難燃性作動液の燃焼性の評価法を解説します。油圧装置が火災の危険を持っている場合に,難燃性作動液が使われます。燃焼性すなわち作動液の燃えにくさを判定する試験方法や法律などについて説明します。作動液の同じ系統でもメーカーによって燃えにくさはちがうのか説明します。
難燃性作動液の燃焼性の評価法 ※
油圧装置が火災の危険を持っている場合に,難燃性作動液が使われます。燃焼性すなわち作動液の燃えにくさを判定する試験方法や法律は定められていますか。作動液の同じ系統でもメーカーによって燃えにくさはちがうのですか。
解説します。
機械周辺に火源のある場合には,油圧装置のオペレータやその付近での作業者にとっては,常に火災の危険にさらされているといっても過言ではありません。油圧装置の回路内は,かなりの作動油が封じ込められている部分が多いわけですから,ひとたびき裂,ピンホール,破損などが生じますと作動油が激しく噴出します。また,それでなくても,油圧装置からの作動油が外部に洩れることを完全に抑えるのは困難で,滲みや滴下など程度の差こそあれ洩れが見られることがあり,火源に触れる恐れを持っています。
油圧装置が広く使用されるようになって20年以上にもなりますが,それほど火災の発生事例件数やその規模などが詳細に報告されないのは,事例そのものが当事者,つまり事故を発生した企業にとってきわめて不名誉な内容で,公表を避けられる限り内密に処理をする傾向にあるためで,事実はかなりの件数になっています。
現に,作動油の燃焼性を調べるための規格がご質問のようにたくさんありますから,このことを逆に裏づけています。
写真1は,高圧噴射点火テストの例で,石油系作動油を圧力70kgf/cm2,ノズルの口径0.37φの条件で噴出させ,酸素・アセチレン炎の火源に触れさせた時に燃焼した火炎です。石油系作動油が激しく燃えることが分かります。このテスト方法は高圧噴射点火テストと称されていますが,今日の油圧装置で70kgf/cm2というと,むしろ低圧の分野ですから,高圧装置でピンホールを生じた場合の噴出される作動油ミストはさらに激しくなることが推定されます。
写真1 高圧噴射点火テスト(石油系作動油) |
写真2は,同条件で水グリコール系作動油をテストした際の燃焼状態ですが,酸素・アセチレン炎の直火でも火災が見られず非常に燃えにくいことを示しています。
写真2 高圧噴射点火テスト(水グリコール) |
難燃性作動流体(作動液)として現在使われているものは,その組成から図1のように分類されていますが,石油系作動油との燃焼性比較や,難燃性作動流体相互の燃焼性を評価するためには,多くの規格が定められていて,いずれを採用するのが妥当であるかは,明らかにされていません。
図1 難燃性作動油の種類 |
作動流体の火災に関しては実用上でも種々の条件が考えられます。たとえば次のようなケースです。
1)写真のように作動液がミスト状に噴出して点火する。
2)火源に対して作動流体がそのまま流れ込む。
3)機械付近の布や製品,材料などに滲みた作動液に点火する。
したがって,作動流体の燃焼性テスト規格では,このような状況を考慮して作成されています。
燃焼性の尺度ととしては次のふたつに大別されるといえるでしょう。
1)燃焼するための温度を徐々に上げる,あるいは燃焼するためのチャンスを徐々に増す。これにより定量的な尺度を得る。
これに相当するのが引火点測定法,自然発火温度測定法,パイプクリーナテストなどです。
2)燃焼させるための条件を設定して,そこへ作動流体をさらして,燃焼の有無,燃焼の状態を観察する定性的な方法。
高圧噴射点火テスト,低圧噴射点火テスト,ホットマニホールド発火テストなどです。
表1に示した各テスト方法の例でも,内容を見るとそれぞれに燃焼させる際の条件が少しずつことなっています。ご質問には同系統の難燃性流体で,銘柄別に差があるかとなっていますが,残念ながらそれに対しての明確なデータは現在のところどこにも見当たりません。また表1のすべてについてのテストを行うこともきわめて困難といえます。表1の燃焼性テスト方法の大部分は欧米諸国の規格であり,ご承知のように日本の国内では引火点をペンスキイマルテンス法により測定した数値で流体の危険度を分類して,消防法による法規制を行っています。
表1 燃焼性テスト方法および規格の例※
※Q&A第1集発刊時点
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図1の含水系作動液は非危険物で,合成系作動油は石油系作動油と同様に危険物として消防法の規制を受けることになっています。
なお難燃性テスト方法の詳しい解説についてはかなり膨大な内容となりますので,別の機会に譲らせて頂きます。
※Q&A第1集発刊時点