工作機械の流体軸受について解説します。流体軸受は,潤滑流体膜を形成させるメカニズムの違いによって,動圧型,静圧型・複合型(ハイブリッド型)に分類されます。また,潤滑流体に,水,油などの非圧縮性流体を用いるものを流体潤滑軸受,空気,ヘリウム,炭酸ガスなどの圧縮性流体を用いるものを気体軸受と区分しています。
工作機械の流体軸受について
流体軸受が広く用いられていますが,性質などの理解が不十分です。各種流体軸受の原理や特長,応用例などをわかりやすくご解説下さい。
解説します。
流体軸受は,軸受すきまに潤滑流体膜を形成させるメカニズムの違いによって,動圧型,静圧型・複合型(ハイブリッド型)に分類されます。
また,潤滑流体に,水,油などの非圧縮性流体を用いるものと,空気,ヘリウム,炭酸ガスなどの圧縮性流体を用いるものとがあり,一般に前者を流体潤滑軸受,後者を気体軸受と区分しています。
1. 液体潤滑軸受
(1)動圧流体軸受
軸と軸受の相対すべり運動によって,潤滑流体膜に圧力(動圧)を発生させ,これによって負荷を支持する方式の軸受です。
この軸受の場合,動圧を発生させるためには,軸受のすきまの断面形状が,くさび形,ステップ形のように,非平行な形状になっている必要があります。
また,軸が静止している状態では,動圧が発生しないので,負荷を支持するような,潤滑流体膜は形成されません。そのため,動圧軸受は,定速度もしくは,一定範囲の速度で運動するものに用いられます。容易に高い剛性を得ることができますが,特性が相対すべり速度に依存するため,設計時に使用範囲を明確にしておく必要があります。
工作機械への応用としては,上記のような特性を生かし,研削盤の砥石軸などに使われています。
(2)静圧液体軸受
軸受外部より,あらかじめ加圧された高圧の潤滑流体をすべり面間に,強制的に供給することによって,潤滑流体膜を形成し,それによって負荷を支持する方式の軸受です。
このため,軸と軸受間に,十分な相対運動がなく,十分な動圧効果を望めない場合や,軸が静止しているような場合でも,潤滑流体膜が形成され負荷を支持することが可能です。
この性質を利用して,静圧軸受は,直線案内としても多用されています。
また,静圧軸受は,運動精度,回転精度に関して優れた特性を有します。これは,軸と軸受の間に形成される潤滑流体膜が比較的厚く,軸と軸受面の形状誤差の影響を緩和して,滑らかな運動を実現する働きがあるためで,この効果を「潤滑膜の平均化効果」と呼んでいます。さらに,軸受面における流体の絞り膜効果のため,優れた減衰性能をもっています。(この減衰性能は,動圧軸受も同様です。)
軸と軸受が,常に潤滑流体膜によって分離され非接触のため,軸受の摩耗は皆無で寿命は長い。しかし,油圧ユニットやコンプレッサなどの設備が必要となるため,コスト高になります。また,これら装置の,保守が必要となるため,動圧軸受に比べて多少手がかかる軸受であるといえます。
工作機械への応用として,超精密旋盤や研削盤の主軸,各種テーブルの精密案内面などに広く用いられています。
(3)複合型軸受(ハイブリッド型)
動圧軸受と静圧軸受の双方の欠点を補い,長所を生かすことを目的とした軸受です。
用途にもよりますが,起動停止時に軸受が必要とする条件を,静圧軸受で機能させ,高速回転時には動圧軸受の性能を利用します。
たとえば,円筒研削盤の砥石軸では,停止時に,軸と軸受が金属接触せず,起動時には,砥石車の大慣性負荷を回転させる時のベルト張力増大があっても,金属接触が起こらず,研削加工時には,定格回転数で,最大の剛性が得られるようにすることができます。
つまり,動圧軸受の特性を生かしたい用途において,起動停止時の安全性を確保し,軸受摩耗を防ぎたいときに,この軸受方式を用います。
(a)動圧軸受 軸受メタル外径とハウジングがテーパになっており,軸方向に軸受メタルを移動させ,弾性変形により,くさび形すきまをつくり動圧軸受を構成する。 |
(b)静圧軸受 供給穴より絞り回路を介してポケットに潤滑流体を供給。直進案内としても利用可。 |
(c)動圧軸受 動圧軸受に静圧用ポケットと供給穴をもたすことにより,静圧軸受を構成する。 |
図1 流体軸受の断面形状
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2. 気体軸受
気体軸受は,通常の潤滑油が使用できないような,つぎのような条件下で使用されることが多くあります。
(1)油による汚れが許されない時,
(2)低摩擦が必要な時,
(3)高周速が必要な時,
(4)発熱に制限がある時,
(5)油を使用できないような,高温,低温環境下
などがあげられます。
気体軸受も,流体潤滑軸受と同様に,動圧軸受,静圧軸受,複合型軸受がありますが,基本的な考えは同じです。ただし,気体には圧縮性があり,粘性が油の約1/1000と低いことから,いくらかつぎのように流体潤滑軸受とは異なる点があります。
(1)気体の圧縮性のため,負荷容量と剛性が低く大きな負荷が作用するような部分への使用には不向き。
(2)気体の粘性が低く,圧縮性を有することにより,減衰性が低い。
(3)流体潤滑軸受に比べて,粘性が低いため,高速回転時の発熱が極めて小さい。
以上のような性質から,気体軸受が応用される工作機械は,軽負荷の加工機械,ウェハーカッティング用主軸,鏡面切削加工機,小径ドリル加工などが多いようです。