グリースは,汚染度管理に始まり,汚染度管理に終わるといっても過言ではありません。しかし,グリースは潤滑油のように,装置によるオンライン浄化をすることが難しく,また,分析によって汚染度を管理するという認識も希薄なため,現場では五感管理に頼る傾向が高いようです。本文では,グリースの汚染原因について解説し,適切な管理・分析手法およびその効果について述べます。
Q1 グリースはどのように汚染するのか,グリースガン使用法の要点などを説明願います。
1.グリースの汚染物質について
グリースの汚染物質には,水,粉塵,油劣化物,摩耗粉などがあります。グリースの場合,浄化が困難であるため,汚染物質の増加は装置寿命に大きな影響を与えます。表1に汚染物質の発生原因とその形態を示しますが,多くの汚染物質は系外からの混入であり,室内5Sや給脂装置の定期管理の徹底によって,ある程度は防止することができます。汚染度管理に五感管理を用いると表1に示すように重複するものもあるため,定量的に状態を把握することが大切です。
表1 グリース汚染物質とその形態
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2.グリースの汚染・劣化による影響
表2にグリースの汚染・劣化による原因と影響を示します。
表2 グリース汚染・劣化の原因と影響
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グリースの汚染は,設備の損傷を招き,そのまま放置すると生産能力を低下させ,多大な損失へと発展します。特に給脂系統に汚染物質が混入すると短期間には補修できないため,あらかじめ混入防止対策を実施する必要があります。そこで,最も異物が混入しやすいグリースガンにおける給脂方法のポイントを紹介します。
(1)グリースガンによる給脂方法のポイント
ニップルの周りが汚れていると給脂時に異物が入りやすいため,給脂前には必ず清掃を実施する必要があります。表3と図1にグリースガンによる給脂方法のポイントを示しましたが,これらの項目を必ず実施することをお奨めします。
表3 グリースガンによる給脂方法のポイント
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図1 グリースガンへの充填 |
また,表4にエアー式グリースガンの注意点を示します。異物の混入以外にシールの破損,配管の損傷およびゆるみがないかをチェックすることも忘れないで下さい。
表4 エアー式グリースガンの注意点
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Q2 グリースの汚染劣化診断法について解説して下さい。
3.汚染劣化の診断方法
グリースの汚染度管理は,まず五感管理を実施し,その後異常が認められれば,精密分析へ移行する方法が最適です。表5に排脂グリース状態と分析項目の一覧を示しますが,異物によって測定方法が異なるので,分析によって何がわかるかを理解する必要があります。
表5 排脂グリース状態と分析項目一覧
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以下に,汚染度管理に有効な分析方法について説明します。
(1)フェログラフィ分析
フェログラフィ分析の原理は,図2のように磁場によって摩耗粉等の汚染物質をトラップし,光学顕微鏡で視覚観察するものですが,大きさ数μm~数十μmの汚染物質を捉えて調べるため,早期に多くの情報が得られます。
図2 分析フェログラフィ法の原理 |
フェログラフィ分析は,金属粉以外の異物を観察することもできます(図3)。
写真
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説明
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写真
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説明
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写真
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説明
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球状粒子
摩耗粉 ×1500 |
非鉄粒子 (白色系) ×400 |
砂など
×200 |
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黒色粒子
黒錆 ×1000 |
非鉄粒子 (銅系) ×400 |
繊維質 フィルタ材 ×100 |
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図3 フェログラフィ分析で観察できる汚染物質の例
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(2)発光分光分析
この分析法は,発光分光分析の原理(図4)を用いて,潤滑剤中に含まれる汚染物質(金属元素)の種類と含有量を知ることができます。発光分光分析は,フェログラフィ分析で不得意な非鉄金属系の摩耗粉の診断や,特に汚染物質を定量的にフォローしたい場合に使用されます。
図4 発光分光分析法の原理 |
(3)簡易診断法(鉄粉濃度)
フェログラフィ分析法,発光分光分析法は,高感度,早期発見という長所を有しているが,大まかに摩耗粉による汚染濃度を検知する方法が現場では必要となります。簡易診断法は,摩耗粉の検知を低コストで効率的に1次診断する方法です。図5に各種鉄粉濃度診断法を示しますが,精度および迅速性の面で,蛍光X線分析による汚染物質の定性が好適であると判断されます。
図5 各種鉄粉濃度診断法 |
4.診断による効果
(1)フェログラフィ分析法の活用例
A製造会社では,分配弁の詰まりが多発し,大きな生産損失が発生していました。作動不良が発生した分配弁を分解点検しましたが,不具合の発見が困難であったため,フェログラフィ分析を用いて給脂系統周辺の調査を実施しました。その結果,ポンプ室内(図6)で確認されたゴミ(図7)がポンプフィルタ内部からも確認され,ラインフィルタ内部(図8)からは,外部から混入したと推察される塗料片,溶接スパッタなどが多く確認されました(図10)。外部から混入した異物が原因で,フィルタが破損しているものもありました(図9)。この調査結果を踏まえて,室内5Sを徹底的に実施した結果,分配弁の作動不良を1/2に低減することができました。
図6 室内の状況 |
図7 室内のゴミ |
図8 ライン内フィルタのゴミ |
図9 破損したフィルタ |
図10 ラインフィルタのゴミの形態(フェログラフィ分析) |
(2)簡易診断とフェログラフィ分析の活用
図11に示すように,蛍光X線分析による簡易診断とフェログラフィ分析とを実機で比較した結果,フェログラフィ分析による診断結果と高い相関を示すことが,実機ベースで確認されました。この簡易診断法と精密診断であるフェログラフィ分析を組み合わせた診断を体系化し,軸受の重要度に応じて2段階に使い分ける方法が,潤滑診断技術の拡大展開のうえで大変有効です(図12)。
図11 実機によるフェログラフィ法との対比 |
図12 フェログラフィと連携した潤滑診断系 |
もちろん,蛍光X線分析に限らず,磁気的検出法の原理で市販されている簡易鉄分濃度計であっても,正しい使い方をすれば活用できます。
グリースの汚染物質を除去することは非常に困難であるため,グリース内に汚染物質を混入させないことが重要となります。また,混入防止対策を実施するうえで,外部からの混入物か,軸受内の摩耗粉かを把握しなければ対策法を見出すことができません。汚染物質の管理を潤滑システムの一部として考え,それを体系化することが汚染物質の発生を抑制するためにも重要です。
<参考文献>
*1 PM研究発表会資料,(社)日本プラントメンテナンス協会中部支部,(1994),1-58
*2 Typical Ferrograph Wear Particles,The standard oil co.