難燃性作動液の種類と特長 | ジュンツウネット21

難燃性作動液として,リン酸エステル,脂肪酸エステル,水-グリコール,エマルションタイプとありますが,それぞれの相違点および特長について解説します。

難燃性作動液の種類と特長

難燃性作動液として,リン酸エステル,脂肪酸エステル,水-グリコール,エマルションタイプとありますが,それぞれの相違点および特長について教えて下さい。
解説します。

潤滑油には“燃える”という問題点があります。高い温度の熱源がある作業場で油圧装置に鉱油系の作動油が使用されている場合,この“燃える”という事から火災発生の危険があります。このような状況では,作動油を燃えにくくした難燃性作動液が使用されます。

作動油を燃えにくくする方法としては,各種の液体の中から燃焼しにくいものを採用する(合成系)事と,作動油基油に水を用いる(含水系)事とがあり,これらにより難燃性作動液として表1に示す種類のものがあります。

表1 難燃性作動液の分類
難燃性作動液の分類

難燃性作動液の使用量は,全作動油の約5%,年間7,000~8,000kL程度で,そのうち5,000~6,000kLは含水系が占めています。含水系の主流は水-グリコール系で,約7~8割を占めていると推定されています。

1.難燃性とは

難燃性をはっきり定義する事はむずかしく,作動油として着火しにくい事,発火点から火炎が拡大してゆかない事が難燃性とされています。

この特性を測定する試験方法として,引火点,着火温度だけでなく,高温の熱源に接触したときに着火し,燃焼するかどうか等を測定する試験方法が考案されています。各種の試験法で測定された難燃性作動液の結果を,鉱油系作動油と比較したものを表2に示します。個々の試験方法の詳細は,ここでは省略しますので文献を参照してください*1。

表2 各種作動油の難燃性の比較*1※
 
試験法
引火点 ℃
自然着火温度 ℃
高圧噴霧点火試験
ホットマニホールド試験
溶融金属着火試験
作動液  
JIS K 2274
ASTM D-286
機振協法
MIL-F-7100
ASTM D-286
リン酸エステル系
230~280
640以上
着火するが自己消火 発火しない 着火しない
脂肪酸エステル系
260~312
480
40℃で自己消火
65℃で連続燃焼
瞬時に発火
水-グリコール系
引火しない
415~435
着火しない 発火しない 水分蒸発後,燃焼
W/Oエマルション系
引火しない
430
40℃で自己消火
65℃で連続燃焼
発火しない 水分蒸発後,燃焼
O/Wエマルション系
引火しない
なし
着火しない 発火しない 水分蒸発後,燃焼
鉱油系
150~270
230~350
連続燃焼 瞬時に発火 直ちに着火

 ※Q&A第2集発刊時

難燃性という点では,リン酸エステル系,水-グリコール系,エマルション系が優れており,特に消防法では引火点だけで危険性を判定するため,危険物とは分類されない,水-グリコール,W/OあるいはO/Wエマルションが有利な場合があります。

2.難燃性作動液各種の特長

表3に難燃性作動液の組成,特長,適用例を簡潔にまとめました。

表3 難燃性作動液の組成と特長
種類
組成
特長
適用例
リン酸
エステル
リン酸エステル(TCP,TXP等)
リン酸トリブチル,リン酸ジブチル
フェニル の混合物
1.難燃性,摩耗防止性,安定性に優れている
2.加水分解安定性,シール等ゴム材との適合性に問題
3.高価格
航空機等,高度の油圧システム
火災の危険性が極めて高い場合の油圧機械
脂肪酸
エステル
各種の合成ポリオールと直鎖飽和
脂肪酸とのエステル等
1.鉱油系作動油から代替が容易
2.潤滑性,安定性が鉱油以上
3.保守管理が容易
4.低公害
5.難燃性が不十分
汎用油圧装置
水-グリコール 表4参照 1.油性能と価格のバランス良好
2.防せい性,防腐食性は添加剤でカバー
油圧プレス,ダイカスト,工作機械,インジェクション等,広範囲の油圧装置
W/Oエマルション 水の微粒子を油の連続相に分散
水 約40% 鉱油基油に乳化剤,摩耗防止剤,防せい剤等添加
1.水分の蒸発損失等,保守管理に難
2.低価格
圧延設備,鉱山機械,ダイカストマシン,炉の開閉扉等
O/Wエマルション 油の粒子を水の連続相に分散
鉱油基油に乳化剤,防腐食剤,摩耗防止剤等 の添加剤を加えた原液5~10%を水に添加
1.水分の蒸発損失,バクテリアやかびによる障害等,保守管理に難
2.粘度が低い
3.潤滑性が最も劣る
4.低価格
ロールバランス装置,鍛圧プレス機械

リン酸エステルは,高価格ながら航空機等の作動油として広く使用されています。作動油にリン酸エステルを使用する場合には,油圧システムにあるシールやゴム材との適合性等の問題を検討する必要があります。

脂肪酸エステル系とは,ネオペンチルポリオールと脂肪酸のエステルを基油としたヒンダードエステル型の合成油です。潤滑性(特に摩耗防止性),安定性は鉱油以上に優れており,油圧システムのシール,ゴム,塗料等との適合性も良く鉱油系からの代替が容易です。表2に見るとおり脂肪酸エステルの難燃性は鉱油系より少し優れている程度と十分ではないが,生分解性に優れるといった長所もあり注目されています。

水-グリコール系作動液は,実用性能に大きな問題点もなく価格も高くないのではじめに述べたように広範囲に使用されています。水-グリコール系の組成を表4に示します。水-グリコール系は,水,増粘剤,グリコールの3成分から構成され,特に水の量は十分な難燃性を与えるために,30%以上とする必要があります。摩耗防止剤として金属石けんが添加され,これの安定上アルカリ調整剤を配合してアルカリ性としています。このため油圧システムに使用されている各種の金属,シール,塗料等との適合性を注意する必要があります。

表4 水-グリコール系作動液の組成
基油
添加剤
30~50%
摩耗防止剤
極圧剤
防せい・防食剤
気相防せい剤
アルカリ調整剤
消泡剤
色素
合計で10%以下
増粘剤(水溶性ポリマー)
10~15%
グリコール,グリコールエーテル
40~60%

W/Oエマルション系は,連続相の油に添加剤を配合できるため,潤滑性はO/W系よりも優れています。比較的低価格で油圧システムとの適合性や廃水処理も容易な事から,鉄鋼業界を中心に広い使用実績があります。難燃性や粘度に影響する水分量,乳化安定性,かびの発生問題等のため,鉱油系とは異なった潤滑管理が必要です。

O/Wエマルション系は連続相が水であるため,粘度が低く潤滑性に問題があります。価格が最も安く,冷却性能も優れていますが,低温流動性が悪い等の欠点もあり,現状では鍛圧機械用プレスに使用される等,特殊の分野に限られ一般的ではないようです。

<参考文献>
*1 岩宮保雄 :潤滑 32 2 (1987) 103

アーステック



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最終更新日:2021年11月5日