油圧機器の耐圧力表示には最高圧力とか,定格圧力,疲労圧力などがありますが,油圧機器を実用する際にどの圧力表示を選定の基準とすればよいでしょうか。
解説します。
1. 圧力に関する用語
油圧機器の圧力についての用語には,次のようなものがあります。
(1)呼び圧力(Nominal Pressure)
呼称の便宜をはかるために,機器または油圧システムに対して用いる圧力。
(2)使用圧力(Working Pressure)
機器またはシステムにおいて,実際に使用される圧力。
(3)最高使用圧力(Maximum Working Pressure)
機器またはシステムにおいて,使用可能な最高圧力。
(4)保証耐圧力(Proof Pressure)
最高使用圧力に復帰したとき,機能の低下をもたらさずに耐えなければならない圧力。
注)この圧力は,規定の条件のもとにおけるものとする。
(5)破壊圧力(Burst Pressure)
油圧機器が実際に破壊する圧力。
(6)定格圧力(Rated Pressure)
定められた条件のもとで性能を保証できる圧力で設計および使用上の基準となる。
(7)設計圧力(Design Pressure)
油圧機器の設計において,その各部について疲労を考慮して材料の厚さなどの機械強度を計算するときに用いる圧力。
使用圧力,使用温度の関連において,もっとも過酷な条件に対して定める。
2. 材料の疲労破壊
油圧機器を構成する材料は静的な荷重によって生じる応力よりもはるかに低い応力でも,繰り返して荷重を加えることにより破壊をします。
このような破壊が起こるのは,長期の使用後ですから,この現象を疲労(Fatigue)と呼びます。
油圧機器に生じる破壊のほとんどが疲労によるものです。疲労破壊の特徴は,破壊部分の外観にほとんど変形を生じない脆性破壊で,それまで気がつかないことが多いことです。
3. 耐圧試験
耐圧試験は油圧機器の耐圧性の確認を目的として行うもので,試験の性格として形式認定試験と商用試験があります。
形式認定試験では,製品が設計で示された耐圧性を満足するか否かを確認します。
商用試験は製品に各種の欠陥がないことを確認します。
耐圧試験には,静圧試験,破壊試験,疲労試験の三種類があります。
(1)静圧試験
静圧試験は原則として,設計圧力の1.5倍を機器に加えます。昇圧速度は規定されていませんが衝撃を加えないように昇圧します。
静圧試験に保持する時間は原則として三分間とし,局部的に,ふくらみ,伸び,漏れなどの異常のないことを確認します。表1にJISの例を示します。
表1 JISの“静圧試験”試験圧保持時間※
(注)*JIS B 0142-1984参照 ※Q&A第1集発刊時点 |
(2)破壊試験
原則として油圧機器が破壊するまで徐々に圧力を上げてきます。
(3)疲労試験
試験圧力(PF)は設計圧力(PD)に加速係数(KN)とばらつき係数(KV)を乗じたものとします。試験圧力は供試体に断続的に加えます。
疲労試験圧力 PF=KN×KV×PD
加速係数(KN)は表2によって定めます。
表2 加速係数KN
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加速係数は疲労試験を107回行わずに,106回で打ち切る場合に設計圧力に乗じて試験圧力をもとめるためのものです。
ばらつき係数は,疲労強度のばらつき供試体の数とに対応して定まるもので,設計圧力に乗じて疲労試験圧力をもとめるために用います。
表3に,ばらつき係数(KV)を示します。
表3 ばらつき係数KV(確信度90%)
(注)表のKV値は90%の確信度に基づくものである。99%の確信度に基づくKV値を得るためには,指定の個数の2倍の数だけ試験を行えばよい。 |
表3の中にある非破壊度(保証度,Assurance Level)とは設計圧力を107回繰り返しても油圧機器の耐圧部が破壊しない確率です。
また確信度とは製造者が所定の非破壊度を保証する確率(Confidence Level)です。
4. S-N曲線
疲労試験の結果は,最大応力(Stress)と,破壊に至るサイクルの数(Number)の関係を片対数または両対数のグラフに図1のように示します。この曲線をS-N曲線と呼びます。
図1 S-N曲線 |
図1の例で示したように,鋼はある応力以下ではS-N曲線が水平となり,荷重のサイクルを無限に繰り返してもまったく破壊が起こらなくなります。この応力の値を疲労限度(Fatigue limit,Endurance limit)といいます。
しかし大部分の非鉄金属では,S-N曲線は疲労限度を示さずに曲線は下がり続けます。