大規模な設備機械に用いられる集中給脂装置(グリース供給装置)の特長と課題について教えて下さい。
解説します。
集中給脂装置とは,潤滑剤(グリース)を供給するポンプ,潤滑剤を給油個所へ分配供給する分配弁,機器と給油個所とをつなぐ配管および,それらを制御する制御盤とで構成されるシステムで,多数の給油個所に必要な潤滑剤を集中的に,かつ正確に分配供給できることを特長としています。
1. 大型設備に用いられる集中給脂装置
大型設備で主に用いられる集中給脂装置に並列作動複管式(非進行式)と直列作動単管式(進行式)の2種類があります。
(1)並列作動複管式(非進行式)
この方式は図1-Aに示す原理のもので,すべての分配弁のピストンが各々主管とつながっており,各々のピストンが相互に拘束されず作動するもので,2本の主管に交互に加圧・脱圧を繰り返すことにより給脂を行うシステムです。
このシステムの弱点は,分配弁のピストンが相互に拘束されることなく作動するため,背圧が高く給脂がされていない個所があったとしても,システム全体の動作に変化が起きないため,異常を発見しにくく,あたかも正常であるかのように運転されてしまうことです。しかし,一部に給脂ができない個所があったとしても,設備として運転を続けなければならないような特殊な場合はかえって都合の良い時もあります。また,分配弁は主管から分岐し,配置されているので給脂個所の増減を容易に行うことができるという点は本システムの長所です。
図1 進行式と非進行式の原理比較 |
(2)直列作動単管式(進行式)
この方式は図1-Bに示す原理のもので,分配弁内のピストンが順次作動(1段目のピストンが作動を完了しないと2段目のピストンが動き始めない)するよう構成されており,すべての給脂個所にグリースを確実に供給するシステムです。
このシステムでは,ポンプからグリースを送り出すだけで脱圧の必要がないので制御が簡単です。
このシステムは,背圧が異常に高く給脂できない個所があった場合,順次作動機構により系統全体が停止し警報を発します。したがって,ポンプ出口の圧力または,分配弁の動作を監視することでシステム全体を監視でき,給脂保証を得られる点が大きな特長です。こうした高い信頼性を持つ反面,配置後に給脂個所を増減するのが多少面倒なので事前の計画において十分な検討を行う必要があります。非進行式と進行式の特長を表1に示します。
2. 給脂装置の改善
給脂装置の回路設計は下記の点に留意して計画するのが望ましいでしょう。
(1)給脂量の適正化
大型設備用の給脂装置に対しては,給脂個所の多さもあって,連続で高速回転をする稼働率の高い給脂個所と,間欠または低速で動く稼働率の低い給脂個所とを別系統にし,給脂量の適正化を図ります。
(2)給脂の監視
従来,給脂の確認は,分配弁の動作を確認することで行っていました。これは経済的に有利であり分配弁の作動確認にはなりますが,給脂個所に潤滑剤が届いたことを確認することはできないため,配管の破損による給脂不足は検知できませんでした。最近の給油装置(オイル供給装置)では,給油個所の直前にセンサを設け,制御を行うことによって配管の破損によって起こる潤滑不足を未然に防止するモニタリングシステムも開発されており,なお,給脂装置用でも一部の設備で使用されています。
(3)メインテナンス
異常が発生した時,異常個所が見つけやすく,メインテナンスが容易にできなければ,生産効率の低下を招いてしまいます。非進行式は,詰まりに対して各分配弁のインジケータを全数確認しなければならず,集中警報がとりにくいので異常を発見しにくいようです。進行式では集中警報がとれるので,1台の分配弁を監視することで全体を監視でき,異常時には高圧になっている系統をたどることで異常個所を容易に見つけ出せます。
3. おわりに
今後,設備機械はますます自動化が進み,その構成も高度化・複雑化するでしょう。こうした高度なシステムを万全の体制で稼働させるには,給脂装置の高信頼化はもちろんのこと,メインテナンスおよび,オペレーションをバックアップする監視システムの必要性もさらに高まるものと考えられます。そして最適なシステムの実用化に当たってはメーカーおよびユーザーが相互の技術を総合することが不可欠でしょう。