ATFに使われている油の添加剤は,エンジン油に配合される添加剤とは違うものですか。
解説します。
ATF用の添加剤とエンジン油用の添加剤には,多くの共通する性能が求められますが,各々の使用条件の違いにより独特の設計がなされております。
まず,両方の油に共通する代表的な要求性能として,高温下での長時間使用に耐えうる酸化防止性能,使用中に生成するスラッジ等を油の中に均等に分散させるための分散性能,金属同士またはペーパー材との接触時の摩耗を防ぐための摩耗防止性能,さらにはハードウエアの金属の腐食やシール部の有機材料を油から保護する性能が挙げられます。
これらの性能を満足させるため,両添加剤パッケージの中にはその用途によって添加量の違いこそあれ,酸化防止剤,分散剤,摩耗防止剤,粘度調整剤,金属不活性剤等が入っております。
ATFにはこれらの基本的な添加剤に加えて特殊な摩擦係数調整剤が入っていることが1番の違いです。摩擦係数調整剤は,エンジン油用添加剤にも配合される場合がありますが,エンジン油のようにただ摩擦係数を下げるために入れるのではありません。オートマチックトランスミッションは,トルクを無駄なく伝達しながらも,シフト時のショックを和らげるだけの適度な摩擦係数のコントロールが必要とされます。ATFはその摩擦性能がオートマチックトランスミッション本体の性能に対して非常に重要な役割を果たすため,ATFに加えられる添加剤には微妙な摩擦係数を作り出す摩擦係数調整剤が選択され,配合されております。
一方エンジン油はATFと違ってエンジンの燃焼室に近いところを潤滑しているため,非常に高温にさらされる上に,燃焼時に発生するさまざまな酸化物が燃焼室よりエンジンオイルの中に流入してきます。これらの酸性物質は直接金属腐食の原因となるだけではなく,エンジン油そのものを劣化させます。それらの有害な酸性物質を中和して除去するために充分なアルカリ価をもっていることが必要になります。
以上が主な違いになりますが,それぞれ高度な使用目的のため,微妙に配合設計されているため,エンジン油添加剤とATF用添加剤は全くの別物と考えておいた方がいいかと思います。