鉄鋼設備は,高温,高荷重,高速,低速,あるいは水やスケールの混入といった厳しい条件にさらされています。これらの条件は設備によって異なるため,種々のグリースが使用されています。
鉄鋼設備に求められるグリース
鉄鋼設備に使用されているグリースはどのようなものか,また,今後,どのようなグリースが要求されるのか説明して下さい。
解説します。
1.グリースの重要性
グリースは年間約8000tの需要がありますが,そのうちの約25%(平成2年度調査)は鉄鋼で使用されています。最も多く使用されている個所は軸受で,グリースの種類としては,リチウムグリースが大半を占めています。
ある調査によると,重大故障原因の約20%は軸受が占めているとのことであり,一般産業界でも同様の傾向があるといわれています。
また,某製鉄所の実態調査では,軸受の損傷はこれまで考えられていた内部疲労によるものではなく,表面の疲労によるものであり,グリースの潤滑状態によって,軸受寿命が左右されることが判明しました。したがって,軸受の長寿命化を図るためには,グリースの性能向上が最も重要で,使用条件に合ったグリースの選定が大切になります。
2.グリースの要求性能
鉄鋼設備は,高温,高荷重,高速,低速,あるいは水やスケールの混入といった厳しい条件にさらされています。これらの条件は設備によって異なるため,種々のグリースが使用されています(表1)。
表1 鉄鋼設備のグリース使用例
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特に,熱と水が混在する環境が多く,通常のリチウムグリースでは耐えられない場合もあるため,現在ではリチウムコンプレックスグリースやウレアグリースが多く使用されています。
今後は,生産工程能力の向上による使用条件の過酷化が進むと予想されます。また,潤滑剤購入費・保全費の削減も高いレベルで要求されるため,さらに長寿命化(熱,酸化安定性等に優れた)が図れる高性能グリースが要望されています。
3.高性能グリース(ウレアグリース)による効果例
耐熱,耐水,耐荷重性能に優れたウレアグリースの使用により成果を上げた例を記載します。
汎用グリースを連続鋳造ロールに使用したところ,10ヵ月後,摩耗粉濃度がこれまでの1/6に減少し,軸受交換率も1/5に削減することができました。
耐水用グリースを熱間圧延機に使用した結果,ワークロール軸受の寿命が5倍に延びるようになりました(図1)。
図1 実用効果例 3 (耐水用)
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軸受温度が140℃と高い連続焼鈍炉に,高温用グリースを充填し使用したところ,故障ゼロ,給脂周期は,これまでの15日から2倍の30日まで延長することができました。
この製鉄所では,1984年以来,軸受にはウレアグリースを使用し,軸受の長寿命化,信頼性の向上,整備コストの削減など大きな経済効果を上げています(図2)。
図2 軸受による故障時間 |