水系洗浄剤の適正使用について | ジュンツウネット21

Q1 水系洗浄剤とはどのような洗浄剤ですか。種類や特徴について教えて下さい。

A1

水系洗浄剤の基本成分は,無機・有機ビルダー,界面活性剤,キレート剤,防錆剤から構成され,その化学的な性状から分類すると,酸性洗浄剤,中性洗浄剤,アルカリ洗浄剤に分けられます。これらは濃縮液や粉末の状態で提供されており,通常使用時に10~100倍程度に水で希釈して使用されます。水系洗浄剤の主たる長所と短所は,表1の通りで,種類と特徴については,表2に示します。

表1 水系洗浄剤の長所と短所
長所
短所
(1)引火性,爆発性がない
(2)毒性は極めて少ない
(3)洗浄剤のランニングコストが安い
(4)液中での超音波の力は一般に溶剤より強い
(5)固形物汚れも除去可能
(1)非水系洗浄剤に比べて油の溶解力は弱い
(2)再生利用が困難
(3)乾燥が遅い
(4)リンス排水が出る
(5)設備設置スペースが大
(6)付帯設備が多い(油分離器,乾燥装置,排水処理装置)
(7)錆の発生に注意を要す
表2 水系洗浄剤の種類と特徴
洗浄剤の種類
汚れの成分
洗浄対象物
特徴
洗浄機構
アルカリ性 切削油
圧延油
加工油
研磨粉
切削粉
鋼板
伸線
金属部品
ガラス
(1)安価である
(2)固形物汚れの除去性が良い
(3)金属を腐食しやすい
(4)安全性に問題がある
アルカリ効果(中和,ケン化)
キレート効果
中性 加工油
切削油
ピッチ
ワックス
液晶
精密部品
アルミ部品
光学レンズ
液晶パネル
(1)油性汚れに適している
(2)金属を腐食しにくい
(3)安全で取り扱いが容易
界面活性能
(乳化,分散,可溶化)
酸性
スケール
配管
熱交換器
(1)特殊な汚れを除去できる
(2)金属を腐食する
(3)安全性に問題がある
化学反応の効果(分解,溶解)

(1)酸性洗浄剤

酸性洗浄剤は,無機酸(塩酸,硫酸,リン酸等)および有機酸(クエン酸,スルファミン酸等)と界面活性剤,インヒビターで構成されています。用途は,金属表面のスケール除去・脱錆・酸化膜除去等に使われます。この他に,ガラスやセラミック等の素材の場合には,表面の濡れ性を向上させる目的で酸性洗浄剤を使用する場合もあります。

(2)中性洗浄剤

中性洗浄剤は,界面活性剤,弱酸~弱アルカリの無機・有機ビルダー(リン酸塩やキレート剤等)と防錆剤等から構成され,脱脂力が少し弱く,軽度な汚れの洗浄や工程間の中間洗浄等によく使用され,非鉄金属の洗浄に適しています。

(3)アルカリ洗浄剤

アルカリ洗浄剤は,界面活性剤,アルカリの無機・有機ビルダー(苛性ソーダ,リン酸塩,珪酸塩,炭酸塩やキレート剤等)と防錆剤等から構成され,脱脂力,切粉,カーボン等の固形物除去に優れ,種類も多く水系洗浄剤の主力を占めています。

Q2 どういう汚れを落とすのに適していますか。

A2

一般的に工業部品の汚れは,油性汚れと固形物汚れの2つに分類することができます。油性汚れは,工業部品の製造工程に用いられた加工油,防錆油等であり,固形物汚れは,切削粉,研磨粉,カーボンのような汚れが中心であります。(表2

通常,このような固形物汚れは,単独で部品等の固体表面に付着していることはまれで,油性汚れがバインダーとなり,それに固形物汚れが混じりあって固体表面に付着していることが多くあります。そのため,これまでは油性汚れに対する溶解力の優れているフロンや塩素系溶剤が洗浄剤として多く用いられてきました。しかし,最近では環境問題から安全で容易に使用できる水が見直されてきました。

溶剤にない水の特徴は,有機酸や無機塩類等の電解質に対する優れた溶解力と無機や有機の固形物汚れを水に容易に分散できることです。また,水での洗浄が比較的困難であった油性汚れに対しても,近年,界面活性剤をうまく組み合わせることにより,十分な溶解力と洗浄力を有する水系洗浄剤が開発され,積極的に用いられています。

Q3 使用上の注意,環境上注意することはありますか。

A3

水系洗浄剤を使用するに当たり,濃度の管理等洗浄液の管理は重要です。濃度が設定値より低くなると,洗浄力ならびに防錆力不足につながります。また,濃度が設定値より高くなると,次工程のリンス水が汚れて残渣やシミが残ることがあったり,ノンリンス型では,成分残渣によるベタツキ等の問題が発生することがあるので注意が必要です。また,ランニングコストを抑えるためにも,最適な濃度で効率良く洗浄することが重要です。

中性洗浄液,リンス水等においては,腐敗に対して注意しなければなりません。腐敗は再汚染につながったり,有機物がバクテリアによって消費され錆を発生させたりすることがあります。リンス水に関しては,防錆に不安があるため,防錆剤を添加したり,ウォーターマークを嫌う精密洗浄品には純水を使用することが望ましいでしょう。

水系洗浄剤の短所の一つである乾燥が遅いことに関しては,水分残存による錆に注意が必要で,真空乾燥,エアーナイフ,遠心分離等の利用によって乾燥を促進させます。

環境上注意する点は,水系洗浄剤の場合,溶剤洗浄と比較してその廃液(洗浄液,リンス水,防錆液)を処理しなければならないことが大きな違いです。

一般的にpH,SS(浮遊物質量),COD(化学的酸素要求量),BOD(生物化学的酸素要求量),n-ヘキサン抽出物質量等が,排水基準に適合するように処理することが必要となります。総理府令で定める排水基準は,公共用水域を対象としており,都道府県並びに市町村によっては,この基準より厳しい上乗せ基準を定めることができることになっているので確認が必要です。

水系洗浄剤の洗浄液およびリンス水は,下記の法令が適用されます。

(1)水質汚濁防止法
(2)下水道法
(3)廃棄物の処理及び清掃に関する法律

Q4 洗浄剤の管理はどうすれば良いのでしょうか。

A4

洗浄液の管理は,洗浄槽に新液を投入する時と洗浄液の寿命を判断する時に必要です。

洗浄液の濃度管理は,滴定法が一般的で,例えばアルカリ性では洗浄液100mLを中和するのに必要なN/10酸の消費量を求めて,検量線から濃度を算出する方法です。手動で行う場合は,指示薬を用いN/10酸を滴下しながら変色点を目視で判断するため熟練を要しますが,比較的精度が良く,油汚れの影響を受け難い方法です。手動の他に自動滴定装置(電位差滴定)を用いる場合もあります。

屈折率法といって糖度計(Brix値)を用いて,その場で簡便に測定できる方法もあります。一般に洗浄剤には水以外に複数の成分が含まれているため,その量によって屈折率が変化します。この方法も滴定法と同様,検量線から算出します。新液の場合は水と洗浄剤成分しか含まれていないので,正確に濃度が求められますが,使用液の場合は洗浄剤以外に汚れが混入してくるため,屈折率は高くなり精度に欠けることがあります。

電気伝導度からその場で簡便に測定できる方法もあります。この方法は洗浄装置に組み込まれている場合も多く,イオン性成分を含む洗浄剤であればこの方法が使えます。電気伝導度とは電気の通りやすさを数値化したもので,イオン性成分が多く含まれるほど電気伝導度は高くなります。屈折率ほどではありませんが,電気伝導度も他のイオン性混入成分の影響を受けやすく,汚染物質が酸やアルカリを含んでいる場合は正確に測ることが難しくなります。

また,洗浄液の汚染度の管理は,洗浄液の寿命を管理する重要なポイントでもあります。

通常,混入油分濃度の他に金属イオン濃度や固形分濃度(SS分)等を測定し,洗浄物の清浄度との関係で建浴の目安にします。

さらに,洗浄液の更新時期を判断するには洗浄処理数,洗浄液やリンス水等の汚れ具合,洗浄部品の仕上がり性等について経時的なデータ取りが必要になります。

Q5 どのような洗浄装置を使うのでしょうか。

A5

洗浄に寄与する要素としては,水,溶剤の持つ溶解力,界面活性剤による界面活性力等および熱,撹拌,摩擦力,加圧,減圧,研磨力や超音波の物理作用があり,これらの組み合わせにより洗浄が行われます。(表3

表3 洗浄に寄与する要素
化学力 溶解力 水,溶剤
界面活性力 界面活性剤(助剤)
化学反応力 酸,アルカリ
物理力 他の洗浄要素の反応促進,汚れの物理変化,洗浄体の物性変化
撹拌 洗浄体と新鮮な洗浄液の撹拌,均一化による洗浄効果の向上
洗浄面よりの汚れの解離を機械的に促進
解離した汚れを洗浄液中に分散,保持して洗浄面への再付着を防止
摩擦力 ブラシ等で擦ることで汚れの解離を促進
加圧 噴射エネルギーによるシャワー洗浄
減圧 減圧した液を細部に浸透させて汚れを膨潤させて除去
研磨 手,機械,ブラスト法による研磨
超音波 キャビテーション,加速度,直進流

水系洗浄方式としては,シャワー洗浄,スプレー洗浄,ジェット洗浄,浸漬洗浄,超音波洗浄,揺動・回転洗浄,バブリング洗浄,減圧洗浄等の方式があります。

表4に,水系洗浄装置を各種洗浄方式で分類し,内容,特徴と留意点について示します。

表4 洗浄方式の特徴
種類
内容
特徴と留意点
シャワー洗浄 0.2MPa未満の圧力で洗浄液をノズルから噴射し,その勢いで,被洗浄物に付着した汚れを洗浄する。 (1)低泡性の洗浄剤を選定する。(洗浄中泡が多い時は,温度を上げると泡が少なくなり,作業性が増すことが多い。)
(2)シャワーの当たる部分と当たらない部分とで洗浄効果,防錆効果も異なるため,洗浄液を部品全体に当てるためのノズルの種類,数,位置,圧力の検討が必要。
(3)シャワー圧力による部品の飛び出し,位置ずれに注意が必要。
スプレー洗浄 0.2~2MPaの圧力で洗浄液をノズルから噴射し,その勢いで,被洗浄物に付着した汚れを洗浄する。 (1)深穴,非貫通孔内部の異物除去に適する。
(2)シャワー洗浄より効果は高いが,局部的なのでノズルの位置,方向に注意する。
(3)低泡性の洗浄剤を選定する。(洗浄中泡が多い時は,温度を上げると泡が少なくなり,作業性が増すことが多い。)
(4)高圧ポンプのメンテナンスを確実に行う必要がある。
ジェット洗浄 2MPaを越える圧力で洗浄液をノズルから噴射し,その勢いで,被洗浄物に付着した汚れを洗浄する。
浸漬洗浄 被洗浄物を容器に入れた洗浄液に浸漬し,主に物理化学的溶解力等で洗浄する。 (1)本洗浄前の予備洗浄に使用する。
(2)洗浄時間が長くかかるので,洗浄時間を問わない場合に使用する。
(3)重質の汚れには,溶解力の大きい洗浄剤を使用すると洗浄効果大。
超音波洗浄 洗浄液中に超音波を放射した時に発生するキャビテーション(空洞)効果と核粒(気泡,空洞)の破壊効果で洗浄する。 (1)汚れの物理的な剥ぎ取り,洗浄液による溶解や乳化分散速度を促進する。
(2)洗浄槽内の場所により超音波の効果に強弱があるので,被洗浄物を揺動させると,より均一な効果が得られる。
(3)比較的小さな粒子汚れの除去に適す。
(4)脱気した洗浄液を使用すると強力な効果が得られる。
(5)アルミ等の軟らかな素材はエロージョンを起こすことがあるので,注意が必要。
揺動・回転洗浄  洗浄液中で,被洗浄物を上下または左右に動かし,あるいは回転させることで洗浄液の撹拌による洗浄効果を上げる。 (1)被洗浄物を上下,左右に揺動して洗浄液を撹拌し,洗浄剤の能力を効率よく発揮させる。
(2)被洗浄物をバスケットに入れて回転させ,被洗浄物間の密着を防ぎ,汚れ成分の拡散を促す。
(3)揺動,回転ともに他の洗浄方式と併用することで,より効果的な洗浄ができる。
バブリング洗浄 洗浄液中にエアを噴出させて液を撹拌し,洗浄効果を上げる。 (1)低泡性の洗浄剤を選定する。
(2)複雑な形状,凹みのあるものには向かない。
(3)中・重質汚れに対しては物理力が弱い。
減圧洗浄(真空洗浄) 密閉容器内の洗浄液に被洗浄物を入れ,減圧することによって同一装置の中で洗浄から乾燥まで行う。 (1)被洗浄物の細部まで液の接触が可能で洗浄効果が高まる。
(2)超音波等の他の物理力と併用すると,より効果的な洗浄ができる。
(3)減圧乾燥を行うことができるため,乾燥時間が短いのが特徴である。

また,水系洗浄後には乾燥も重要な工程になるので,表5に乾燥方法で分類し,内容,特徴と留意点について示します。

表5 乾燥方法の特徴
種類
内容
特徴と留意点
熱風乾燥 熱風を吹き付けて加熱する方法で,最も一般的である。 (1)熱源としてスチーム,直接燃焼ガス,間接燃焼加熱,電気ヒーター等がある。
輻射加熱乾燥 赤外線や遠赤外線を用いて加熱する。 (1)通常,熱風乾燥と併用される。
(2)赤外線には直進性があるので,陰になる部分は温度が上がり難いので注意が必要。
エアブロー乾燥 圧縮エアを吹きつけて部品に付着した液体をある程度吹き飛ばす。 (1)各種乾燥工程の前に行うと乾燥工程の時間短縮に効果的である。
(2)熱風乾燥を併用すると有効な場合が多い。
回転(スピン)乾燥  遠心力により液体を振り切る。 (1)各種乾燥工程の前に行うと乾燥工程の時間短縮に効果的である。
(2)装置,用途によっては完全乾燥が可能である。(シリコンウエハ,液晶基板等に採用されている。)
減圧乾燥(真空乾燥) 乾燥容器内を減圧することで液体の沸点を下げ,液体を蒸発させ乾燥させる。 (1)蒸発熱が奪われるため,通常,予熱以外に加熱手段が用いられる。
(2)水系の場合,蒸発熱が大きいため,乾燥時の被洗浄物の温度が下がり乾燥不十分になることがある。
(3)減圧工程があるため,トータル時間が長くなる。

Q6 周辺装置(回収,再生,ろ過,廃水,廃液)はどうすれば良いのでしょうか。

A6

洗浄液中の固形物汚れの除去は,糸巻きや不織布等を使用するろ過方法が一般的であります。油性汚れの除去は,油水分離器が用いられ,オイルスキマ式油水分離器,コアレッサ式油水分離器および電気式油水分離器が代表的なものです。これらの他に,膜式(UF)油水分離器,加熱式油水分離器等もあります。ここではコアレッサ式油水分離器および電気式油水分離器について簡単に説明します。

(1)コアレッサ式油水分離器

この方式は,洗浄液に分散した微細な油滴(通常数μm)が対象となり,狭い空隙を有する充填材に洗浄液を通過させて,洗浄液に含まれる微細な油滴同士を衝突させることによって,油滴を凝集→粗粒化(通常数100μm)させ比重差で分離する方式です。

(2)電気式油水分離器

電気的な方法を使用する場合は,乳化状態にあり,油水分離が比較的困難な場合に適用されます。電気的にエマルジョン状態を破壊または合一させるために電気分解等による方法として

(1)隔膜電解法
(2)電気分解による電解浮上法
(3)交流電圧を使用し乳化破壊させ浮上させる方法

等があります。

ここで(1)および(2)法は下記の反応式に基づきます。

H2O→1/2O2+2H++2e- (陽極反応)
 2H2O+2e- →H2+2OH- (陰極反応)

一般的に乳化状態の油の粒子は,水中では負に帯電しており,お互いの斥力により合一しない安定な状態となっています。電気的に粒子表面の電位を中和させることにより,凝集浮上させることが基本的な原理です。

隔膜電解法の特徴は,隔膜電解・膜分離工程において被処理水中の油エマルジョンをpH低下,加熱,濃縮および静電凝集の相乗効果によって乳化破壊することです。

電解浮上法は,NaClやNaOH等の溶存する水の電気分解によって発生する水素と酸素の気泡をフロックに付着させ浮上分離する原理です。

交流電圧印加法は,交流の電圧サイクルにより油滴粒子を振動状態にすることで粒子表面の静電位を中和し,凝集・合一させる方法です。

いずれの方法でもその適用する場合には,洗浄剤および油種によりその効果が十分発揮されないこともあるので,実験のうえ決定して下さい。

次に,リンス水の処理装置について説明します。リンス水の処理装置は,リンス水の水質を規制値以下にするための排水処理装置とリンス水を処理することにより浄化水として回収し,循環再利用するクローズド化処理装置に大別できます。クローズド化処理装置については,次の質問で回答します。

(3)排水処理装置

凝集沈殿装置,活性炭吸着装置,逆浸透装置等の物理化学的処理装置と活性汚泥処理装置等の生物処理装置等があり,これらの装置を単独あるいは組み合わせて処理します。

(1)凝集沈殿装置
薬品によって微細な粒子を大きな粒子に成長させて沈降しやすくして,排水から沈降分離する装置です。

(2)活性炭吸着装置
濃度があまり濃くない有機物を含む排水を活性炭に吸着させて除去する装置です。ただし経費が高いので最終放流前の安全と,緊急の対策時に備えて設置するのが好ましいでしょう。飽和した活性炭は,通常業者委託して再生して下さい。

(3)逆浸透装置
半透膜を用いて浸透圧以上に圧力を加えることによって,排水中の溶存物質を分離する装置で,高圧ポンプ,逆浸透膜,圧力容器等で構成されています。

(4)活性汚泥処理装置
ばっ気槽の中で有機物を含む排水と活性汚泥を撹拌し,これに空気を送ってばっ気し,排水中の汚物を微生物分解して除去する装置です。ランニングコストは安く済みますが,設備の設置面積が広く必要になります。

Q7 廃液を出さない工夫等はありますか。

A7

洗浄工程の中で最も水を使用する工程は,リンス工程です。このリンス工程を省略し,排水を出さないように設計されたのが,ノンリンス型の洗浄能力と防錆能力とを兼ね備えた洗浄剤です。

ノンリンス型洗浄剤は,有機ビルダー,防錆剤,界面活性剤から構成され,洗浄後防錆成分等が金属表面に吸着します。

ノンリンス型洗浄剤は,機械加工後等の中間洗浄剤として一時防錆を必要とする場合に用いられることが多く,また,要求清浄度に応じて,電子ビーム溶接前洗浄,焼入れ等の熱処理工程前後の洗浄,塗装前洗浄等に使用されることもあり,洗浄方法は主にスプレー方式が採られています。

リンス水の処理装置としては,リンス水を処理することにより浄化水として回収し,循環再利用するクローズド化処理装置があります。

クローズド化処理装置は,減圧蒸留回収装置と逆浸透装置の2つに分けられます。

減圧蒸留回収装置は,減圧下の低温領域で排水から水分を蒸発させ,蒸発した水を凝縮させることによって,排水から水を回収する装置です。つまり,減圧蒸留回収装置でリンス水を循環再利用することができます。また,減圧蒸留回収装置は,洗浄廃液の減容に利用することもできます。

逆浸透装置は,半透膜を用いて浸透圧以上に圧力を加えることによって,リンス水中の溶存物質を分離する装置で,処理水(透過水)はリンス水として循環再利用します。

Q8 今後の展望や課題などについて教えて下さい。

A8

現在の産業,工業は,著しいスピードで発展しており,洗浄する工業部品,製品だけでなく,その汚れの種類も多様化,複雑化しています。その一方で,洗浄剤に求められる要求性能はますます高いものになってきています。

したがって,水系洗浄剤を選定するに当たり,次の項目等をしっかり見極めなければなりません。

(1)汚れ成分は何であるか
(2)被洗浄物の材質の腐食性はどうか
(3)どのような洗浄方法(機器)を使用するのか

そして,高い生産性と品質の良い工業部品,製品を製造するためには,洗浄剤のみを考えるのではなく,「洗浄→リンス→(防錆)→乾燥仕上げ」さらに洗浄物の品質管理まで含めた「洗浄システム」として全体を見据えて洗浄を行うことが重要です。

これからますます環境に対する化学薬品の規制が厳しくなり,水系洗浄剤に関しても,生分解性の良好な成分への移行や廃棄物低減に対する検討が今後重要な課題になってきます。

また,水系洗浄を採用するに当たり,洗浄液,リンス水の廃液,排水処理,新しい洗浄設備,乾燥設備,純水設備等が必要となり,設備投資に負担がかかる問題が残り,これらの設備,装置等のコスト低減化もこれからの課題です。

環境負荷の低減,設備投資の負担減を行うためには,使用していただく側でも,要求清浄度を明確化して,洗浄前の工程を見直し,洗浄前の汚れを管理することをお願いしたい。洗浄前の汚れを低減することにより,洗浄コストを下げたり,無洗浄に移行することができるからです。

 

<参考文献>
*1 中小企業事業団編:特定フロン・エタンからの代替に関する技術データ集(1998)
*2 日本産業洗浄協議会編:よくわかる洗浄のすべて,日刊工業新聞社(1999)
*3 日本産業洗浄協議会編:よくわかる洗浄装置の周辺技術,日刊工業新聞社(2000)
*4 天田徹:潤滑経済,P12-17,9 (1998) No.390

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最終更新日:2021年11月5日