磁性流体の潤滑分野への応用 | ジュンツウネット21

磁性流体とは,磁石等でつくられる磁場中で磁化される液体です。磁石に引き寄せられる液体は自然界には存在せず,人工的に作られたものです。磁性流体とその特性,潤滑への応用について解説します。

磁性流体の潤滑分野への応用

磁性流体という言葉を聞いたことがありますが,どのようなものなのでしょうか。また,潤滑分野への応用についてわかりやすく説明して下さい。
解説します。

1. 磁性流体とは

写真123の試験管にある黒い液体をご覧下さい。永久磁石に引き寄せられて,下から上へ全て移動していく様が良くわかります。このように磁石等でつくられる磁場中で磁化される液体が磁性流体です。

磁石に引き寄せられる液体は自然界には存在しておりません。写真の磁性流体は人工的に作られたものです。

磁性流体は大変小さな金属微粒子,その1つ1つを包み込む界面活性剤,それらが分散され流体として機能するためのベース溶液,の3つから成っています。

磁性流体1
写真1
磁性流体2
写真2
磁性流体3
写真3

一般に金属微粒子はその平均直径が100Å(0.01μm)ほどの大変小さなマグネタイト(Fe3O4)が使われています。が,いくら小さいといってもそのままベース液に分散させてもすぐ沈殿してしまいますので,図1のように金属微粒子を界面活性剤で被います。界面活性剤は極性を持っていますので,同極同士が反発し合い,結果的にベース溶液中で金属微粒子は凝集することなく,安定したコロイド溶液になります。金属微粒子,界面活性剤,べース溶液の比率を正しく選ぶことによって,重力や遠心力による沈降,分離が起きないだけでなく,磁気的凝集も起こさない磁性流体となります。

磁性流体の様子
図1 磁性流体の様子

ところで磁性流体の金属微粒子であるマグネタイト(Fe3O4)は,純金属ではなくすでに酸化されていますが,超微粒子であるが故に,空気にさらされるとさらにたちまち酸化してヘマタイト(Fe4O5)に変わってしまいます。ヘマタイトは磁性を帯びませんので磁性流体にはなりません。したがってマグネタイトを空気にさらす前に界面活性剤等でコーティングする必要があります。そこで一般的な製法としては,塩化第一鉄(FeCl2),硫酸第一鉄(FeSO4)等を湿式で化学反応させてマグネタイト微粒子を作成し,界面活性剤,ベース液と撹拌混合させた後,不純物を除去します。

2. 磁性流体の特性

磁性流体は,水と同じように容器と同じ形になりますし,高低差があれば低い方へ,また障害物を回り込んで流れます。液体としての挙動を示しますから,ものに着けばその表面を濡らします。永久磁石などで磁場が与えられると,その磁場の大きさや方向に応じて位置や向き,形を変えるだけでなく,変化する磁場が与えられると流動します。

磁性流体は,磁場中に置かれると,その磁場の強さに応じて見かけ上の粘度や比重が変化します。

磁性流体は,夢の多い材料として各方面で研究されていますが,潤滑への応用を工夫される時の一助としていただくため,ここで磁性流体の特性を述べながら応用例を2~3紹介しておきます。

(1)回転イナーシャダンパー
 磁場中で磁性流体は見かけ上の粘度が高くなります。したがってその中に振動子を入れるとか,回転振動する物を磁性流体で包み込むと,振動子に対してダンピング(振動の抑制)効果を現します。回転イナーシャダンパーはパルスモータやサーボモータと組み合わせて用いることにより,振動の抑制,応答周波数領域の拡大,騒音の軽減に大きな効果があります。

(2)中高音用スピーカ
 磁場中の磁性流体に非磁性体を入れますと,その非磁性体は磁場の最も弱いところへ押し出され,あるいは押し込められます。また磁性流体は空気の約6倍の熱伝導率を持っています。この2つの特徴にダンピング効果を合わせ,スピーカへ磁性流体が組み込まれています。

スピーカはボイスコイルに流れる電流によって発生される変動磁場と,あらかじめ永久磁石と磁極片によって形成されている磁場との相互作用によってボイスコイルが振動し,発音するものですが,その磁場空間に磁性流体を充填すると,ボイスコイルにダンピング効果とセンタリング(中心保持)効果をもたらし周波数特性を向上させます。また,従来空気中にあったボイスコイルが磁性流体中にあり,コイルの発熱が磁性流体と磁極片によって放熱され,許容入力が約1.6倍向上します。

(3)回転軸シール
 磁性流体の最も代表的な応用例で,強磁場に極性流体が引き寄せられる性質を利用したものです。

回転軸とそれを囲む磁極片との間に小空間を設け,永久磁石でその空間を強磁場とし,磁性流体を充填します。軸が回転しても磁性流体は,液体ですから軸や磁極片の金属表面に良く密着し,磁場中にある磁性流体は外部にはみ出しません。

防塵シールとしてコンピュータ,耐差圧シールとして半導体製造設備の真空シール,活性ガスシール等に使われています。

3. 磁性流体の潤滑への応用

さて,潤滑への応用です。磁性流体の潤滑への応用を考えるとき,前述したように磁性流体は金属微粒子が分散されてできていますので,磁性流体そのものが研磨剤になると危惧しがちですが,実際には100Åほどの超微粒子では研磨性は全くありません。磁性流体の研磨への応用というテーマが最近,学会等で発表されている例があります。異形表面の研磨を目的としたものですが,いずれも磁性流体に研磨能力がないので,磁性流体に研磨剤を混合させたり,研磨剤を磁性流体で被研磨表面に押しつけるなどの方法です。これは逆に磁性流体に研磨性がないことを証明することにもなります。磁性流体のシールへの応用で,数年の使用後に分解したところ,磁性流体に接する金属表面がピカピカに光っていた,などという報告を受けることもありますが,これらの例では,磁性流体に混合した不純物によって,シールのごく狭い空間の金属表面が研磨されたと考えられます。

磁性流体の潤滑性はというと,一般に使用されているオイルに金属微粒子を混合しているわけですから,当然オイルより潤滑性は劣ります。しかし潤滑グリースのようにゲル状ではありませんので,磁性流体の特徴を活かせば強力な潤滑剤となります。その応用例を次に述べます。

 図2は約3気圧の活性ガス雰囲気中で普通の軸受鋼の玉軸受を使用した例です。活性ガス中ですと一般に軸受鋼は腐食し潤滑油は分解されてしまいます。そこで図2では,玉軸受の一方に磁性流体シールを設けて,潤滑油として用いている磁性流体の漏出を防止し,他方には磁性流体の飛散を防止するためのラビリンスシールを配します。図2のように極く小さくした磁性流体シールでは耐差圧が小さく,この応用例では磁性流体シールに圧力差が掛からないようラビリンスシールの外上部に通気孔を設けています。内外圧力差はなくなりますが軸受部も活性ガスが入り込みますので,磁性流体を潤滑油としてだけでなく,軸受表面の防錆剤としても機能するよう十分にいれておきます。もちろん磁性流体は活性ガス対応品を用います。

普通の軸受鋼の玉軸受を使用した例
図2

図3は動圧軸受の作動油および潤滑油として磁性流動体を使用した例です。

動圧軸受の作動油および潤滑油として磁性流動体
図3

コンピュータの記憶装置として使われているハードディスクのスピンドルとして利用が見込まれています。現在のハードディスクは玉軸受と,軸受からの発塵を防止する磁性流体シールが使われていますが,最近の急激な技術進歩により集積度を増して高容量化が計られており,回転の非同期振れが玉軸受より一桁良くなる動圧軸受の採用が予定されています。

動圧軸受の作動流体は空気でも可能ですが,軸受部の隙間がサブミクロンになり,かなり高精度な部品を必要とするので,この応用分野ではコスト的に合いません。そこで軸受部の隙間がミクロン単位で良い液体動圧軸受が注目されています。液体を用いた動圧軸受で一番問題になるのは,その液体が外部に漏出しやすいことです。ポータブルなパソコンでは持ち運びの振動やあらゆる姿勢に対応しなければなりません。飛行機で輸送するときに荷物室は850hPa程度の減圧状態になりますが,大気圧で注入した液体が溢れ出ないようにしなければなりません。このように一般の液体ではかなり難しい場合に,磁性流体を永久磁石と組み合わせて使用すると,その特長が活かせます。

図3の中心に配置されたマグネットおよび上下固定軸,スラスト軸受,ロータハブで磁気閉回路が構成され,上下両端の固定軸と回転するスラスト軸受の間が強い磁場の空間になります。図のように磁性流体を注入すると磁性流体シール部ができます。この磁性流体シール部で外圧がかかっても内部の流体は漏出しません。動圧発生時の圧力変動や,回転による遠心力で外部に飛散しようとする液体を封じ込むことができます。

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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