含水系潤滑剤(特に作動液)にはさまざまな添加剤が含まれていると聞きます。その添加剤の種類と特徴について概説して下さい。
解説します。
水は,豊富に存在する,安い,容易に入手できる,燃えない,圧縮されにくい,冷却性がよい,などの長所をもっています。またその反面,蒸発しやすい,さび・腐食の原因になりやすい,粘度が低い,潤滑性が劣る,金属に対するぬれ性が悪い,凝固点が高い,などの短所ももっています。したがって含水系潤滑剤は,できるだけこれらの長所を生かし,短所を補ってやる必要があります。
まず含水系潤滑剤に利用される成分(添加剤および主・副成分)を表1に示します。この表だけでもある程度の答になっていますが,舌たらずの感が強いので,代表的含水系潤滑剤の具体例により,もう少し説明します。
表1 含水系潤滑剤の成分
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含水系潤滑剤は,水を一定割合(約40%以上)含むことにより燃えにくくなり,水を含む割合により用途が分かれます。用途・目的により組成が異なり,それぞれの特長を出しているわけです。作動液として使われる水・グリコール形およびエマルション形について,利用される添加剤などの種類,組み合わせを例示します。
1. 水・グリコール形
これは,潤滑性および粘性を改善するため35~65%の水に増粘剤を加え,他にいろいろな添加剤を加えた溶液タイプの液安定性のよいものです。配合例を表2に示します。
表2 水・グリコール形の配合例
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水の粘度は非常に小さいので(約1cst),ある粘度範囲に保つためには,水溶性ポリマーが必要です。ポリアミドとアルキレンオキサイドとの反応物は,優れた潤滑性と減摩性能をもっており,50,000~150,000の分子量をもっていると望ましいのですが,分子量がそれより大きくなったり,または小さくなると,ポリマーが固体となって溶解性に影響が出たり,増粘効果が不十分となったりします。
また,より一層潤滑性を向上させるために油性向上剤が加えられます。水を含むのでさび止め性が重要で,水に溶けるものが望ましく,さらに水は蒸発しやすいので気相部のさび止めが不可欠なためこれに対応する添加剤が必要となります。もちろんこれには広い意味での腐食防止性が含まれ,これにあいまって液をアルカリ性に保つ(アルカリ性になる)必要が生じ,アルカリ性を変化しにくくするPH調整剤を加えることがあります。
また,グリコールは流動点を下げ,低温流動性を保つ働きとある程度水の蒸発を調節する働きをします。ただし60℃を超えると一般に蒸発が急増するので,それ以下の液温で使用することが望まれます。このような成分を組み合わせるとあわ立ちやすくなることがあり,あわ消し剤を使います。色素は他種の液(油)との区別をし,誤給油を防ぐとともに,もれを発見しやすくするために加えます。その他耐摩耗性を向上させるために油性向上剤ばかりでなく,亜鉛,りん系の極圧剤を適切に配合したいわゆる高圧仕様のものも使われています。性能を十分発揮させるためには,いずれにしても各種添加剤を使う上でのバランス,相性が問題になります。
アルカリ性で,高濃度のグリコールを含むため,腐敗,かび発生の心配はありません。
2. O/Wエマルション形
いわば牛乳タイプの液体で,放置安定性は比較的よいものが得られます。粘度が比較的小さくまたあげにくくなっています。また,軸受性能が劣りますので特に高荷重軸受には向きません。むしろ冷却効果はよいので,切削油剤(または共用)および水圧支柱のような用途に使われます。
表3 O/Wエマルション形の配合例
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3. W/Oエマルション形(逆エマルション形)
水:20~60%,油80~40%の範囲で作ることができますが,望ましいのは水/油=0.54~1で,1~2μmの水滴にすると難燃性のエマルションとなります。ただ10℃以下ではエマルションを形成しにくく,また60℃以上では一部O/W形になることがあります。したがって10~60℃の間で使われねばなりません。使用中,貯蔵中に分離または反転をおこすことがあるので注意が必要です。潤滑性はまあまあありますが,実用時にせん断を受けると粘度が低下するので事前に見掛け粘度との対比をしておく必要があります。また腐敗対策を講じないと思わぬ事故を生じる(悪臭,フィルタ目詰まりによる潤滑不良など)ことがあります。
表4 W/Oエマルション形の配合例
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いずれにしても含水系潤滑剤には,添加剤では補えない本質的な特性があります。つまり水に基因する特性ですが,ころがり軸受性能,水分蒸発,キャビテーションなどがあることを常に念頭に置くべきでしょう。