- Q1.産業洗浄に関する環境問題にはどんなものがありますか。
- Q2.産業洗浄におけるPRTR対策とはどのようなものですか。
- Q3.大気環境保全問題への取り組みの現状はどうなっていますか。
- Q4.水環境問題への取り組みの現状はどうなっていますか。
- Q5.ISO14001の認証のためにはどうすれば良いのですか。
Q1 産業洗浄に関する環境問題にはどんなものがありますか。
A1
環境庁の平成12年(2000年)版「環境白書」に環境への負荷が少ない循環型経済社会システムの実現に関する記述があり,環境保全の必要性と対策が述べられています。この実現に向け,国家および産業界が歩調を合わせ取り組んでいるのが現状です。
洗浄現場に係わる環境・安全問題は,時代とともに企業の環境活動の中でも,ますます重要な地位を占めるようになってきています。そこで,洗浄に関する環境問題をまとめると表1の通り整理されます。
表1 産業洗浄に関係する環境問題
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洗浄剤についても,環境にやさしい洗浄剤の要求が高まっており,環境負荷の低減を念頭に製品開発が行われております。
最近,特に注目されているのは,成層圏オゾン層破壊,地球温暖化,平成13年(2001年)3月に施行令公布されたPRTR,ISO14001認証取得等でしょう。
Q2 産業洗浄におけるPRTR対策とはどのようなものですか。
A2
化学物質は,プラスチック等工業用材料の原料から家庭用の洗剤や調味料のような日用品まで広く利用され,日常生活を営むうえで必要不可欠なものになっています。しかし,化学物質は人類にとって利便性を有する反面,危険有害性も併せ有しているので,適切に使用・管理しなければ,人の健康に悪影響を及ぼし,環境汚染を引き起こす場合があります。産業用の各種洗浄剤も例外ではありません。
我が国では,これまで大気汚染防止法,化審法,労働安全衛生法でこれらの問題に対応してきましたが,これだけでは不充分であり,有害化学物質の適正な管理に関して企業の自主的な取り組みが強く要請されるようになりました。
平成11年(1999年)7月に「特定化学物質の環境への排出量の把握及び管理の改善の促進に関する法律」が制定公布されました。この法律は,化学物質管理促進法あるいはPRTR(Pollutant Release and Transfer Registerの略)法と呼ばれるものです。
PRTR法では,化学物質の排出量等の届出の義務付け及び化学物質等安全データシート(MSDS:Material Safety Data Sheetの略)交付の義務付け等が規定されています。また,PRTRの施行令が平成13年(2001年)3月に公布され,PRTR及びMSDS対象化学物質(第一種指定化学物質),対象事業者,製品の要件等が明らかにされました。
したがって,洗浄剤を製造している事業者は,排出量の届出及びMSDSの交付義務が発生し,洗浄剤を使用している事業者は,排出量の届出義務が発生しました。現在,第一種指定化学物質は354物質が指定されていますが,産業洗浄で多く使用されている洗浄剤に含まれる対象化学物質は表2の通りです。
表2 産業用の洗浄剤に含まれる第一種指定化学物質
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特に洗浄剤を使用している事業者は,洗浄剤メーカーからMSDSの提供を受け,そこに記載されている対象化学物質の含有量をベースに,2001年4月1日から2002年3月31日までの年間の排出量,移動量を算出し,2002年4月に所轄の都道府県知事へ届け出る必要が出てきます。
洗浄剤には色々なタイプがあり,洗浄工程(システム)も様々であり,その算出は一元的ではありません。そこで,具体的算出に当たっては,よくわかる「洗浄のPRTR対策」排出量,移動量の算出マニュアル(日本産業洗浄協議会編著,日刊工業新聞社発行)の中に洗浄剤別排出量,移動量の算出方法の記述があり,ぜひ参考にしていただきたいと思います。
Q3 大気環境保全問題への取り組みの現状はどうなっていますか。
A3
大気環境保全問題には,広域的大気環境の大気汚染防止及び地球規模の大気環境問題である成層圏オゾン層破壊と地球温暖化等の問題が挙げられます。
大気汚染防止法では,ばい煙(NOx等),粉塵,特定物質,自動車排ガス等が対象になっています。
特定物質では表3に示す通り,優先取扱物質,自主管理物質および指定物質を定めており,国や地方自治体が規定する環境基準を遵守する必要があります。
表3 有害大気汚染物質
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洗浄関連では,トリクロロエチレンおよびテトラクロロエチレンが指定物質に挙げられており,各種の基準値が定められています。一方,ジクロロメタン(塩化メチレン)は,環境庁において指定物質に追加する動きがありましたが,まだ追加されていないようです。
成層圏オゾン層保護問題では,1988年5月20日にオゾン層保護法が制定され,国家および産業界が一致団結したことで,脱エタン,フロン対策として,1995年末生産全廃を達成し,洗浄現場における転換も完了に近づいています。今後は,代替フロンとして使用されているHCFC(2020年全廃)の早い時期での全廃を着実に実施することです。
地球温暖化問題は,1997年12月に京都で開催された気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で地球温暖化防止のための今後の具体的方策が「京都議定書」として採択されました。
現在の規制対象の温室効果ガスは,炭酸ガス,メタンガス,亜酸化窒素,HFC,PFC,SF6の6種類です。洗浄に関係するHFC,PFC,SF6の3つの化学物質は,1995年を基準年とし,2008~2012年の目標期間に基準年の94%(6%削減)に排出量を削減する目標です。現在,経済産業省を中心に各工業会が参画して,自主行動計画が作成されており着実に推進されています。
京都議定書は,国際的には遅くとも2002年までに発効させることが必要であり,締約国間で交渉が進められているのが現状です。
Q4 水環境問題への取り組みの現状はどうなっていますか。
A4
水環境に関係する法規制は,水質汚濁防止法および下水道法です。
水質汚濁に係わる環境基準には,人の健康の保護に関する基準(健康項目)と生活環境の保全に関する基準(生活環境項目)があります。
健康項目については,平成11年(1999年)2月に硝酸性窒素および亜硝酸性窒素,フッ素ならびにほう素(ただし,海域については基準値を適用しない。)の3項目が追加され,現在,カドミウム,鉛等の重金属類,トリクロロエチレン等の有機塩素系化合物,シマジン等の農薬など26項目が設定されており,それぞれに基準が定められています。
生活環境項目については,BOD,COD,DO,全窒素および全リン等の基準が定められています。
産業用の洗浄剤のほとんどは,これらの基準を遵守する必要があります。
一方,地下水汚染に関しては,昭和50年代後半からトリクロロエチレン等による地下水汚染が各地区に広がっていることが明らかになり,1989年より水質汚濁防止法に基づき地下水質の測定が開始されました。
平成12年(2000年)度「環境白書」には,平成10年(1998年)度の地下水質の測定結果が示されています。そのうち塩素系有機化合物のデータは,表4に示す通りであり,依然として地下水汚染の状況が続いていると指摘しています。
表4 平成10年(1998年)度地下水測定結果(有機塩素系化合物)
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Q5 ISO14001の認証のためにはどうすれば良いのですか。
A5
ISOとは,イソ,アイエスオー,アイソとも呼ばれており,ギリシャ語の平等・標準を意味するISOSに由来するもので,国際的には,アイエスオーが一般的な呼び方であり,国際標準化機構(International Organizaition for Standardization)の略です。現在,スイスのジュネーブに本部が置かれています。
1947年に,商品とサービスの国際的な交換を容易にし,知識・科学・技術・経済に関する活動において,国際的な交流を助長するため,国際的な規模の標準化とこれに関する様々な活動を発展・促進することを目的に設立された非政府間国際機関です。
ISOには,品質管理と品質保証に関する規格「ISO9000シリーズ」と環境管理に関する「ISO14000シリーズ」があります。
ISO9000シリーズは,欧州市場からの要請をきっかけに,企業の社内体制が規格に合致していることを監査機関から認証を受ける動きが,多くの企業へ広がっています。
ISO14001の成功の鍵は,企業経営戦略の一環として,経営者自ら認証取得の宣言を行うことが重要であると考えるべきです。認証取得の宣言を行うに当たって「なぜ認証取得するのかという理由を明確化すること」が重要であり,主要なポイントは以下の通りです。
(1)リスクマネジメントの一環として環境規制強化の対応。
(2)経営戦略の一環として環境調和型企業への変革を図る。
(3)環境マネジメントシステム構築過程を通じて経営変革,業務改善,社員の意識改革を実現する。
ISO14000シリーズは,国際的な環境問題への関心の高さと,産業界への影響の大きさから多くの議論がなされ,紆余曲折のうえ,1996年9月に発効されました。
ISO14000シリーズには,利用指針を含む環境マネジメントシステムの仕様書であり,認証/登録または自己宣言のために客観的に監査が可能な要求項目のみをまとめたスペック(仕様,ISO14001)と仕様の要求項目の補足的情報および仕様の誤解を避ける目的で作成されたアネックス(仕様の利用指針)からなっています。この中で,第三者機関による認証取得が可能なものは,ISO14001のみです。それ以外は,ガイドラインとして位置付けられ,ISO14001を運用する場合の参考あるいはISO14001を行う場合の指針として使われることが期待されています。
ISO14001の審査手順の概要を図1に示します。
図1 ISO14001の審査手順の概要 |
事業者は,環境負荷低減活動としてグリーン調達を進めており,今後も強化されてくるでしょう。
一方,ユーザー自身も環境への負荷の少ない商品の選択や環境配慮した企業の選択を強化してくるでしょうし,その判断基準としてISO14001認証取得のロゴマークもそのひとつといえます。
環境問題は,今後もますます厳しくなることが予想され,環境マネジメントシステムの構築は,社会的にも経営戦略のひとつとしても重要な問題になってきており,ISO14001認証取得する企業は,今後ますます増大して行くものと考えます。