)
着火距離(cm)
燃焼継続時間(S)
クェーカーケミカル社
クィントルブリック 822-300
40
150
0~0.5
65
150
1.2 1.2 1.5 1.5 0.5
クィントルブリック 822-400
40
150
0~0.5
65
150
0~0.5
B社
脂肪酸エステル
40
150
3.2.2.1
65
150
30以上
C社 鉱油系耐摩耗型作動油
40
150
30以上
65
150
30以上
※Q&A第1集発刊時

(2)タンク内塗料で侵されるものがある。(フェノール樹脂系についてとくに注意が必要)

(3)ゴムで使用不能のものがある。(ブチル系ゴムについてとくに注意が必要)

(4)水分・ゴミ等のコンタミ予防保全について。
 これは作動油全般にいえることではありますが,脂肪酸エステル油の場合にもあてはまります。また,同じ脂肪酸エステルベースのものでも,構造上,また添加剤が異なりますので混合には注意が必要と考えられます。

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日