グリースの汚染劣化管理(適切な診断方法は) | ジュンツウネット21

グリースは,汚染度管理に始まり,汚染度管理に終わるといっても過言ではありません。しかし,グリースは潤滑油のように,装置によるオンライン浄化をすることが難しく,また,分析によって汚染度を管理するという認識も希薄なため,現場では五感管理に頼る傾向が高いようです。本文では,グリースの汚染原因について解説し,適切な管理・分析手法およびその効果について述べます。

Q1 グリースはどのように汚染するのか,グリースガン使用法の要点などを説明願います。

A1

1.グリースの汚染物質について

グリースの汚染物質には,水,粉塵,油劣化物,摩耗粉などがあります。グリースの場合,浄化が困難であるため,汚染物質の増加は装置寿命に大きな影響を与えます。表1に汚染物質の発生原因とその形態を示しますが,多くの汚染物質は系外からの混入であり,室内5Sや給脂装置の定期管理の徹底によって,ある程度は防止することができます。汚染度管理に五感管理を用いると表1に示すように重複するものもあるため,定量的に状態を把握することが大切です。

表1 グリース汚染物質とその形態
汚染物質
グリースの変化(五感)
形態
白色化
軟化
少量に火をつけるとパチパチと音がする
不定形
遊離水発生
薬品 白色化
軟化
異臭
不定形
遊離水発生
粉塵 変色(赤・黒)
手で触るとザラザラする
繊維状の混入物
球状粒子
鋭角粒子
細かい繊維質
摩耗粉 黒色化
褐色化(非鉄金属)
赤色化(フレッチング摩耗の超微粒子)
手で触るとザラザラする
光沢のある粒子が存在
球状粒子
鋭角粒子
切り粉粒子
加工粉 黒色化 切り粉
溶接スパッタ 手で触るとザラザラする
光沢のある粒子が存在
球状粒子(溶接スパッタ)
油劣化物 褐色化
異臭(焦げた臭い)
タール化(ねばり)
炭化
不定形ポリマー
固化
塗料片 緑色などの鉄粉存在 鋭角粒子
厚みのある粒子
赤色化 鈍角・鋭角粒子

2.グリースの汚染・劣化による影響

表2にグリースの汚染・劣化による原因と影響を示します。

表2 グリース汚染・劣化の原因と影響
汚染・劣化の原因 発生する汚染物質 汚染物の影響
外部混入物 砂などの硬質物質 アブレッシブ摩耗(研削摩耗)
グリースの硬化
シールおよび軸の摩耗
給脂系統の作動不良,配管の閉塞
水・薬品などの液体 油膜切れによる摩耗
グリースの軟化流出
発錆
腐食
過大および衝撃荷重 摩耗粉 アブレッシブ摩耗
精度の低下
設備寿命の低下
潤滑油不足 摩耗粉
熱負荷 摩耗粉
炭化物
タール状物質
トルクの上昇
保持器の破損
軸受の変形
給脂系統の閉塞

グリースの汚染は,設備の損傷を招き,そのまま放置すると生産能力を低下させ,多大な損失へと発展します。特に給脂系統に汚染物質が混入すると短期間には補修できないため,あらかじめ混入防止対策を実施する必要があります。そこで,最も異物が混入しやすいグリースガンにおける給脂方法のポイントを紹介します。

(1)グリースガンによる給脂方法のポイント

ニップルの周りが汚れていると給脂時に異物が入りやすいため,給脂前には必ず清掃を実施する必要があります。表3図1にグリースガンによる給脂方法のポイントを示しましたが,これらの項目を必ず実施することをお奨めします。

表3 グリースガンによる給脂方法のポイント
順番
作業ポイント
1
グリースニップルの周囲をきれいに清掃する
2
グリースニップルの頭に損傷(傷,へこみ,玉の有無)がないか確認する
3
グリースガンノズルをきれいにする。1回程度先端のグリースを押し出し排脂する
4
グリースニップルとガンノズルは水平にセットする
5
ハンドルを動かし,規定回数で給脂を行う(エアー式の場合は,規定時間または排脂口から古いグリースが出てくるまで実施)
グリースガンへの充填
図1 グリースガンへの充填

また,表4にエアー式グリースガンの注意点を示します。異物の混入以外にシールの破損,配管の損傷およびゆるみがないかをチェックすることも忘れないで下さい。

表4 エアー式グリースガンの注意点
 
注意点
1
給脂中に給脂音が変わった場合は,エア噛み込みや缶内のグリース切れが考えられる
2
ガンの空撃ちもしくは缶の交換をする
3
1,2のどちらでもなければ,シール破損や配管破損・ゆるみ等が考えられる

Q2 グリースの汚染劣化診断法について解説して下さい。

A2

3.汚染劣化の診断方法

グリースの汚染度管理は,まず五感管理を実施し,その後異常が認められれば,精密分析へ移行する方法が最適です。表5に排脂グリース状態と分析項目の一覧を示しますが,異物によって測定方法が異なるので,分析によって何がわかるかを理解する必要があります。

表5 排脂グリース状態と分析項目一覧
原因
現象
確認可能な分析項目
黒色 グリースの熱劣化 温度上昇 全酸価,FT-IR分析(劣化度調査)  
摩耗粉の存在 摩耗,油不足 金属分析,フェログラフィ分析
茶色 異物の混入 シール性不良 フェログラフィ分析
赤錆(水の存在下) シール性不良 フェログラフィ分析
フレッチング粒子 揺動機構,クリアランス大   フェログラフィ分析
乳白色 薬剤 シール性不良 pH測定
含水 シール性不良 水分測定
黄銅色 保持器の摩耗粉 油不足 金属分析,フェログラフィ分析
金属粉 転動面・転動体の摩耗   油不足,油性能不足 金属分析,フェログラフィ分析

以下に,汚染度管理に有効な分析方法について説明します。

(1)フェログラフィ分析

フェログラフィ分析の原理は,図2のように磁場によって摩耗粉等の汚染物質をトラップし,光学顕微鏡で視覚観察するものですが,大きさ数μm~数十μmの汚染物質を捉えて調べるため,早期に多くの情報が得られます。

分析フェログラフィ法の原理
図2 分析フェログラフィ法の原理

フェログラフィ分析は,金属粉以外の異物を観察することもできます(図3)。

写真
説明
写真
説明
写真
説明
球状粒子 球状粒子

摩耗粉
外部混入物
溶接スパッタ

×1500

白色系非鉄粒子 非鉄粒子
(白色系)

×400

砂など 砂など

×200

黒色粒子 黒色粒子

黒錆
焼付き粒子

×1000

銅系非鉄粒子 非鉄粒子
(銅系)

×400

繊維質フィルタ材 繊維質
フィルタ材

×100

図3 フェログラフィ分析で観察できる汚染物質の例

(2)発光分光分析

この分析法は,発光分光分析の原理(図4)を用いて,潤滑剤中に含まれる汚染物質(金属元素)の種類と含有量を知ることができます。発光分光分析は,フェログラフィ分析で不得意な非鉄金属系の摩耗粉の診断や,特に汚染物質を定量的にフォローしたい場合に使用されます。

発光分光分析法の原理
図4 発光分光分析法の原理

(3)簡易診断法(鉄粉濃度)

フェログラフィ分析法,発光分光分析法は,高感度,早期発見という長所を有しているが,大まかに摩耗粉による汚染濃度を検知する方法が現場では必要となります。簡易診断法は,摩耗粉の検知を低コストで効率的に1次診断する方法です。図5に各種鉄粉濃度診断法を示しますが,精度および迅速性の面で,蛍光X線分析による汚染物質の定性が好適であると判断されます。

各種鉄粉濃度診断法
図5 各種鉄粉濃度診断法

4.診断による効果

(1)フェログラフィ分析法の活用例

A製造会社では,分配弁の詰まりが多発し,大きな生産損失が発生していました。作動不良が発生した分配弁を分解点検しましたが,不具合の発見が困難であったため,フェログラフィ分析を用いて給脂系統周辺の調査を実施しました。その結果,ポンプ室内(図6)で確認されたゴミ(図7)がポンプフィルタ内部からも確認され,ラインフィルタ内部(図8)からは,外部から混入したと推察される塗料片,溶接スパッタなどが多く確認されました(図10)。外部から混入した異物が原因で,フィルタが破損しているものもありました(図9)。この調査結果を踏まえて,室内5Sを徹底的に実施した結果,分配弁の作動不良を1/2に低減することができました。

室内の状況
図6 室内の状況
室内のゴミ
図7 室内のゴミ
ライン内フィルタのゴミ
図8 ライン内フィルタのゴミ
破損したフィルタ
図9 破損したフィルタ
ラインフィルタのゴミの形態
図10 ラインフィルタのゴミの形態(フェログラフィ分析)

(2)簡易診断とフェログラフィ分析の活用

図11に示すように,蛍光X線分析による簡易診断とフェログラフィ分析とを実機で比較した結果,フェログラフィ分析による診断結果と高い相関を示すことが,実機ベースで確認されました。この簡易診断法と精密診断であるフェログラフィ分析を組み合わせた診断を体系化し,軸受の重要度に応じて2段階に使い分ける方法が,潤滑診断技術の拡大展開のうえで大変有効です(図12)。

実機によるフェログラフィ法との対比
図11 実機によるフェログラフィ法との対比
フェログラフィと連携した潤滑診断系
図12 フェログラフィと連携した潤滑診断系

もちろん,蛍光X線分析に限らず,磁気的検出法の原理で市販されている簡易鉄分濃度計であっても,正しい使い方をすれば活用できます。

グリースの汚染物質を除去することは非常に困難であるため,グリース内に汚染物質を混入させないことが重要となります。また,混入防止対策を実施するうえで,外部からの混入物か,軸受内の摩耗粉かを把握しなければ対策法を見出すことができません。汚染物質の管理を潤滑システムの一部として考え,それを体系化することが汚染物質の発生を抑制するためにも重要です。

<参考文献>
*1 PM研究発表会資料,(社)日本プラントメンテナンス協会中部支部,(1994),1-58
*2 Typical Ferrograph Wear Particles,The standard oil co.

ブルカージャパン ナノ表面計測事業部

アーステック



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