合成潤滑油は単独で使用される場合が多いですが,使用する合成基油,使用目的,添加剤によっては2種類の合成潤滑油を併用するケースもあります。しかし,突発トラブルにより,緊急に油を補給するような場合,現場装置で2種類の合成潤滑油を混合することはトラブルを大きくする恐れがあります。
合成潤滑油の混合(問題点は何か)
2種類の合成潤滑油を混合した場合,どのような影響がありますか。
解説します。
通常合成潤滑油はその特長を活かして単独で使用される場合が多く,脂肪酸エステル系作動油やリン酸エステル系作動油等の難燃性作動油,他の油とは難溶なシリコーン油やフッ素化油等はその代表例です。
しかしながら,ポリ‐α‐オレフィン(以下PAOと略す)に代表されるオレフィンオリゴマー等は低温流動性,高粘度指数等の特長を有しているものの,図1に示すようにシール材を収縮させる傾向や添加剤の溶解性が小さい等の欠点も持ち併せています。
図1 合成潤滑油のゴム膨潤試験 NBR:100℃×70Hr |
一方,エステル類は,シール材を膨潤させる傾向があるものの,低揮発性で耐熱性が高く添加剤の溶解力も大きなものを有しています。このような場合,それぞれの特長を活かして最初から2種類以上の合成潤滑基油を用いてお互いの欠点を補完させることも一般的です。
その代表例がエンジン油で,PAOを基油として用いた場合,高温清浄性を向上させるために金属系清浄剤を用いており,PAOだけでは完全に溶解できないためエステルを併用して溶解性を向上させさらには耐熱性をも向上させています。
また,高温での劣化防止に有効な高分子量のフェノール系酸化防止剤をPAOに使用すると溶解できないことが多く,また,フェノール系酸化防止剤は昇華性があり,揮散により急激に劣化が進むことがあります。この例を図2に示しますが,PAOの溶解性を向上させるとともに高温での酸化防止剤揮散を防ぐため,溶解性の高い芳香族エステルを併用することにより,耐熱性が良好で粘度指数の高い製品をつくることが可能となります。
図2 薄膜酸化安定度試験 温度:170℃ 油量:5g |
このように使用する合成基油あるいは使用目的および添加剤によっては2種類の合成潤滑油を併用するケースもあります。
さて,合成潤滑油を使用している一般ユーザーでは突発トラブルにより,緊急に油を補給しなければならないこともごくまれにあります。
例えば,ポリグリコール系ギヤ油を使用していて油漏れが生じ,緊急にPAO系ギヤ油に入れ替えたところ,サクションフィルタが閉塞してしまったケースもあります。これはスラッジを含んだポリグリコール系ギヤ油が細かな粒子となって浮遊し,サクションフィルタを閉塞したことが原因です。
また,脂肪酸エステル系作動油に間違えてPAO系作動油を補給したところ,スラッジが析出してフィルタ閉塞が生じて停止した例もあります。これは長期間の使用で溶解していた劣化重合物質がPAOの混入により,溶解バランスがくずれて析出したものと考えられます。
このように現場装置で2種類の合成潤滑油を混合することはトラブルを大きくする恐れがあるので,同一の潤滑油を使用するか,メーカーに相談のうえ対応してください。