2サイクルエンジンに4サイクルエンジン油を使用すると,それに配合されているZnDTPのためにピストンとシリンダが汚れると聞いていますが,本当でしょうか。
解説します。
(1)2サイクルエンジン油と4サイクルエンジン油の差異
4サイクルエンジンでは,オイルパンに溜められた油がポンプにより圧送され,エンジン各部を潤滑した後再びオイルパンに戻るシステムを採用しています。また2サイクルエンジンでは,エンジン油は燃料に混合され回転部やしゅう動部に付着することにより,またはオイルタンクからの圧送によりエンジン各部を潤滑した後,混合気とともに燃焼室に入り燃焼します。
このような潤滑機構の差異および動弁機構の有無のような構造の差異により,2サイクルエンジン油と4サイクルエンジン油に要求される性能は大きく異なっており,その概要を表1に示します。また,その要求性能を満たすための潤滑油組成差異の概要を表2に示します。
表1 2サイクルエンジン油と4サイクルエンジン油に要求される主な性能
◯:主要な要求項目 |
表2 2サイクルエンジン油と4サイクルエンジン油の組成の差異
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(2)2サイクルエンジン油処方の特徴
2サイクルエンジン油と4サイクルエンジン油の組成上の大きな差異は,硫酸灰分とZnDTPの有無にあります。2サイクルエンジン油で硫酸灰分が低いのは,灰分の主要要因である過塩基性清浄剤の酸中和性能が要求されないことと,灰分が燃焼室堆積物を増加させたりプラグ失火を生じることがあるためです。
ZnDTPが処方されないのは,2サイクルエンジンでは油の酸化防止性が要求されないことと,動弁機構がないため厳しい摩耗防止性能が要求されないためです。また,ZnDTPは通常150~200℃で熱分解されると言われていますが,高負荷運転時のピストン,リングまわりの温度は200℃を超えるという報告もあり,ZnDTPの添加がかえってピストンの汚れ,リング膠着を生じその防止により多くの清浄剤を必要とすることとなることもZnDTPを添加しない理由です。
最近JASO法2サイクルエンジン油の評価方法の制定など統一評価方法の開発によりこの分野の研究も加速するものと思われますが,構造が単純な2サイクルエンジンにおける潤滑に関しては未だ解明されていないことも多く,よりいっそうの研究が望まれます。