潤滑油中の水分を取り除くには | ジュンツウネット21

潤滑油の中には水分が存在しており,それをできるだけ除去しなければトラブルのもとになると聞きます。入っている水分を簡単に取り除く方法,あるいは装置について解説してください。

解説します。

潤滑油中には,本来このましくない不純物,すなわちコンタミナントが混在しており,いろいろなトラブルの原因となっています。

コンタミナントは,広く定義すると,空気,水,そのほか固形の混入物(たとえばゴミ,摩耗粉,さび粉,繊維,プラスチック片,油酸化劣化物など)が考えられ,その成因,与える影響なども,それぞれ異なっています。ここではそのうちの一つ,“水分”について解説しましょう。

水分は酸素と同様に,つねに存在しており,したがって極力系外に除去しなければ思わぬトラブルをひき起こします。

外部からフロック時に入った水分の場合は,その大部分は遊離水,または乳化水となって潤滑系内に存在したり,容器底部に沈殿して,撹拌や振動など,循環のつどでて来ていたずらをします。そのほか,外気の湿度,清浄分散剤の有無,油劣化の程度によって差はありますが,通常100~200ppm程度は油の中にも溶けています。

1. 水分の悪影響と除去の必要性(トラブル側)

トラブルの例をいくつかあげてみましょう。

1)装置系内のさびの発生・・・堆積分,昇温による空間部の水分過飽和,ストレーナ配管の閉塞

2)潤滑(性)不良・・・耐荷重性能の低下や油膜形成の不十分による摩耗の増大,ビビリの発生,焼付きの発生(とくにころがり軸受寿命の低下),スムーズな機械装置の稼動を妨害

3)温度差の激しい使い方・・・呼吸作用による湿気の水滴化,工作機械の作動油系への切削油剤混入によるスラッジ化,性能低下など

4)潤滑油の寿命低下・・・劣化の促進,油の劣化,装置の寿命低下,酸性物質などの生成(合成油たとえばエステル系作動油の加水分解を起させるため),異常摩耗(とくにころがり軸受),騒音の発生など。

したがってこれらを防ぐことが必要です。

2. 水分除去の方式

2.1 除去する方法

(1)沈降分離,(自然沈降(ドレン),振動を与えたり邪摩板などを使って沈降を促進)
(2)遠心力を利用した分離
(3)ろ過分離(深層ろ過方式すなわちペーパー,繊維,樹脂,吸着剤などを利用したろ過)
(4)加熱による蒸発分離
(5)真空(減圧)脱水(気)
(6)乾燥気体(空気)送入による脱水

これらの組み合わせやほかのコンタミナントとの同時除去などが考えられます。また,全量一括処理(系内および系外での)バイパス(部分)処理とが考えられます。

各社ともこれらの原理をうまく利用して独自のシステムを考案しているので,そのいくつかを参考までに具体的に紹介します。

2.2 沈降分離方式

装置として具体的にあげませんが多用されています。とくに水分離性のよい工業用潤滑油(タービン油,一般の作動油などの循環使用方式)に冷却水が多量に入った場合,新油に近い状態で水が混入(タンクの呼吸作用などにより)した場合などは静置することによって,比重差によりほぼ完全に水が分離沈降します。

継続運転の大型機械類によくみられ,停止時に沈降するので始動時にドレン切りを実行すればよいわけです。ただし溶解水は除けません。

2.3 遠心力利用方式

10kL/h程度の処理が可能で,10,000rpm程度の高速回転により傘状分離板を利用し,重量の数千倍の遠心力を発生するので,比重の重い水,固形物は外側へ,油は内側へ集まるようになっています(三菱化工機)。

また,装置内を真空にし,回転板上を遠心力により油を薄く広げ,表面積を大きくして,水などを蒸発させるものもあります(日本ポール社)。

船舶用システム油の場合は,わざわざ水を混ぜ,スラッジ類を分離する“注水洗浄方式”が使われ,油の水分離性が主要な特性の一つになっています。

2.4 ろ過方式

ロールティッシュペーパーの使い方に工夫をこらし,カートリッジ式にして操作しやすくすると同時に,少量の水ならばほぼ100%除去できます(処理能力10m3/h程度まで)。(東海濾過機)

絶縁油にも適用できる可搬式で処理能力0.6m3/h,5回通すことにより,NAS級でかつ水分を確実に除去でき,消費電力が少なく,小型携帯用発電機で稼動できるもの(東和)もあります。

1000cStの高粘度油にも適用でき,能力10m3/hまで,水20~50%混入油,乳化状油(10,000ppm含水)もワンパスで100ppmまでおとせるものもあります。粒子勾配をつけた600mmφ,厚さ70mmの3層エレメントを比較的低圧下(1.5kg/cm程度)まで通過させ,NAS7級を4級に浄化できます(サンネツ)。

能力2m3/h程度だが,水分限界値2500cc程度で新しいコンタミセンサーを備え,汚染物質の経時変化記録,フィルタ能力限界の警報発信可能なものもあります(日本建機サービス)。

油中水吸着には専用フィルタエレメントを用意し,とくに動力は不要でインラインバイパス連続ろ過(ブリードオフ回路を利用)でき,また通常のエレメントは吸着性,吸水性がとくにすぐれたセルロース繊維の高密度ろ過紙をロール状に巻いたもので,流量調整バルブ内臓により最適流量(3L/分)を維持しているものもあります(トリプルアール工業)。

ポンプ圧入式で(能力1.7m3/h程度),フィルタエレメントに95%異常のα・セルロースからなるコラム状深層ろ過方式を取り,ワンパスでNAS12級から9級に,作動油の水分100ppm以下に管理できるものもあります(東芝機器)。

油はとおすが水は捕捉する特殊な繊維を用いた吸水エレメントでワンパスで水分2000ppmを500ppm(1.7L水/エレメント)に落とす能力で,更油回数の減少,フラッシング代不用,廃油処理費ゼロをうたったものもあります(クリーンテック工業)。

能力は2m3/h程度だがろ紙による表面ろ過,デプスタイプによる吸着ろ過(バイパス方式)を併用し,ある程度の脱水を可能としたものもあります(日本フランツ)。

能力は3.6m3/h程度までで,長吸水性樹脂繊維(自重の数百倍の水を吸着でき,吸着水は多少の圧力をかけても離脱しない)を主材とするエレメントで,過飽和水分を化学吸着除去(高分子電解質と水との親和力,樹脂内外のイオン濃度差にもとづく浸透圧の発生などにより,500mL/エレメント可能)する新しいタイプであることをうたい,界面活性剤が混入した液体中の水分除去が可能となっているものもあります(エス・エム・シー)。

また,毛色の変わったものとして,低電圧荷電により,水や油の中の微細なコロイド粒子のもつ電子二重層のゼータ電位を消去して,コロイドを凝集沈降させる機能,フィルタ裏面に強化したゼータ電位をつくり,コロイドを吸着する機能が複合して内蔵されている新しいタイプの清浄装置も紹介されています(ゼオテック)。

2.5 加熱方式

加熱方式は,沈降方式および乾燥空気送入方式とともに簡単なので,従来タンク内の油に適用し上部から脱気することにより,よく使われています。

2.6 真空(減圧)方式

容器内の気圧を下げることにより,相対湿度を下げ,とくに多量の新油(冷凍機油,絶縁油など極端に水分を嫌う製品)の仕上げ時脱水に使われるもので,固定式。気体は真空により体積が5倍に膨張すると,相対湿度は約1/5に下がるので,飽和状態の20%に,たとえば100ppmの溶解水を20ppmにまで減らすこともできます。

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最終更新日:2021年11月5日