漏洩の原因と漏れにくい作動油,漏れても発見しやすい作動油について解説します。
配管から漏れにくい作動油
作動油の油漏れで困っています。配管から漏れにくい作動油や漏れても発見しやすい作動油というものはありますか。
解説します。
1. 潤滑油の漏洩について
機械設備において潤滑油の漏洩は,(1)作業環境の悪化,(2)自然環境の汚染,(3)生産コストのアップ,(4)火災の発生等,様々な問題を抱えており,多数の技術者が漏洩対策の検討を実施していると思われます。一例として,産業別の作動油の消費指数(HFI)と,弊社での実験データを表1,表2に示します。実験結果から分かるように,1秒に1滴の漏れと言えども1年間では約1200L,ドラム缶で6本分の潤滑油が漏れることになります。
表1 産業別作動油消費指数(HFI)
作動油消費指数(HFI)とは,油圧装置の全体の必要油量に対して何倍の作動油を消費しているかを示すもので,次の式で表され,この指数が多いことは油もれが多いことをうかがわせます。 |
表2 弊社の漏洩実験結果(単位:L)
|
2 .配管から漏れにくい潤滑油について
お客様より今回のご質問と同様に,漏れにくい潤滑油はないか,とご質問を受けることが多々あります。しかし,グリースと異なり潤滑油は流体である以上,また,流動性を維持していないと本来の機能(作動油であれば作動媒体としての働き)を発揮できなくなるため,配管の亀裂等が発生していても漏れない,または漏れが解消するという潤滑油は現段階では存在しないのではないかと考えております。
一つのアイディアに,配管から漏れた瞬間,すなわち,大気と接触した瞬間に固体状になるような作動油の開発はできないかということがありますが,通常の油圧回路においては,タンク内で必ず大気と接触していますし,密閉回路においても,作動油の充填時等,大気との接触する場合が考えられます。また,油剤メーカーの立場から申し上げますと,石油から精製されるベースオイルには空気が約8%程度含まれていますし,もし,空気を含有しない合成油を使用したとしても,製造面,物流面のことを考えますと現実問題としては困難であります。しかし,漏洩の原因を考慮すると,漏れにくい潤滑油はあるのではないかと思います。
3. 漏洩の原因と漏れにくい作動油について
漏洩の主原因は下記の通りとなります。
(1)シールの破損やゴムホース等の破裂
- 定格圧力の不適正
- 材質不適正
- 取り付け時の損傷,破損
- その他
(2)シール面の不良
- 取り付け面の精度不良
- 取り付け歪み
- 異物混入
- その他
(3)その他
- 装置の振動による駆動部等からの漏洩
- 溶接部の亀裂
- その他
ここで,使用している作動油とシール材質との適正が悪く,漏洩の問題を抱えている油圧装置について考えてみます。シール材質を変更することも対策の一つですが,使用しているシールやゴムホースの材質を膨潤,硬化させにくい潤滑油を選定すれば,その油圧装置においては漏れにくい作動油と考えられます。各種作動油とシール材質の適正について表3に示します。
表3 各種作動油に対するシール材料の適正
|
また,同じ鉱油系の作動油においても,ベースオイルのタイプ(パラフィン系,ナフテン系)や精製度の違いによっても,また,添加剤の添加量や種類によっても状況は異なってきますし,同じゴム材質でもメーカーにより異なります。このため,シール材質や作動油の変更を検討する場合,あらかじめ確認することをお薦め致します。建設機械等,シリンダ部からの漏れの場合,金属とシール材質の摩擦特性が良好な作動油を選定することも改善の一つです。すなわち,シールの摩耗を減らすとともに,滑らかなしゅう動状態になるため,漏洩量は減少することになります。
最後に,作動油の粘度によっても漏洩量は異なります。漏洩個所が不明な装置が多数ある工場において,粘度アップすることにより漏洩量を削減した場合もありますが,反面,ポンプ効率の低下や発熱量の増大,キャビテーションの発生等考えられますので,十分な検討が必要です。
4. 漏れても発見しやすい作動油について
合成系や含水系の作動油を除いて,漏れにくい作動油を検討することより,漏れても発見しやすい作動油を使用することが一般的です。誤給油防止等も含めて,赤色に着色する事例が多いと思いますが,装置裏や暗室等での漏れを発見するためには,蛍光剤を添加することをお薦め致します。蛍光剤と写真1に示すような紫外線ランプを用い,漏洩量を30%削減できた事業所もありますので,漏洩問題を抱えている場合,検討してみてはいかがでしょうか。
写真1 |
5. 終わりに
機械設備に潤滑油を使用している限り,漏洩問題は絶えることのない問題であると認識しております。しかし,潤滑油の漏れが自然環境に及ぼす影響等考えますと,可能な限り漏洩量を減らす対策や,漏れても影響の少ない生分解性作動油の開発が今後の課題であると考えております。
<参考文献>
1. 新井澄夫,日本機械学会誌,71(599)1657(1968)
2. 出光興産,販売資料
3. 油圧技術便覧