自動車を輸出する際にどのような防錆処理を行っているのですか。
解説します。
1. 各国の防錆基準
カナダ,北米,北欧では,冬季に道路凍結防止のため散布される塩によって,自動車の車体が腐食します。一方,日本では,道路における塩害はまだ少なく,むしろ,沖縄のように,海からの塩分による腐食がよく知られています。
各国では,表1,表2に示すような防錆基準を設け,日本からの輸出車に対しても,この基準に合格することが必要となります。
表1 カナダ,北欧5ヵ国の防錆コード
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表2 GM,FORD,CHRYSLER “10-5-2-1”コード
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2. 自動車の腐食部位
表3は自動車の腐食に関する欧州の市場調査結果です。
表3 おもな自動車部位の腐食の種類と原因
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車体の錆は外面と内面の両方から進行します。外面の錆は,道路上の小石がはねあげられ傷ついた塗装部分から発生します。特に車の下部ホイールハウスに多いようです。一方,内面の錆は,ドアやサイドシルなどの袋状またはボックス状構造部分や鋼板の合わせ部分など表面処理がしにくい場所で,泥水などがたまるととれにくい所に発生します。内面の錆は表面からは分かりにくいので気づいた時には手遅れになりがちです。
図1はスウェーデンにおける車体腐食の調査結果ですが,外面の錆は後輪まわり11,内面の錆はフロントドアー8での発生が最も多くなっています。
図1 スウェーデンにおける乗用車の発錆部位 |
3. 車体防錆剤の用途
次の場所に防錆剤が使用されます。
(1)内面用
ドア等の袋構造部,特にヘム部や板の合わせ部用。(図2)
図2 車体内面部の構造 |
(2)床下用
車体フロア対地面,足まわり,シャシー用。
(3)新車外面保護用
新車の塗装面の保護用。
4. 車体防錆剤の組成
(1)溶剤希釈形
炭化水素溶剤に不揮発性の皮膜形成剤(アスファルト,マイクロワックス,酸化パラフィン誘導体,ラノリン誘導体など),防錆剤を溶解または分散させたもので,最も広く使用されています。
(2)乳化形
マイクロワックスと水を乳化剤で乳化させたもので,水が蒸発するとマイクロワックスの皮膜ができて錆を防ぎます。ただし,乳化剤が残ると防錆能力が落ちるので,皮膜形成後に乳化剤も揮発するような方式が多くなっています。
(3)ホットメルト形
アスファルト,マイクロワックス,ポリマーなどと防錆剤を配合した固形物で,加熱溶融して塗布します。溶剤を使わず,乾燥工程が不要な長所がありますが,塗布作業がやや面倒です。
5. 車体防錆剤の規格
公的には米軍規格とフィンランド規格があります。自動車メーカーは独自の規格を持っていますが非公開が多いようです。米軍規格MIK-C-62218Aは新車用(Type 1)と使用車用(Type 2),MIL-C-0083933Aがあり,溶剤希釈形の車体防錆剤ですが,溶剤として芳香族炭化水素とハロゲン化炭化水素の使用を禁止しています。塩害を想定した塩水噴霧試験や塩水浸漬試験のほか,繰り返し洗車した際の皮膜耐久性を評価する耐洗剤性,道路舗装用の砕石をぶつけて皮膜強度を見る耐チッピング性など多くの試験項目があります。
※Q&A第2集発刊時点