難燃性作動液として,リン酸エステル,脂肪酸エステル,水-グリコール,エマルションタイプとありますが,それぞれの相違点および特長について解説します。
難燃性作動液の種類と特長
難燃性作動液として,リン酸エステル,脂肪酸エステル,水-グリコール,エマルションタイプとありますが,それぞれの相違点および特長について教えて下さい。
解説します。
潤滑油には“燃える”という問題点があります。高い温度の熱源がある作業場で油圧装置に鉱油系の作動油が使用されている場合,この“燃える”という事から火災発生の危険があります。このような状況では,作動油を燃えにくくした難燃性作動液が使用されます。
作動油を燃えにくくする方法としては,各種の液体の中から燃焼しにくいものを採用する(合成系)事と,作動油基油に水を用いる(含水系)事とがあり,これらにより難燃性作動液として表1に示す種類のものがあります。
表1 難燃性作動液の分類
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難燃性作動液の使用量は,全作動油の約5%,年間7,000~8,000kL程度で,そのうち5,000~6,000kLは含水系が占めています。含水系の主流は水-グリコール系で,約7~8割を占めていると推定されています。
1.難燃性とは
難燃性をはっきり定義する事はむずかしく,作動油として着火しにくい事,発火点から火炎が拡大してゆかない事が難燃性とされています。
この特性を測定する試験方法として,引火点,着火温度だけでなく,高温の熱源に接触したときに着火し,燃焼するかどうか等を測定する試験方法が考案されています。各種の試験法で測定された難燃性作動液の結果を,鉱油系作動油と比較したものを表2に示します。個々の試験方法の詳細は,ここでは省略しますので文献を参照してください*1。
表2 各種作動油の難燃性の比較*1※
※Q&A第2集発刊時 |
難燃性という点では,リン酸エステル系,水-グリコール系,エマルション系が優れており,特に消防法では引火点だけで危険性を判定するため,危険物とは分類されない,水-グリコール,W/OあるいはO/Wエマルションが有利な場合があります。
2.難燃性作動液各種の特長
表3に難燃性作動液の組成,特長,適用例を簡潔にまとめました。
表3 難燃性作動液の組成と特長
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リン酸エステルは,高価格ながら航空機等の作動油として広く使用されています。作動油にリン酸エステルを使用する場合には,油圧システムにあるシールやゴム材との適合性等の問題を検討する必要があります。
脂肪酸エステル系とは,ネオペンチルポリオールと脂肪酸のエステルを基油としたヒンダードエステル型の合成油です。潤滑性(特に摩耗防止性),安定性は鉱油以上に優れており,油圧システムのシール,ゴム,塗料等との適合性も良く鉱油系からの代替が容易です。表2に見るとおり脂肪酸エステルの難燃性は鉱油系より少し優れている程度と十分ではないが,生分解性に優れるといった長所もあり注目されています。
水-グリコール系作動液は,実用性能に大きな問題点もなく価格も高くないのではじめに述べたように広範囲に使用されています。水-グリコール系の組成を表4に示します。水-グリコール系は,水,増粘剤,グリコールの3成分から構成され,特に水の量は十分な難燃性を与えるために,30%以上とする必要があります。摩耗防止剤として金属石けんが添加され,これの安定上アルカリ調整剤を配合してアルカリ性としています。このため油圧システムに使用されている各種の金属,シール,塗料等との適合性を注意する必要があります。
表4 水-グリコール系作動液の組成
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W/Oエマルション系は,連続相の油に添加剤を配合できるため,潤滑性はO/W系よりも優れています。比較的低価格で油圧システムとの適合性や廃水処理も容易な事から,鉄鋼業界を中心に広い使用実績があります。難燃性や粘度に影響する水分量,乳化安定性,かびの発生問題等のため,鉱油系とは異なった潤滑管理が必要です。
O/Wエマルション系は連続相が水であるため,粘度が低く潤滑性に問題があります。価格が最も安く,冷却性能も優れていますが,低温流動性が悪い等の欠点もあり,現状では鍛圧機械用プレスに使用される等,特殊の分野に限られ一般的ではないようです。
<参考文献>
*1 岩宮保雄 :潤滑 32 2 (1987) 103