フリクションポリマとは | ジュンツウネット21

フリクションポリマという言葉を聞いたことがあります。どのような化合物なのか,また潤滑油の中でどのような作用をするのかも解説して下さい。

解説します。

1. はじめに

日本潤滑学会編「潤滑用語集」のフリクションポリマの項を引きますと,「摩擦により有機化合物が重・縮合し生成したもので,摩擦摩耗現象に大きく関与するものである。代表的なものとしてジオチりん酸亜鉛系添加剤から形成するものがある」と記載されています。

摩擦面にポリマ状のものが生成するという現象は早くから指摘され,1953年Hermanceは,雰囲気に有気の蒸気がある場合,電気リレー接点にポリマ状褐色の被膜が付着し,通電性をそこなうことを見出しました。接点の開閉を繰り返すと,通電の有無に関係せず同様の被膜が発生するので,これをフリクションポリマと名付けたといわれています。

このように,いたずらをするフリクションポリマもありますが,ここでは潤滑に対し摩擦防止などの利益を与える面を取り上げてご質問にお答えします。なお,フリクションポリマに関し,岡部*1のすぐれた解説があるので御覧下さい。

2. 摩擦化学反応

本題にはいる前にフリクションポリマの生成にかかわりをもつ摩擦化学反応について簡単に述べます。

油膜が破断して,金属同士が直接接触するような摩擦条件下の金属表面は,(a)瞬間的には300~700℃にも達する高温,200kgf/mm2におよぶ高圧,(b)摩耗で削り取られてきわめて化学活性に富み,さかんに電子を放射している新生表面,(c)潤滑油とともにもち込まれる酸素,微量の水分など,化学反応をおこすために必要な条件は十分に整っています。

いわゆる摩擦化学反応とは,このような条件になっている摩擦面で行われる化学反応です。

3. フリクションポリマ型添加剤

Furey*2の発表したフリクションポリマ型添加剤は,ダイマー酸にエチレングリコールを反応させてつくったモノエステルで,分子の一端にカルボキシル基(HOOC―)を,ほかの一端に水酸基(―OH)をもった図1の構造になっています。このモノエステルが,摩擦化学反応でエステル化縮合を行い,図2のように摩擦金属表面にポリマ被膜をつくって金属同士の直接接触を防いだり,谷間を埋めて金属表面を平滑化したりして摩耗を防止します。

FUREYのフリクションポリマの構造
図1 Fureyのフリクションポリマの構造*2
リクションポリマ被膜の模式図
図2 フリクションポリマ被膜の模式図*2

この添加剤は,りん・硫黄・塩素系極圧剤のように地金と直接反応して化合物をつくりませんので,化学腐食摩耗の恐れはありませんが,その性質から見て,高荷重下での焼き付き防止性能はあまり期待できません。Fureyは同じ原料を用い,通常の化学反応でつくった四量体ポリマを油に添加したのでは,あまり摩耗防止効果を示さない実験結果を示しています。このことは摩擦化学反応で生成したフリクションポリマの特異性を示すものとして興味深いものがあります。

4. りん酸エステル系フリクションポリマ

有機りん酸エステル系の摩耗防止・極圧添加剤は,最終的には地金金属とりん酸化合物をつくり,摩耗や焼き付けを防止するとされていますが,中間体として添加剤あるいはその熱分解物がポリマを生成して摩耗防止機能を発揮しているという説もあります。

多機能型添加剤としては広範な用途をもつジアルキルジチオりん酸亜鉛(ZDTP)について,種々のポリマ推定構造が出されています*3~4。摩擦条件のちがいで生成する被膜の成分がことなるため,その構造の確認はできておりません。現在のところ有機・無機性物質の複雑な混合物からできている,非結晶性のポリりん酸鉄が主体であると推定されています。

有機りん酸エステル系の摩耗防止剤,ジアルキルフォスフォネートOP(OR)2Hは,弾性流体潤滑膜の厚さを増加させて摩耗減少効果を示すというLacey*5の報告があります。

鋼球と円板を組み合せた摩擦試験機を用い100℃で試験した場合,基油単独のときは光干渉法で測定した油膜厚さは,理論計算値に近い170nmで摩擦を続けても変化しませんが,基油に3%のフォスフォネートを加えると摩擦時間の経過とともに油膜厚さが増加し,25分後には400nmになりました。試験後の摩擦面にはポリマ状の被膜が認められ,表面分析の結果図3のような鉄と有機りん酸とからなるポリマ化合物であると推定しています。

フォスフォネートからのフリクションポリマ
図3 フォスフォネートからのフリクションポリマ*5

5. おわりに

代表的フリクションポリマについて説明をしました。これらのポリマ類は現象として摩耗減少に役立っていることは明白ですが,その化学的構造については現在不明な点が多くあります。表面分析技術が急速に進歩していますので,近い将来より確実な情報がえられるものと考えます。

<参考文献>
*1 岡部:潤滑,24(1979) 648
*2 Furey M.J., Wear,26(1973) 369
*3 倉知:潤滑,28(1983) 131
*4 川村:潤滑,31(1986) 613
*5 Lacey I.N., ASLE Trans., 29(1986) 299

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最終更新日:2021年11月5日